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7 パーティーを探しました

 カウンターを離れたリオは、改めてギルド内部をぐるりと見渡します。木製の長テーブルに着き仲間達と相談をする者や、クエスト内容の書かれた紙が多数貼り出されたボードの前で腕組みをする者、床に置いた荷物袋の中身を覗き、改めて装備品の確認する者――などなど、多数の開拓者達の姿が確認出来ました。


 当然、その中には新たなパーティーメンバーを募集している者の姿もあります。リオはその内の一組、テーブルの近くに立って他の開拓者達へと声を掛けている三人の男達に目を付けました。


 三人組の一人は斧を、一人は弓を持っています。最後の一人は武器が見当たりませんが、白い包帯をしっかりと巻き付けた両の拳を見るに、おそらく素手での格闘戦を得意とする者のようです。あるいは、荷物袋の中に手甲や鉄爪――手にはめて使う類の武器を収めているのかも知れませんが、リオにとってそれは重要な点ではありません。


 要するに彼らは、魔術の使い手が不足しているパーティーと見て間違いない、と言う事です。それなりに扱える者がいるかも知れませんが、専門家がいる風にも見えません。魔術師は基本、魔術の発動をサポートする"杖"を主な武器に選ぶものなのです。


 しかも、前衛が二人に後衛が一人。ここにリオが後衛として加われば、実に戦力バランスの良い四人組が完成します。売り込むには、絶好の相手なのです。


 早速リオは、三人の男達の元へと歩いて行きます。リオの接近に気付いた弓使いの男が首を向け、声を掛けて来ました。


「あんた魔術師かい? もしかして、ウチらのパーティーに?」

「ああ、丁度パーティーを探していてな。等級ランクは四位だけど、どうかな?」

「お、良いねえ! こっちも丁度、魔術の使い手が欲しかったところだったんだ

よ!」


 斧使いの男が声を弾ませながら、リオの肩をパンパンと叩きました。予想通りの流れに、リオは内心で拳を握りました。


「それであんた、名前は?」

「ああ、リオってんだ」


「リオ? ……あんたまさか、リオ・リュンクスかっ!?」


 リオの名前を聞いた瞬間、両手に包帯を巻いた男が大きく目を見開き、驚愕の声を上げました。


「ああ、そうだけど」

「……? おい、こいつの事知ってるのか?」


「……ああ」


 怪訝顔で問う弓使いの男に、包帯巻きの男は静かに語り始めました。


「こいつはリオ・リュンクス。通称"七星(しちせい)の魔術師"。全部で七種類ある属性魔術

の、その全属性を使いこなす男だ」


「な……何だってっ!? 並の魔術師だったら、精々二〜三種類を使えりゃ上等って言う属性魔術を、全種類……っ!?」


「ああ。しかも、魔術のコントロールは正確無比。狙った場所へ針の先ほどの誤差もなく命中させるなんざ朝飯前だと聞いている」


「う、嘘だろ……っ!? んなもん神業じゃねえか……っ!?」


「それだけじゃない。その割に魔術の威力は絶望的に低く、ブルースライム一匹すらまともに倒す事も出来ないって話だ」


「ま……まさかっ!? 駆け出しの開拓者はおろか、一匹程度ならそこらのガキンチョですら棒一本で普通に倒せるって言う、あのブルースライムを……っ!?」


「無駄に保有魔力(マナ)量は多いから、魔力(マナ)切れになる事はまずないそうだが、だから何だって話で持ち切りだ。しかも、何とか活躍してやろうと無駄に出しゃばって魔物に挑み、結果ピンチに陥って仲間に助けてもらう……ってのがお約束らしいぜ」


「マジかよ……」


「戦力的にまるで役立たずなもんだから、あらゆるパーティーに入っては片っ端から追放されまくってるって噂だ。そのくせ、仲間のおかげでクエストそのものは何度も成功させて来ているから等級ランクだけは四位の、まるで実力に見合わない見掛け倒し野郎とも聞いている」


