港町シーブル
港町シーブル。海に面してる街で海産物が特産品であるのと、交易が盛んな街だ。そのため船着き場やドックに様々な船が駐在してる。この街に来たのは海を渡って向こうの大陸へ行くことだ。今まで住んでた街、ターリアンからは大分離れたが万が一のことを考えて海の向こう側へと行こうとする。流石にそこまで行けば俺の正体が分かる人はいないだろう。
あの時アウロラが俺の事を覚えてた理由だが、恐らく魔法をレジストされたのだろう。たかがEランク冒険者だがたまたま知ってたのだろう。その程度の繋がりだったので魔法の効果も弱く、簡単にレジストしたのだと予想する。もう逃げ切れたので今更気にすることも無いが。
ともかく船着場へ向かうとしよう。出来れば今日中に乗れるとありがたい。それにしても暑い。吸血鬼になってから陽射しがうっとおしく感じるようになった。吸血鬼は強力である反面、弱点が多いことで有名だ。太陽の光もその一つで、当たった部分が灰へとなるらしい。俺は後天的になったせいなのか暑いと感じる程度で済むらしい。時間があれば一通り試した方が後々いいかもしれない。
そうこうしていると船着き場に着く。多種多様の船があり、その中の一際大きな船の近くで揉めている様子が見える。
「おいおい、しばらく船が動かせないたぁどういう事だ!」
「申し訳ありません。ただいま付近にクラーケンが出現しておりまして、現時点で出航するのは危険だと判断しましてですね」
「そんな事言われてもこちとら商品を積んでるんだ。早く運ばねぇと納品に間に合わないんだよ」
「しかし、無理に出航しますとクラーケンに襲われる可能性があるので安全のため別日にまたご利用ください」
運が悪いことにクラーケンが出没したらしい。あの商人も気の毒だが、俺も船に乗ろうとしてたので足止めをくらってしまった。これからどうしようか考えてると身なりのいい装備をした4人組が先程の揉めていた商人と乗船員に近づく。
「何やらお困りのようだね。魔物の事ならこの勇者である僕に任せたまえ」
「勇者様がいらっしゃるとはなんという幸運!しかし、勇者様といえどもたった4人でクラーケンに挑むのは少々厳しいのでは?」
まさかの勇者とはとんだ大物が現れたもんだ。1年前に聖国ユミルで選ばれ、様々な功績を立てたと聞く。人助けを信条としており、最近では山脈に巣食ってたドラゴンも倒すことに成功したらしい。普通ならありがたいが今の俺の状況だと少々まずい。ドラゴンもそうだが吸血鬼も討伐対象になってる。勇者に俺が吸血鬼だと知られたら地の果てまで追いかけられる羽目になるだろう。そうなる前にこの場から立ち去ろうとすると勇者から声が掛けられる。
「僕達はドラゴンをも倒したんだ。クラーケン如き敵ではないさ。まあそうだな、そこの君。冒険者だろ?僕と一緒にクラーケンを倒しにいこう」
よりによって俺かよ!クラーケンだけども恐ろしいのに、勇者もついてくるなんて悪い未来しか見えないので丁重にお断りする。
「申し訳ありませんが、私では力不足だと思うので、人手が欲しいのなら他の冒険者に声を掛けると良いでしょう」
「何を言う。僕と仲間には負けるだろうけど君からも強い力を感じるよ。力ある者は弱き者のために力を振るうものだ。共に戦おうじゃないか」
なんて面倒臭いんだこの勇者は。こっちはさっさとお前から離れたいんだよ察しろ。だがこれ以上は怪しまれるので仕方なしに協力する事にする。
「そこまで言われたなら、微力ではありますが助力致します」
「その意気だ!さあ世のため人のためクラーケンを倒そう!まずは酒場で作戦会議を行うとしよう」
とても面倒な状況になったとため息をつきながら勇者一行に着いていく。