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第十二章 たった一人あなたのため

 アークライト城にやって来た時、ルイザはおとぎ話の世界に迷い込んだ気分だった。美しい城、綺麗なお姫様。そして、お姫様を護る素敵な騎士。

 カリム・ファーガソンは、金髪の、雄々しくてたくましい騎士だった。今日から、彼がルイザの上司になる。カリムとメリアが話している様子を見て、ルイザはそれだけで胸がいっぱいになった。まるで、物語の中の一ページのようだ。ルイザは、それを一番近くで観ていることができる。幸せな時間だった。

 ルイザの中に、小さな火がともりはじめたのは、いつの頃からだろうか。良く覚えていないが、確かなことは一つ。

 ルイザは、カリムのことを誇りに思っている。

 騎士として、上司として。

 そして、一人の男性として。

 カリムの横に立つ者として、恥じない自分でありたいと願っていた。

 そのためには、ルイザは優れた騎士でなければいけない。騎士として、騎士団の命令には絶対に従う。任務は必ず遂行する。

 そこに疑問をはさむ余地などない。全ては、カリムのため。

 ルイザが愛する、一人の男のため。



 カリムは長椅子の上に、そっとルイザの身体を横たえた。ここはメリアの執務室だ。この時間、この部屋に部外者が訪れることはまずない。騒ぎを大きくするのは好ましくないというウィルの助言に従って、カリムはレビンを連れてなるべく人目につかないようにしてここまで移動してきた。

「お水と、後は身体を清めるために湯を沸かしてまいります」

 ぐったりとしたルイザを抱きかかえたカリムの姿を見て、パメラはそれだけ言い残して部屋から静かに退出していった。こんな時、至極冷静なパメラの対応は有り難かった。レビンはここにやってきてからずっと、窓際に立って、ただじっと暗闇を見つめている。つい先程命を狙われたばかりだというのに、動揺している素振りは微塵も表さない。あるいはまだ、自身の周りで起きたことに実感が持てないでいるだけかもしれなかった。

 ルイザの近くに椅子を運んできて、カリムはどっかりと腰を下ろした。そうだ、慌てふためいたところで、なにか状況が好転するわけでもない。今は考えなければいけないことがたくさんある。メリアがパメラからの報告を受けてこちらに顔を出す前に、カリムは今晩までに何が起きて、何が起きつつあるのかを整理しておく必要があった。

 最初から、とにかく色々とおかしいところがある、とは思っていた。

 まずは、レビン王子という国賓こくひんが訪れるタイミングでの呼び出しだ。いかに騎士団にとってリゼリアが取るに足りない小国であったとしても、主催者であるメリア姫の警護担当を名指しで外させるような急用とは一体何なのだろうか。所用なら、従士であるルイザだけで十分に事足りるはずだ。どうにも、物事の優先度の付け方がおかしいとしか思えなかった。

 次に、カリムの父親である騎士長デイルの態度が、あからさまに奇妙だった。カリムが普段公務を果たしている際には、デイルはほとんど顔を見せることはしなかった。騎士団の者はそれぞれに職務を持っており、その担当範囲をわきまえて行動するのが常だからだ。それが今回に限って、デイルはカリムが騎士団領に向かう際に、わざわざ見送りのために顔を出してきた。まるで、カリムが確実にアークライト城を開けることを確認するかのように。

 そして最後は――ルイザだ。ここ数日のルイザの態度は、カリムの目から見てもおかしかった。騎士団の師弟として、果たして何年一緒に仕事をしてきていると思っているのか。従士の異変に気付かぬほど、カリムは上司として鈍感でも愚かでもないつもりだった。

「カリム・・・様・・・」

 か細い呼び声が聞こえて、カリムは思考の海の底から現実に帰ってきた。見下ろすと、ルイザの目がうっすらと開いている。ルイザはいつもならこんな、弱々しい姿を他人の前に晒すなんてことはしない。訓練ではどんなに木剣で打ちのめされても、闘志に燃えた瞳を向けてきた。そんなルイザが、カリムの前にあまりにも痛ましい姿と成り果てている。

 ルイザはもはや、存在そのものが消え入ってしまいそうなほどに感じられた。

「申し訳ありません、カリム様。任務に失敗いたしました」

「・・・任務?」

 カリムは自分の耳を疑った。今、ルイザは何と言った? 任務? 一体何の? まさか、騎士団の?