「凄ぇ……本当にそんな奴が……」


「……奴を知る者は口を揃えてこう言っている。『クソの役にも立たない魔術師』『ただの荷物』『むしろ奴を追放して荷物増やした方がよっぽど良い』『悪い事は言わんから、あいつは止めとけ』『あいつの魔術、宴会芸として使った方が良いんじゃね?』『七星の魔術師(笑)さんいつもお疲れ様っす』『つーか、何であいつ開拓者続けてんの?』『七星(笑)さん』『七星(笑)様』『七星(笑)』――」


「それが……それがこいつだって事なのか……?」


「そう言う事だ。……なあおい、そんな"七星の魔術師"が俺達のパーティーに入ってくれるって言ってるんだぜ? どうするよ?」


「……へへっ、んなもん決まってんじゃねーか!」

「ああ、異論を挟む理由がない!」


「……ふっ、決まりだな」


 男達が頷き合い、改めてリオへと顔を向けました。


「「「お断りします!」」」


「そのケンカ買ってやろうじゃねえかゴルァッ!!」


 爽やかに声を揃える三人組に、リオは飛び掛かりました。


 簡単にかわされ、リオはそのままテーブルの上へと頭から突っ込み、席に着いていた他の開拓者達から文句を言われました。






「ド畜生……何で俺だけ叱られんだよ……」


 ぶつくさと独り言を言いながらロビー内を歩くリオの元に、見覚えのある赤髪ツインテールの少女が近付いて来ます。リオはほんの一瞬考えて、ティエラと言う名前を思い出しました。


「あれ、リオ? まだいたんだ?」

「ああ……まあ、ちょっとな。……それよりお前、登録済ませたのか?」

「うん! ほらこれ、ボクのギルドカード!」


 そう言ってティエラは、懐から作成したばかりのギルドカードを取り出しまし

た。木製の下地に紙を丁寧に貼り付けたカードには、彼女の名前や性別、生年月日や管理番号などが記されています。カードの左上には、先程魔具(アーティファクト)を使って撮られたばかりであろう"顔写真"のティエラが、自信に満ち溢れた表情を浮かべておりました。


「おー、これでお前も開拓者になっちまった訳か。おめでとうと言うべきか、ご愁傷様と言うべきか」


 本土の"冒険者"もそうでありますが、ティルノア島の"開拓者"はかなりの危険が伴う仕事です。意気揚々とティルノア島へと上陸して来た者が、一週間後に物言わぬ姿となって本土へと戻って行く……などと言う光景も、決して珍しいものではありません。リオとて死に掛けた経験は一度や二度ではなく、ティエラの開拓者ギルド入りを手放しで喜ぶ気分にはなれませんでした。


「もー、折角の門出なんだから、もっと祝ってよー。……まあ良いか。それよりもボク、これから"お試しクエスト"ってのに出掛ける事になってるんだ」

「まあ、それが決まりだからな」


 ギルドカードを作成した駆け出し開拓者が次に必ず行わされるのが、通称"お試しクエスト"です。内容は単純で、ファインダの街の外に作られている小さな薬草園まで出向き、"癒やし草"と言うありふれた薬草を採って帰るだけの代物です。薬草園の位置もファインダの街の外壁に沿った場所にあり、ほぼ魔物に遭遇する可能性もなければ道に迷う心配もない、誰でも簡単に達成出来てしまうクエストなのです。


「そんな気張るような内容じゃないぞ。クエストの基本的な流れを確認するのが目的の、教習みたいなもんだから」

「そうらしいね。まあ、パパッと行ってすぐに戻って来るよ」


「迷うなよー」

「大丈夫だって。……じゃあ、行って来まーす!」


 ティエラはリオへと手を振って、元気良くロビーを後にしました。


「……んじゃま、俺もパーティー探しを続けるか」


 先程の三人組とのやり取りを頭から締め出し、改めてリオはロビー内へと視線を巡らせました。


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