孤児院
「ご馳走様」
「お粗末さまでした」
「ヴィン!今日は泊まるんだろ?冒険者の話を聞かせてくれよ!」
「ごめんなアル。今日はもう帰らなきゃならねぇんだ」
「えーなんだよそれ。つまんねぇなー」
「アル、ヴィンは忙しいんだからしょうがないでしょ。夜も遅いんだしあと寝なさい」
「そうだぞアル。今度来た時は話してやるから夜更かしせずに寝な。大きくなんねーぞ」
「分かったよ。今度来たら絶対だからな!」
「おう、男の約束だ。だからまた今度な。だから後はお休み」
あの後孤児院に着き、リアの手料理をいただいた。手持ち無沙汰だったから手伝おうとしたら、「ヴィンはお客さんなんだから休んでて?」と言われたので、孤児院の子達と遊びながら過ごしてた。
最近は来てなかったからリアの料理を食べてなかったが、凄い美味い。家事も出来るし、良い奥さんになりそうだ。
「そんなに私の顔を見てなにかついてる?」
「なに、リアの作った料理が美味くてさ。良い奥さんになりそうだなと思ってね。リアを嫁に貰えたやつは羨ましいと思ってね」
「い、いきなり何言ってるのよ!私にそんな相手はいないわよ!それに、どうせなるならヴィンの奥さんに…」
最後の方ゴニョゴニョしてて聞こえなかったが、慌てふためいて持ってる皿を落としそうになる。普段はもっとしっかりしてるのだが、たまに様子がおかしくなるんだよな。そこがなけりゃ相手なんていくらでも見つかるだろうに、もったいない。
「そ、それよりも!今日は本当に泊まらないの?皆ヴィンが来て喜んでたのに。それに夜も遅いし、やっぱり泊まって行ったら?」
「流石にそこまでお世話になるのは気が引けるし、それに俺も一応冒険者の端くれだ。襲われても返り討ちにしてやるよ」
「それでも心配よ。それに夜に襲われる物騒な事件もあるみたいよ」
「それは俺も聞いてるよ。確かミイラ状態の死体が見つかってるんだろ?」
ここ1ヶ月急に起きた出来事で、主に女性や子供ばかり被害にあってるらしい。死体は全て干からびた状態で見つかってるらしく首には小さく穴の開いた痕が2つあり、特にそこがシワがれまるでそこから吸われたかのような状態だと聞いている。
「そうそう。北区はまだ被害は無いみたいけど、日が落ちる前に戻るように子供達には注意してるわ」
「それがいいだろうな。まあ事件が起きてから衛兵も見回りをしてるから大丈夫だとは思うが、用心しておいて損は無いだろう」
「私は子供達だけでじゃなくてヴィンのことも心配なのだけどね」
「まあやばかったら何とか逃げてやるさ。冒険者は命さえあれば何とかなるからな。あまり遅くなるのもあれだし、そろそろ帰るよ」
「本当に気を付けてね。何かあったら戻ってきても大丈夫だからね」
「リアは心配性だな。また今度夕飯でも食べに来るよ。じゃあな、飯美味かったよ」
リアに別れを告げ孤児院から出る。長居したからか辺りは真っ暗だ。ここら辺はあまり整備されてないからか灯りがない。何度もここに来てるから俺は分かるがここで迷う人もいるだろう。そんな事を考えながら帰り道を進むと人影が見えた。ここを通る人はあまりいないのだが、もしかしてこの街に来たかばかりの人か?孤児院で話した事件が頭に過ぎるが、北区に被害はないと聞いてるから違うのだろう
。だがこの時間に1人では危ないので、声をかける
「おーい大丈夫ですかー?」
とりあえず呼びかけるとあちらもこちらに気付いたようでこっちに近づいてくる。
「こんばんは。もう夜も遅いからあちらから来たのですが、何分初めて来た街なんですよ。ここは灯りがないので、迷子になってしまいました」
やはりここに来たばかりの人みたいだ。しかし、あっちに門なんてあっただろうか?ずっと東門から出入りしてるから知らないが、多分あったのだろう。ここは治安もあまり宜しくないので早く大通りへと案内するとしよう。
「それならあちらに行けば大通りへと出るので宜しければ案内しましょうか?」
「それはありがとうございます。貴方に会えてちょうど良かったわ」
それにしても来たばかりとはいえ最近騒がれているこの街に夜に、しかも1人でいるとは結構抜けている人なのかな?
「本当にちょうど良かったわ。こんな所に一人でいるなんて、不用心な子ねぇ。今日はこの子にしましょうか」
「ん?今なんて…「いただきま〜す」」
ガブッ!
「ぐうぅっ!」
瞬間、首筋から強烈な痛みが走った。何をされたのか分からないがこのままでは死ぬと本能で感じ、暴れて振りほどく。
「うぅーん、思ったよりも美味しいわぁ。と言うよりも今までで1番美味しいかも?」
そんな事をぼやきながら奴は口元の血を舐めとる。まさかこいつが例の事件の犯人か?
「最近は衛兵の目が厳しくなってきてね。血を飲めないせいでお腹すいてたの。そんな時に美味しそうな匂いさせてる子がいたんだもの。思わず吸っちゃった」
やはりこいつで間違いないようだ。しかし、血を吸う所を見るにまさか吸血鬼か?だとしたらまずい。いちばん弱い個体でもCランク冒険者がパーティーを組まないと勝てないくらいにはヤバい。勝てないのはもちろん、逃げれるかどうか分からない。
「ずっとだんまりだけど怖くなったのかしら?1度で吸いきって殺しちゃうのはもったいないし、奴隷にしちゃおっと。それ、奴隷化」
吸血鬼が魔法を使ったようだが、何も反応がない。よく分からないが今しか逃げるチャンスがない。死んでたまるかってんだ!
「あれぇ?なぜ聞かないのかしら?うぅーんまぁいいわぁ。眷属化」
だか1歩遅かったのか次の魔法を受けてしまう。金縛りにあったかのように体が動かなくなり、それと同時に意識が遠のいていく。
「こっちは効いたようね。なぜ奴隷化が聞かなかったのか分からないけど良しとしましょう。持ち帰るのは起きてからでいいわよね。どうせ何をしようが無駄なのだしねぇ」
そう独りごちると吸血鬼は空へ飛んでいく。なぜ放置されたのか知らないが逃げるなら今のうちだ。とりあえず孤児院まで歩…いて…
なんとか体を動かそうとするが麻痺効果もあったのか体が痺れ満足に動けないまま、俺の意識が途切れた。