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6 ギルドに到着しました

 ティエラを宿へと案内した、その翌日。


「……ん〜……」


 宿舎で一夜を明かしたリオは、朝を告げる教会の鐘の音で目が覚めました。布団代わりの外套をはぎ取りつつ、木の床の上から身を起こします。まだ重みを感じるリオの寝ぼけまなこに、窓枠に切り取られ宿舎へと差し込んだ朝日が部屋の空気をきらきらと輝かせているのが映りました。もっとも、輝きの正体は部屋に舞うホコリであるため、全く爽やかな気分にはなりません。


 リオは伸びをして一旦宿舎の部屋を出て、川まで降りて水を汲んで来ます。部屋に戻って自分のかばんをもそもそと漁り、古いパンを取り出しました。決して上等な朝食とは言えませんが、現在金欠中のリオにり好みする余裕などありません。すっかり硬くパサパサになったパンを、水で流し込みながら食べました。


 朝食が済んだら、ティエラとの約束を果たすべく、早速昨日の宿へと向かいました。






「あ、おはよーリオ!」

 リオが宿へと入るや否や、ティエラが大きく手を振って出迎えました。


「おはよう。つーかお前、朝っぱらから元気だな」

「うん、早起きは割と得意だからねボク。一時間程前から、こうしてロビーで待ってたんだ。朝食もバッチリ、準備もキッチリ。残った時間で軽く筋トレも済ませたし、身体も良い調子だよー」


「やる気あるなー」

「そりゃあ、開拓者としての一歩を踏み出す記念すべき朝なんだからね! ……それに昨日は、久々に普通の環境で眠れたし……」


「……お疲れ様でした……」


 船中で過ごした日々を光の失せた瞳で思い出すティエラに、リオは真心を込めて言いました。同時に、例えボロ宿舎に泊まっていようと、自由であるとはそれだけで尊い宝物なのだとも思いました。


「……まあそれよりも、さっさとギルド本部行こうか。これから開拓者としてやって行くんだったら、場所はしっかり覚えとくんだぞ」

「はーい!」


 勢い良く右手を上げ、ティエラは言いました。






 宿を後にした二人は、昨日通った道を逆に辿って行きます。リバ川に掛かる橋を渡り、宿舎とは逆の方向である川の上流側へと道を曲がってしばらく歩き、やがて開拓者ギルド本部へと到着しました。


 まだまだ朝と呼んで良い時間だと言うのに、入り口の扉をくぐった先にはすでに多数の開拓者達で賑わっておりました。


「ここがロビーだ。クエストを受ける時は、奥に見える受付カウンターに行くんだよ」

「おおー……人がたくさんだ」


「もう少し時間が経てば、今よりもっと集まって来るぞ。だから今日は混雑を避けるために、普段よりも早めに来たんだ」

「そうなんだ。……もしかして、気を使わせちゃった?」


「いや、俺も用事があるからな。ついでだよ」


 二人は人をかき分け、受付カウンターへと向かいます。


「パティさーん、おはようございまーす」

「あら、リオさん。今日は早いですね」


 パティと呼ばれた女――ギルド指定の濃紺色のスーツをピシッと着こなす、ブラウンの髪の妙齢の女性は、リオの姿を見ると洒脱しゃだつな微笑みを浮かべました。彼女はいわゆる受付嬢、正確に言えば"開拓者ギルド運営班"所属の受付担当者の一人で

す。


「はい。新人一人連れて来たんで、お願いします」

「ど、どうも初めまして〜」


 リオの後ろからひょこっと出て来た赤髪の女を、パティはまじまじと眺めます。


「あら、加入希望者ですか?」

「は、はい」


「でしたら、担当の者を呼びますので、少々お待ち下さいね」

 そう言ってパティは、カウンターの奥に控えている職員へと声を掛けます。


「じゃあティエラ、後は担当者の言う通りに手続きを進れば良い。そう言やお前、文字の読み書きは出来るのか? 出来なきゃ代筆も頼めるぞ」

「大丈夫、出来るよ。村で一通り習ってるから」

「そうか。……ああ、来た来た」


 奥からギルド運営班の男性職員が一人、登録用紙と筆記用具を手にやって来ました。


「ここまでありがとうね、リオ」

「おう、頑張れよー」

「うん、頑張るよー」


 そう言ってティエラは職員に案内され、ロビー内のテーブルへと移動して行きました。


「それで、リオさん。他に今日のご予定は? クエストに出るんですか?」

「……これからパーティーを探す予定です……」


「……パーティー探し……って、リオさん、また(・・)ですか?」

「……ええまあ、はい、また(・・)です……」


 パティに尋ねられ、リオは頷きました。


「これで何十回目ですか……。普通は一度パーティーを組んだら、そうそうメンバーの変更(・・)は行わないんですけどね……」

「言わんで下さい……」


 流石さすがに気を使って、"追放"ではなく"変更"と表現していますが、パティの言葉には呆れが半分、心配が半分の響きが込められていました。


 パーティーメンバーは必ず固定しなければならない、などと言う決まりがギルドにある訳ではありません。パーティーの離合集散は自由に行えます。パーティーに臨時のメンバーを加える事もありますし、他のパーティーメンバーと都合が合わないため、今日は簡単なクエストをソロで受ける……なんて事も普通にあり得ます。一度限りの即席パーティーを結成する事も、全く珍しくはありません。


 しかし、普通は一度ひとたびこのパーティーでやって行くと決めたのであれば、基本はそのメンバーでクエストをこなして行くものです。戦術の都合もありますし、円滑な意志疎通のために仲間内での信頼関係の構築も重要です。多少能力が劣っている程度でホイホイ追い出すなど、まともなパーティーであれば行いません。


 リオのように、能力不足を理由に様々なパーティーから何度も何度も追い出されるなど、相当なレアケースなのです。


「まあ昨日納入金払ったんで、当面はギルドに払うもんはありませんからね。次の納入金支払いまでにパーティー組んで、追放されないように頑張って、安定した収入を確保してやりますよ」

「その言葉、前にも聞いた気がしますが……まあ、無理せず頑張って下さいねー」


 意気込むリオに、パティはひらひらと手を振りました。


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