33 魔物を迎撃しました
魔物接近の報を聞き、リオ達以外のギルド所属開拓者達も各々武器を持って戦闘準備をします。一般作業員の中にも、現場に用意されていた自衛用の弩を手に取る者もいました。それ以外の者達も作業の手を休めて、魔物の襲来方角へとバリケードのように置き盾を設置して行きます。
「魔物がこっちに来るぞっ!!」
やがて、台上から監視員の大声が降って来ました。どうやら、突撃鳥との戦闘は避けられないようです。
「非戦闘員を安全な場所へと避難させろっ! 弓やクロスボウ、攻撃魔術が使える者は前へ出ろっ! 奴らが近付く前に迎撃するぞっ!」
自身もクロスボウを手に取りつつ、現場監督者の中年男性は周囲へと指示を飛ばしました。
「俺とシエロも迎撃に出るぞ。ティエラは近付かれた時に備えてろ」
「ああ」
「うん」
「で、マールは――」
リオが水を向けた時には、既にマールは物陰へと身を隠しておりました。
「…………」
「大丈夫っ、バッチリ任せて下さいっ! ここからいつでも負傷者の救助を行えるよう備えておきますからっ!」
「…………うん、まあ頼む」
確かに、指示しようとしていた事ではありました。実行に移すのが迅速過ぎるだけです。何か一言言ってやろうかと考えたリオも、結局そう口にするだけに終わりました。
そうこうしている内に、遠く平原稜線の向こうから突撃鳥達の姿が見えて来ました。数はざっと二十羽以上でありました。
「俺が合図を出したら、弓持ちとクロスボウ持ちは一斉に撃てっ! その後は任意射撃だっ! 魔術師達は魔術の発動準備を整えておき、敵が一定距離を割ったら攻撃魔術を撃てっ!」
クロスボウを構えつつ、現場監督者は声を張り上げます。相応に経験でも積んでいるのか、頼りなさなど微塵も感じさせない指揮ぶりでありました。クロスボウの構えも堂に入っており、ひょっとするとかつては本国の兵士なり開拓者なり、戦闘を生業とする職に就いていたのかも知れません。
突撃鳥達の群れが、どんどん接近して来ます。クロスボウ持ちの作業員の中に
は、明らかな緊張と恐怖の色が見受けられる者もおります。そう手強い魔物ではないとは言え、慣れない戦闘に戸惑っているのでしょう。ましてや相手は多数、地を叩く振動と音の圧力も馬鹿にはなりません。覚悟の上とは言え、クロスボウは"作業の合間に数十分の取り扱い訓練を受けている"程度の腕前で駆り出される彼らにとって、無理からぬ反応でありました。
一方で開拓者組――シエロ含めた弓使い達と、リオ含めた魔術師達は冷静そのものです。戦闘が本分である彼らだけにこの落ち着きは当然とも言えます。人数の上ではクロスボウ組に劣っておりますが、経験含めた技量を加味すればこの場の最大戦力の一組と言って良いでしょう。
一秒が一分に引き伸ばされるような焦れた空気が流れ、現場監督者の「まだだぞ……まだ待てよ……」と言う指示が流れ、突撃鳥達の群れがさらに接近し――
「――撃てっ!!」
現場監督者の号令と共に、ピンと張られた数十本の弦から数十本の矢が一斉に放たれました。
鋭く放物線を描く矢が、突撃鳥達へと襲い掛かります。
二十羽以上が一塊となって襲い来る魔物達の群れは、見方によっては"大きな的"とも言えます。距離が離れていた上に射手達の平均技量も十分とは言えませんでしたが、それでも数を頼みとした一斉射撃の数本に命中射が生じます。数羽の突撃鳥が矢に貫かれて転がり倒れ、後方を走る別の数羽が巻き添えを食って地面を転がされます。