 カリムの顔に、幾つもの疑念が表情となって浮かんだ。ルイザは苦しそうにしながらも、ぽつりぽつりと語り出した。

「カリム様、私は、騎士長様より、極秘の任務を仰せつかっておりました」

「極秘・・・私があずかり知らない任務だというのか?」

 ルイザははっきりと首肯した。

「はい。カリム様が騎士団領に呼び出されたあの時、騎士長様は私にのみ特別な命を与えておりました」

 なんだそれは。

 カリムの知らない間に、カリムの従者であるルイザに、指示が出されている。それも、カリムの父親である騎士長デイルから直々の密命が。

 身体の震えを、カリムは抑えることができなかった。なんだそれは。そんな密命、カリムは聞きたくなかった。聞けば、もう逃げられなくなる。今までのカリムと、ルイザではいられなくなる。歯の根が合わない。従士の前で、情けない。カリムは、騎士だ。栄光ある白銀騎士団の騎士だ。

「私は」

 ルイザの言葉が、遠くから聞こえてくる。やめてくれ。カリムは、それ以上は聞きたくなかった。知りたくない。これ以上は、知ってはいけない。

 ルイザ、お願いだ。カリムは声が出ない。出せない。ルイザはカリムの意志に反して。

 全ての核心を、その口から吐き出した。


「私は、帝国の間者に扮し、リゼリア王国第三王子レビン殿下を、暗殺するように命じられたのです」



 帝国は、ここのところ急速にその勢力を弱めていた。原因は幾つかあるが、その内の最たるものが、一年前のあの戦い、ウィル・クラウドの義勇兵団を相手にした敗北だった。

 あの敗北は、帝国にとってはただの歴史的敗北では済まされなかった。被征服民たちによって構成された部隊の反乱。その波はあの一戦に留まらず、今や帝国内部では各地で反乱の火の手が上がり、帝国軍はその鎮圧に躍起やっきになっていた。

 騎士団の入手した情報によれば、もはや帝国はその版図の半分以上を維持することがかなわなかった。北方への侵略どころではない。むしろ、帝国としての体制が、根幹から揺らぎつつあるとのことだった。

「このままいけば、帝国の北方への侵略は、しばらくどころか、永遠になくなってしまう見込みだそうです」

 戦争がなくなる。それは、世間一般的には良いことなのかもしれない。しかし、騎士団にとっては事情が異なる。騎士という軍事力を提供することを生業なりわいとし、北方をまとめ上げることに尽力している騎士団において、帝国の軍事的脅威の消失は死活問題だった。

 現に、北方連合の話は、騎士団を中心とした軍事連合の話から、経済中心の連携の話に移行してきてしまっている。北方の新秩序の中で、このままでは騎士団はその存在感を完全に失くしてしまうだろう。

「そこで騎士長様は、帝国の脅威が未だ北方を脅かし続けていることを、各国に知らしめたかったのです」

 弱体化しているように見えても、帝国は北方の国々への侵略をあきらめてはいない。そういった認識が芽生えれば、騎士団への依存度は再び高くなるだろう。

「騎士長殿が・・・父上がそのように判断されたのか」

 カリムは愕然がくぜんとした。騎士団の目的は、帝国の脅威から北方の国々を護ることではなかったのか。それが、いざ帝国の侵略がなくなろうとした時に、騎士団の存在を保つために帝国の健在を誇示しようとするなど。

