短編 容器と中身
3つのお題から作成したお話。
回収された物品を格納容器から慎重に取り出す。それを部屋の中央にゆっくりと置いた。
その物体は一つの面を除き何かしらの意匠が施されており、その独特のフォルムが何を意味しているのかはまだ理解出来ない。私はそのままの状態で助手――新任の彼女へと合図する。
古い瓦礫の下で発見された、いくつかの物品と数枚の紙片。それらの一次調査が我々に課せられた任務であり、彼女の初めての試験であった。試験の結果次第では次回の調査へ同行することも出来るだろう。しかし、今回の実験で何かしらのミスがあれば……。命の危険性が有ることも事前に説明していたが、彼女は「それは承知しております」とでも言いたげな表情で、実験への参加を申し出た。
出来る限り、その最悪な結末とならないよう私がリードしなくてはならない。単なる担当指導官としてではなく、新たなパートナーとなる可能性を失うわけにはいかないのだ。白い防護スーツ――異物の侵入を防ぎ、ダメージ箇所を分かり易くする為の服が正常に動作することを改めて確認し、実験を開始する。
まず、回収された紙片の内容を確認する。過去の調査結果よりある程度の解析は出来るものの、風化している箇所が多く、文字を断定出来ない。図で示されているものが実験対象とほぼ同じであることから、これは単独で稼働する物のようだ。
次に確認するべきは安全性だ。爆発物の類で無いことはスキャン結果から明白であるし、先程の紙片にも起爆用の何かが付いている様子は無かった。しかし油断は出来ない。衝撃により何かが作動することも考慮し、不用意な接触は控えた方が良いだろう。
だが、彼女の意見は違ったようだ。先程設置したそれを両の手で拾い上げると、自分の胸元へと抱えるようにして持ってしまった。当然、この様子を見守っていたクルー全員が危険だから離せとモニター越しに叫んでいる。私もそれには賛成だったが、出来る限り慎重に戻したまえと指示することしか出来ない。もし、落としたと同時に破滅的な何かが起これば、この狭い部屋などひとたまりもないだろう。その考えが私の行動を鈍らせていた。
実験開始時には聞こえなかった、規則的な動作音が発生している。それは明らかにその物体から聞こえており、彼女が手に持つと同時に鳴り始めていた。独断で行動することの危険性がまだ分かっていなかったのだ。
音と共に、表面の意匠の一部と思われた金属棒が彼女の方を向く。対象物へのセンサーが内蔵されている兵器だとすれば、触れたものへと攻撃するブービートラップの一種かも知れない。この状態では、手を離すという行為自体もトリガーとなりかねない。
最初に容器へ格納した時、そして部屋の中央に置いた時には何も反応を示さなかった。つまり、彼女が持つこと……何らかの思念波を読み取ることがキーとなっていたかも知れない。私の持つ知識を総動員するが、この後の最適な行動が思いつかない。
「実験の中止を提案します。」
私はモニターを通して提案する。
「却下だ」
恐らくこうなると予測していた。彼らからすれば貴重な実験結果であり、次回以降の教訓として何が起こるか見極めるという使命がある。似たような事例はいくつか見てきたし、聞かされていた。自身がその環境に置かれるとは思っていなかったが、この任務に就くという事はいずれこうなる事を意味していた。
金属棒がまた動いた。ここから見ると彼女の耳を指し示している。音を発する装置と耳に何らかの関係があるのか。微動だにせず指示を待つ彼女へ最後の言葉を聞く。
「後悔しているのか」
「いいえ」
「言い残したことはあるか」
「これを見て、この音を聞いていると、落ち着くようです。他に残すべき情報はありません」
言い終わると同時に何かが発射される。
反射的にシールド強度を高めると、彼女の手からそれを奪い取る。そして少しでも彼女から遠ざけるように、投げようとした。
何かの動物を模したものだろうか。発射されるのではなく一定の周期で動作を繰り返すそのギミックに、何の意味があるのだろうか。丁度十回動作すると、元の位置へと格納されていった。
ひとまず、元の規則的な音を出すだけの状態となったため、モニター越しに再度確認する。
「実験の中止を求めます」
「許可する」
「ありがとうございます」
再び容器へ密封すると、洗浄室とスキャンルームを通りモニタールームへ向かう。先に退出させた彼女が解析班に取り囲まれていた。
実験の内容と行動の理由について問いかけており、彼女は平然と受け答えしている。
翌日、私は別チームへと配属された。昨日の実験内容から適任ではないとされたのであろう。基地の窓から太陽が照りつける荒れ地を眺める。明るいうちにある程度の地域を捜索するのだから、人数は多い方が良いのではないか。自転の停まりつつある星の、全ての調査が完了する事を、私は祈った。
午後十時・部屋・狭い
を使ってなにか制作します。
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