勇者
「確か酒場で作戦会議と、そう言ってましたよね?」
「うん。そうだな」
あれから俺は勇者一行と共に作戦会議をしようと言われ、ついて行ったが酒場でやると、そう言ってたのに何故か領主の館の客間に俺達はいた。
「なら何故領主様の館に俺たちはいるんですかねぇ?酒場でやると言ってたのでは?」
「しかし領主からのせっかくの誘いを断る訳にはいかないだろう?」
あの後使者が来て1度館へお越し頂くように伝言を言われそのまま案内される形で今に至る。こいつが勇者じゃなければぶん殴ってやりたい。仲間たちも基本勇者に従うのか何も言わずにここにいる。てか女性ばかりじゃないか。別に悪く言うつもりは無いが見事にハーレム状態のパーティーになっている。
少し待つと客間のドアが開き、領主が現れる。この街は交易が盛んなので羽振りがいいのか豪華な衣装を纏っているが太ってるせいで服がはち切れんばかりになっている。痩せた方がいいんじゃないだろうかこの領主は。
「ようこそいらっしゃいました勇者様とその御一行。お目にかかれ光栄でございます」
「そんな堅苦しくしなくていいよ。早速だけどクラーケンが現れたみたいだね」
「左様でございます。先日いきなりクラーケンが現れましてな、子の海域付近にとどまって困っていたのです。そこで勇者様方が訪れたと聞き、助力頂きたく存じます」
「もちろん僕が来たからには安心してくれ。必ずやクラーケンを倒して見せよう」
「流石は勇者様!どうかこの街をお救い下さい」
なんて茶番じみてるんだ。当人達は本気でやってるんだから笑えてくる。まあ俺の事は気にしないだろう。
「ところでそちらの方は?冒険者のように見えますが、勇者様の新しいお仲間でしょうか?」
「いやこの街について気にかけていてね。一緒に戦うのを賛同してくれたのさ」
強引に引き込んだくせに何を言ってるんだこいつは。俺は面倒事に巻き込まれた一般人だよ。
「おおそれはありがたい!して名をなんというのだ
?」
「挨拶が遅れました、私は冒険者ヴィンと申します。勇者様には到底及びませんが、この街のため尽力を尽くします」
「うむ、くれぐれも勇者様の足を引っ張らぬよう頼むぞ」
冒険者だからか、あまり信用してくれないみたいだ。こちらとしても気にしないで貰えると助かる。
「よしそれじゃあ明日にはクラーケンを討伐する。絶対勝つぞ!」
「それでは今日はこちらで部屋をご用意させていただきます。今夜はごゆっくりしていってください」
このままお開きムードで終わるらしい。てか作戦会議は?結局やらないのかよ。とにかく疲れたから用意された部屋へ行こうとすると俺だけ止められた。
「申し訳ありません。ヴィン様の部屋がご用意出来ませんので、本日は街の宿をご利用ください」
「何で勇者様方は領主の館で寝泊まりするのに俺だけダメなんだ?」
「旦那様のご意向でございます。玄関はあちらですのでお帰りください」
どうやら領主は勇者だけを相手したいらしい。だがこの申し出はかえって好都合。有難く出ていかせてもらうとしよう
「それじゃあ勇者様に伝えてくれ。港で待つと」
「かしこまりました。勇者様にはそのように伝えておきます」
あの場にいても俺にメリットないしさっさと出ていくとしよう。明日大丈夫なのか?不安に思いながら宿を探しに行くのだった。