 なんと愚かな。まさしく本末転倒ではないか。

 そして、そのくだらないはかりごとのために。

 ルイザに人を、王族を、一国の王子を暗殺させようとしたというのか。

「リゼリアは小国、その第三王子が死んだところで、国勢に影響は少ないだろうと。むしろ、打倒帝国の機運が高まるであろうとのことでした」

 ならば、殺しても構わないとでも言うのか。王子を殺して、帝国のせいだと声を上げて。そうやって勢いを得て、騎士団は一体何をしようとしているのか。

「馬鹿げている!」

 カリムは声を荒げた。騎士団が必要とされない平和な世界が来るのであれば、それで良いではないか。騎士団が騎士団であるためだけに、わざわざ火種をいてどうしようというのか。帝国が滅びる。めでたいことじゃないか。

 それを、自らの手を汚して、帝国の責任だと吹聴ふいちょうして。

 騎士道とは、そのようなものであったのか。

「そんなことのために、ルイザ、お前は暗殺に手を貸そうとしたのか」

 カリムはルイザに詰め寄った。胸ぐらをつかみ、真っ直ぐにその眼を見る。そんな命令に、何故唯々諾々(いいだくだく)と従ったのか。何一つ疑問に思うところはなかったのか。

「カリム様、私は」

 ルイザの目に涙が浮かんだ。その瞳には、カリムの顔だけが映っている。カリムは息を飲んだ。


「私は、カリム様のために、この任務を受けました」


 帝国の力が未だ健在となれば、その最前線であるアークライト王国では騎士団との強い繋がりが要求されるだろう。北方連合を、騎士団と共にアークライト王国が主体となって引っ張っていくには、何よりも目立つシンボルが必要になる。

 アークライト王国と、騎士団の繋がりを示す象徴。


 騎士団を代表する男カリムと、アークライト王国第二王女メリアの婚姻。


 間違いなくその結婚が望まれ、推奨されることになる。

「馬鹿な! お前は、そんなことのために」

「そんなこと、ではありません!」

 ルイザはカリムに向かってまくしたてた。

「私は、カリム様の想いを知っております。三年もおそばにいて、気が付かないはずもありません。私は、カリム様に幸せになってほしかった。メリア様と結ばれてほしかったんです」

 カリムの手から、力が抜けた。ルイザは長椅子の上にぐったりと横たわると、嗚咽おえつを漏らし始めた。

 お姫様は、お城の騎士と結ばれて、幸せになる。

 おとぎ話のような、明るい結末。ルイザが求めていたのは、そんな子供じみた夢。

 そんなことのために、人を殺して。嘘をついて。

 そこまでして、カリムをメリアと結び付けて。

 それで。


「そんなはかりごとが、まかり通って良い道理はなかろう」


 ばん、と奥にある続きの部屋の扉が勢いよく開け放たれた。白金プラチナの髪が、燭台の灯りを受けてきらきらと輝く。ずかずかと大股にカリムの方に歩み寄ってくるメリアは、深夜であるというのに少しも乱れたところを感じさせない。アークライト王国の第二王女。メリアはその威厳たっぷりに、カリムとルイザの前で仁王立ちした。

「ルイザ、正直に言ってみたまえ。君はひょっとして、この暗殺に失敗した時の手順についても、何か指示を受けているのではないのかね?」

 メリアの登場に圧倒されてしまっていたカリムは、はっとしてルイザの方に向き直った。そうだ、実際にルイザはレビンの暗殺に失敗した。たとえカリムの横槍が入らなかったとしても、あの場にはウィルもいたのだ。素直にことが運ぶ可能性の方が、確率としては少ないだろう。騎士団の、それも騎士長ともあろう者が、まさかそんな出来の悪い計画を強行させるとは思えない。

 メリアの言葉に、ルイザはしばらく押し黙っていたが。

 やがて覚悟を決めたのか、部屋中に聞こえる、はっきりとした声で言い放った。


「はい。私はカリム様に、帝国の間者として処刑される手筈てはずとなっています」


 ルイザが何を言っているのか、カリムにはまるで判らなかった。

「この話は、アークライト城の中でも極限られた者しか知らない話です」

 ルイザが、帝国の間者、密偵で。

「カリム様は、私が帝国の間者であることを今まで見抜けなかったが、ここで正体を知り、処刑する」

 カリムが、ルイザを処刑して。

「帝国の者が、警護の中まで紛れ込んでいる。そう思わせられれば、騎士団は北方の各国に対して強く干渉していけます」

 それで、どうなるって?