弓使いは立て続けに次射をつがえ、弦を引き絞ります。対してクロスボウ持ち達は、次射の準備に若干の時間が掛かります。弦を引くためには巻き取り機――専用の滑車を用いなければならないのです。滑車のハンドルは相応に重く、普段力仕事に慣れている作業員達でもすぐさま巻き上げ完了、とは行きません。
弓使い達が二の矢を放ちます。本数こそクロスボウ持ちより少ないですが、戦い慣れしている彼らの狙いはより正確です。三の矢、四の矢と続く射撃の前に、正面から突っ込んで来る突撃鳥が一羽、また一羽と倒れて行きます。
特に、シエロの矢は全射命中でありました。細く長い腕が弦を弾くたび矢は流麗な軌跡を描いて飛び、突撃鳥達の胴体中心を獰猛に食い破りました。
「あの女、凄え……」
「この距離であの精度かよ……」
「頼もしいな」
クロスボウの巻き上げを行いつつ脇目で矢の軌跡を追っていた作業員達から、感嘆の声が上がりました。シエロの高い技量を目の当たりにし、戦闘経験の少ない彼らの心に『この場を無事に切り抜けられる』と言う安堵が生まれます。
クロスボウ組の準備が完了し、次射を撃ちます。先ほどより距離が縮まっている上、一発撃った事やシエロの技量への信頼など心の余裕が出来た事から、初撃よりも命中率は上でした。雨と迫る矢を前に、魔物はバタバタと倒れて行きます。
それでも、突撃鳥達はまだ三分の一ほど残っています。臆する気持ちを置き忘れでもしたかのように躊躇も逡巡もなく突撃し、彼我との距離を縮めて来ました。
「今だっ! 魔術で迎撃しろっ!」
一定距離を割り、現場監督者から次なる指示が飛びます。魔術師達が準備を整えていた魔術を次々に放ちます。
「下位火炎魔術!」
長身魔術師の放った火球が、一羽の突撃鳥を焼きます。爆ぜる高熱に身体を襲われ、魔物は動きを止めました。
「下位電撃魔術!」
銀髪魔術師の放った電撃が、一羽の突撃鳥を打ち据えます。走る紫電に体内を駆け巡られ、魔物は動きを硬直させて地面に転がりました。
「下位風塵魔術!」
褐色肌魔術師の放った風刃が、一羽の突撃鳥を切り付けます。鋭い刃に肉を裂かれ、魔物は悲鳴を上げて倒れました。
流石は魔術師です。下位級を使用した辺り低等級の開拓者なのでありましょう
が、それでも首尾良く魔物達の討伐、あるいは足止めを成功させております。
ならばここは上位級魔術の威力を見せ付けてやろうと、リオも後に続きました。
「上位閃光魔術!」
リオの放った光球が、一羽の突撃鳥の目を眩ませました。ランプくらいの光がぶつかり、魔物はそこそこ痛そうな素振りを見せました。それ以外、特にダメージはありませんでした。
「あの男、ある意味凄え……」
「上位級魔術を使ってアレかよ……」
「雑魚だな」
リオの魔術を目撃していた数人から、蔑みの声が上がりました。それと、憐れむような目も向けられました。
「残りは接近戦で仕留めろっ!」
現場監督者の指示に、ティエラ始め準備していた近接武器使用者達が飛び出します。射撃と魔術によって事前に数を大きく減らされていた突撃鳥はろくな反撃も出来ないまま、そのまま為す術もなく全滅しました。
「……終わったみたいですね……」
地に伏す魔物達の群れを眺め、一人の作業員が呟きます。
「そうらしいな。だが油断はするなよ。監視員は引き続き遠方の警戒を続けろ。開拓者達は死体の確認と回収だ。それと念のため周辺の捜索を行い、他の魔物が隠れていないか気を配れ」
気を抜く様子も見せず、現場監督者は言いました。
その後、魔物の全滅と周囲の安全が確認され、無事に作業が再開されました。




