異変
「うぅ…」
目を覚ますと孤児院に俺はいた。記憶にはないのだがどうやら無事に来れたらしい。あの吸血鬼に襲われたので無事だったわけではないが。ドアの開く音がしたので振り向くとそこにはリアがいた。
「目を覚ましたのねヴィン!玄関の前で物音がしたから見に行ったらあなたが倒れてたからびっくりしたわ。ひとまずここに休ませてたけど一体何があったの?」
「最近騒がれてる事件があるだろ。それの犯人に襲われてな、咬まれたが何故かそいつに殺されずに放置されてな。ここまで命からがら逃げ延びたのさ」
「それって大丈夫なの?傷は?首以外にはないの?」
「血を吸われた以外には特に何もされてないな」
あいつにやられた被害者達は死ぬまで吸われたはずだ。なのに俺だけが致命傷になるまで吸われてはいない。なんでなのかは分からないがとにかく1回体に異常がないか診てもらおう。あれからどれくらい時間経ってるのか分からないが医療所は空いてるだろう。
「とりあえず今から医療所に行ってくるよ。異常が起きる前に診てもらう事にするよ」
「そうした方がいいけれど、今は夜中だから医療所どころかどこの店も開いてないわよ」
「えっ。こんなにも部屋が明るいのにか?」
ここは日が当たりにくいが日が昇れば明るくなる。だから俺はもう朝だと思ってたのだがリアは夜中だと言ってる。こんな時に嘘をつく必要は無いし、だとすれば何故俺とリアの意見が違うのか。俺の体に起きた異変は原因はあの吸血鬼で間違いないだろう。だとすれば心当たりはある。しかし、ありえない。だが思い当たることと言えばそれしかない。
「もしかしたら、吸血鬼になったかもしれない」
「う、そでしょ?」
するとリアは信じられないような目で俺を見る。そりゃそうだ、ついさっきまで夕飯を食べてた奴が吸血鬼になりましたなんて信じられるはずがない。俺だってありえないと思っている。けど血を吸われ、得体の知れない魔法を使われた。これだけで吸血鬼になったと言うには充分だろう。
「残念ながら本当だろう。襲われた時、俺は謎の魔法を受けた。恐らくそれが吸血鬼に変える効果だったんだろうな。それに吸血鬼は夜も昼のように明るく見えるらしい。今の俺のようにな。信じたくはないがな。ははは」
自称気味に笑う。全く、俺の人生はあいつのせいで滅茶苦茶になった。今は吸血鬼生と言うべきかな
「でも、他の人は知らないんでしょ?それなら黙ってれば誰にもバレないように過ごせばきっと」
「いやそれは無理だろう。小さな村ならともかく、このは大きい街だ。当然魔物を入れないようにする結界もある。今は感知されてないがそれも時間の問題だろう」
「ならどうすれば?」
「だから俺はこの街を出る。もう戻ることもないだろう」
このままここにいれば俺が吸血鬼という事も知れ渡ってしまう。そうなれば俺だけでなくリアや孤児院の皆にも被害が出てしまう。それだけは何としても避けなければならない。
「待って!私が何とかするから!だからいなくならないでよ!」
リアは慌てて俺を引き留めようとする。匿ったらどうなるか分からないわけがないのに、なんとかしようとしてくれている。ありがたいが気持ちだけで充分だ。
「すまない。みんなのためにもそうするしかないんだ。だから俺のことは忘れてくれ、記憶消去」
「ひどいよ…ヴィン。私の前から~…いなくならない…でよ」
「…ごめんなリア」
言い寄られる前に魔法で俺に関する記憶を弄って改変した。これで俺を知ってる人からは俺の事は忘れるだろう。ビル達はどうでもいいが、リアは何をするかは分からない。もし引き留められたら俺は甘えてここにいてだろう。それは避けたいし迷惑をかけたくはない。だから俺の事は忘れさせるようにした。
後はこの街から出るだけだ。決心が鈍る前にここを出るとしよう。
「さよならだ。もう会うことは無い」
孤児院を出た俺は荷物をまとめるために拠点にしてる宿へ戻ることにした。