「カリム様、ピンチはチャンスです。今ならまだ間に合います」

 ルイザが、ぐいっと上体を持ち上げた。白い咽喉元がカリムの目の前にさらけ出される。


「さあ、私を殺してください。騎士団のために、メリア様と結ばれるために」


 ふらり、とカリムは立ち上がった。ルイザが、そうしろと言っている。すらり、と剣を抜いた。銀色の光を、朦朧もうろうとした意識で見下ろす。この剣で、ルイザを処刑する。

 ルイザが死ねば、この秘密を知る者はカリムと、騎士団の一部の者だけ。カリムは騎士としての立場も失わず、メリアの横にいて、共に打倒帝国の旗手となる。

 世界は平和に向かいつつある。帝国との戦いなんて建前になる。穏やかな時の中で、カリムはメリアと結婚して。

 一緒に、アークライトの城で暮らす。

 ルイザの首元に、切っ先を向ける。少し力を込めて、押すだけで。

 ルイザの命は消える。このたくらみが外部に漏れることも、なくなる。

 カリムの脳裏に、いつかルイザと観た劇の内容が思い出された。

 悪が倒されて。正義の騎士が、お姫様と結ばれる。メリハリのない、騎士におもねった脚本家の書いた、つまらない劇。

 ルイザは目を閉じて、じっとしている。どうして。カリムを信じて、ぴくりとも動こうとしない。何で。


「ふざけるなっ!」


 カリムは剣を投げ捨てた。石の床に当たり、乾いた音が反響する。驚いて目を開けたルイザの身体を、カリムは力の限り強く抱き締めた。

「カリム様?」

「お前は、お前は何を言っているのだ」

 ルイザを殺して。

 メリアと結ばれて。

 カリムに、一体何が残るというのか。

 今この手の中にあるルイザを失ってまで。

 そこまでして、何が欲しいというのか。

「私のためだと言って、お前に暗殺までさせようとして、その上私にお前を殺せなど、できるわけがないだろう!」

 カリムのために、王族に刃を向けようとしたルイザ。

 カリムのために、命を投げ出すと言い出したルイザ。

 ルイザにそこまでさせた責任は、カリムにある。この娘を、ここまで追い詰めて。苦しめて。

 カリムは今、何をしようとしたのか。

 なんと恐ろしい。なんとおぞましい。

 剣を握っていた自分が、信じられなかった。立場を、騎士としての自分を護ろうとしていた自分が、たまらなくみにくかった。

「カリム様、お願いです。騎士団のために」

 ルイザがまだ、そんな言葉を繰り返していた。ルイザの肩をつかむと、カリムはルイザの目を今度こそ真っ直ぐに見つめた。

「騎士団などどうでもよい!」

 ひっ、と咽喉の奥で声を出して。

 ルイザの身体から、何かが抜け落ちた。カリムは、自分の目の前にいるのが、まだ幼い少女なのだと知った。ただかたくなに、ひたすらに。自分の信じるもののために、周りも見ずに突き進んでいく。かつてのカリムと同じだ。カリムは、今度こそ間違えてはいけない。

「ルイザ」

 先ほどとは違い、カリムはルイザの身体を優しく抱いた。柔らかい。そうだ、ルイザは女性だった。赤毛が美しい。顔をうずめたくなる。手の中にある温もりが、とても心地良い。ああ、どうして気付けなかったのだろう。

