20 マールが仲間になりました
「それにしても運が良いな。俺達のパーティーに、こんな好条件のメンバーが加入してくれるなんて」
新たにパーティーに加わったマールを伴い、リオとティエラは平原を進みます。
「荷物の心配をしなくて良いし、その上戦っても良し、回復させても良し。むしろ低等級とは言え、お前が今までフリーでいた事の方が驚きだ。どこのパーティーからも、引く手あまただっただろう。……ティエラ、バッタさんに用はないんだぞ」
「そんな、買いかぶり過ぎですよ。"何でも出来る"は、裏を返せば"中途半端"って事になりかねませんから。実際私の戦闘技術なんて、本格的に鍛え上げた代物じゃありませんし。単純にメイスを叩き付けるだけです」
「背中の大きなリュックサックを見る限り、結構な量の荷物を持ち運べる事だろ
う。肝心要の荷物持ちとしての役割は十分だ。その上で、腕力もロビーで試した通り。技術うんぬんを差し引いても、"ただ殴るだけ"で十分な攻撃力になるはずだ。……治癒魔術はどの程度使えるんだ?」
「一応、上位級ならある程度は使えます」
「上等じゃないか! 上位級の治癒魔術が使えるなら、大抵のクエストでは全く不安がない! ……ティエラ、ダンゴ虫さんにバイバイしなさい」
「それとですね、リュックサックは自前の魔術で内容量を拡張させています。ギルドバッグみたいなもので、見た目以上に荷物が入りますよ」
「本当か!? 空間拡張魔術と重量軽減魔術まで使えるのか!」
ギルドバッグは魔術によって内容量を増やし、同時に重量をある程度軽減させております。この魔術は術者が定期的に掛け直さなければ、効果を維持出来ません。効果が消えれば容積が元に戻り、詰め込んだ荷物が内側からバッグを突き破って外へと出てしまいます。
ギルドバッグの場合、ギルド職員が魔術の使用及び維持を行っておりますが、多数のバッグを魔術で拡張しなければならない都合上、一つ一つに掛けられる手間にはどうしても限界があります。対して個人で魔術を使用する場合、能力と裁量次第でどんどん拡張容量を増やす事が出来ます。
マールのリュックサックは見た目だけでもかなりの大きさです。その上さらに魔術で内容量を拡張させているとあれば、内部に収められる荷物の量も相当なものになるでしょう。通常の開拓者であれば、クエストへ持って行く荷物には悩まされるものです。少な過ぎては不安が残る、持ち込み過ぎても重くて移動に難儀する上、入手素材を持ち帰れなくなる……と言った具合に。しかしマールがパーティーにいてくれれば、その悩みがほぼ解消される事になるのです。
「凄ぇな! 中途半端どころかマール、お前はむしろ天才だよ! 何をやらせても一級品の戦力になるだなんて!」
「いやー、そんなそんな。褒め過ぎですってリオさん」
「謙遜するなって! 頼りにしてるぜ!」
「あっはっは。まあ、私に任せて下さいよ。荷物の持ち運びから怪我の治療まで、このマール・ディッチャが見事に」
「――珍しいテントウ虫捕まえたぁ――っ!!」
「ちょっと油断してたらすぐこれだよこのツインテ娘はぁっ!!」
二人の会話を大声でぶった斬り、野原と戯れた成果を高々と掲げ、ティエラが深い草むらの中から勢い良く飛び出して来ました。
「……あ、いたいた。もー、探したよリオ。勝手に変な場所に行っちゃ駄目じゃない」
「草むらから出て来た奴に最も相応しくないセリフだよっ!! 大人しく俺達の後を付いて来いって言っといただろうがっ!!」
「うん。ちゃんと付いて行ってたよ。ただちょっと、白と黒が入り乱れてる変わった模様のテントウ虫を見付けてさ」
「"マーブルテントウ"なっ!! 確かにティルノア島の固有種だけどなっ!! お願いだからそう言うのはクエスト受けてない時にして頂けませんかねぇっ!!」
「あ、これお土産ね。リオとマール、それぞれに一輪ずつ」
「嬉しい! のどかな草原に揺れている、名前も知らない黄色いお花さんだ! お前の生まれた村は、『クエスト』と書いて"ピクニック"と読ませる特殊な教育でもしてんのかっ!!」
荒ぶる口調とは裏腹に、お花さんは優しく受け取ると言う、中々に器用な真似を行うリオでした。
「全く……そんな調子で、また迷子になっても知らないぞ。……すまんな、マー
ル。こいつはちょーっとばかり、注意力散漫な――」
言いながら隣を見ます。
すぐそばにいたはずのマールの姿が、いつの間にか消えている事に気が付きました。
急いで周囲を探して見ると、リオの後方にある、岩の裏から、チラチラとこちらの様子を窺うマールの顔を見付けました。腰くらいの高さの岩陰へと押し込めるよう小さく身をかがめていますが、背中の大きなリュックサックは全く隠れてはいませんでした。
「……あの、マールさん?」
「何ですかリオさん。急に敬語になって」
「……何故にまた、そんな俺達から離れた場所にいらっしゃるのでしょうか?」
「偶然です」
「……何が?」
「偶然です」
そそくさと隣に戻って来たマールが、何事もなかったかのように言いました。
「一体どうしたんですか? 別に何でもありませんよ? 急に現れたティエラさんに驚いたとか、魔物と勘違いして防御行動に出たとか、まさかそんな風に見えましたか?」
「いや、別に。……そうか。何でもないのか」
「そうです。何でもありません」
「なるほどな。良く分かったよ。それじゃあこんなところで立ち止まらずに、さっさと行こうか。…………なあ、ティエラ」
「何?」
「何でだろうな。どう言う訳だか俺は今、もの凄いハズレを引き当てたかのような気分が湧き始めているんだ」




