プロローグ
仕事に魔法に恋に、あたたかいファンタジーを目指します。
気が向いたら、おつきあいくださいませ。
すいすいと船のように滑ってきたやわらかいそれから、そっと足を下ろす。
同じようにそれから下りた周りの人たちは、そのままなにかに吸い寄せられるようにまっすぐ進んでいく。同じように足を進めると、先には橋があった。
みな、迷うことなくその橋を渡っていく。
私の横を、何人もの人が通り過ぎていく。
でも私は、その橋に足を踏み出すことができなかった。
なぜだろう。
行くべきだ、とどこかがそう指示しているのに、行きたくない。
そのまま立ち止まり、動けずに立ちすくむ。進みゆく人たちの流れを崩していた。
かつん、かつん
橋の向こうから、音を立てて誰かが歩いてきた。
薄い霧で橋の向こう側はよく見えないが、その人は堂々と、橋の真ん中を人の流れと逆進している。
かつん、と足音は私の前で止まった。
「あんた、いきたくないのかい?」
上から、気の強そうな女の人の声が降ってきた。
「も一度訊くよ。いきたくないのかい?」
私は……
「私は、生きたい! 生きていたいです!」
少し間を置いて、ふん、と鼻の音が聞こえた気がした。
「そんなら、うちへ来な」
「……?」
「生きたいんだろ?」
私はぶんぶんと首を縦に振る。
「ただし」
女の人は続けた。
「働かざる者、食うべからず、だよ」
働けばいいんだ、と解釈する。
「返事は?」
「はいっ」
しっかりと返事をすると、女の人は「ついてきな」と周りの人たちの流れに逆らって、違うところへ向かった。
私もすぐさま、その背中を追った。