 ルイザが、こんなにも愛しいということに。

「私はメリア様に先日申し上げた。自分の気持ちに正直であってほしいと。今、私は同じことをお前に言う。ルイザ、自分の気持ちに正直であれ。お前は今、どうしたい?」

「私、私は」

 カリムに抱かれて。

 ルイザの中で、色々なものが溶け出していた。レビン王子を殺そうとしていたこと。メリアの気持ちを無視して、カリムと結び付けようとしていたこと。カリムを騎士として立てるために、自らの命を捧げようとしていたこと。

 カリムがルイザのことを、優しく抱き締めてくれて。

 その全部が、形を失って崩れ去ってしまった。もう、何もかもが意味を持っていない。カリムが、ここにいてくれている。ルイザに生きてほしいと望んでくれている。ルイザは。ルイザが望むのは。

 ルイザは。


「私は、カリム様のおそばにいたいです」


「心得た」


 カリムは静かに、だがはっきりとそう応えた。

 その言葉を聞いて、ルイザは泣き崩れた。子供のように、大きな声を出して泣いた。



「なるほど、事情は判りました」

 ここまで黙って成り行きを見守っていたレビンが、得心がいったというように大きくうなずいた。暗殺というただならぬ事態であるのにも関わらず、レビンはここまで無暗に騒ぎ立てず、静かに経緯を見守ってくれていた。自らの命が狙われていたことが目の前で明らかになったというのに、流石は一国の王子というべきか。

「ご無礼をお詫びいたします。アークライトの城の中であるまじき行為。平にご容赦を」

 メリアが深々と頭を下げてみせた。湯と着替えを持ってきたパメラが、ルイザを奥の部屋へと連れていく。カリムはメリアとレビンに一礼すると、パメラと共に執務室から出ていった。部屋の中にメリアと二人で残されたことを確認し、レビンは大きく息を吐いた。

「メリア王女に落ち度はないでしょう。今回のことは騎士団のたくらみ。非があるとすればそちらでしょうが」

 レビンの言葉を受けて、メリアは顔をしかめてみせた。

「すっとぼけるでしょうね。現状ではまだ騎士団の力は強い。下手に突っつくと違う蛇が出てくる」

 騎士団が指示を出したという証拠など、何処にも残されてはいないだろう。問い質したところで、カリムとルイザが勝手にやったことだ、などと言い出すに決まっている。更に酷い予想としては、カリムとルイザを尋問のためにと騎士団領に連行し、そのまま人知れず始末してしまう可能性もある。

 何しろ北方の安定を身上とする集団が、小国のとはいえ王族の暗殺を企んだのだ。事情を知る二人を放っておくとは思えない。アークライト王国としても、安易に手を出せば火傷では済まないだろう。深刻、かつ微妙な事態だと言えた。

「一番良いのは、二人に代わる人身御供を立てることだ。このたくらみを影から操っている黒幕がいて、全てはそいつのせいだと立証できれば良い」

 メリアはそう言うと、ルイザが寝かされていた長椅子の背もたれにてのひらを乗せた。その表情は、どことなく晴れやかのようにも感じられる。メリアにしていれば、メリアのことを守る二人の護衛騎士を、そう簡単に手放すつもりなどなかった。騎士団の中で勝手なことをされて、メリアの大事なものを一方的に傷つけるなど、およそ許される行為ではない。正直なところ、メリアははらわたの底から煮えくり返る思いだった。

「しかし、そのような手が・・・」

 暗殺の失敗は、恐らく騎士団にはすでに気取られている。証拠の隠滅も着々と進んでいるはずだ。もし仮に、出来ることがあるのだとすれば、後はこの計画を立てた張本人を押さえるぐらいしかない。

 その場にいた一同の顔を思い返して、レビンはポンと手を打った。

「そうですとも」

 メリアは自信たっぷりの笑顔を浮かべてみせた。メリアに従う者は、何も騎士だけではない。もっと頼れる、そしてもっと頭の切れる人物がいる。その人物が今ここにいないのは、すでにそれを見越した行動を取っているからに違いなかった。


「ウィル・クラウド――私が最も信頼する、私の剣。彼がきっと、正義を成してくれるでしょう」

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