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18 朝になりました

「ほらリオ、そろそろ朝の鐘が鳴る時間だよー。起きて起きて」

「んあ……」


 ティエラに身体をゆさゆさと揺さぶられ、リオは目覚めました。


「……もう朝か。おはよう」

「おはよー。今日も頑張ろうね」


 寝ぼけ(まなこ)をこすりながら身体を起こすリオに、全く眠気を感じさせない調子でティエラはにっこり笑いました。


「ティエラ、良く眠れたか? 体調は問題ないか?」

「うん。流石にちゃんとしたベッドの後だと、身体痛く感じるけど……まあその内慣れるでしょ」


「そうか。何かあったら遠慮なく言えよ」

「大丈夫だって。ありがとう、リオ」


 ちょうど二人の会話が終わる頃を見計らったかのように、教会の鐘が朝の澄明ちょうめいとした空気を震わせます。二人の耳から余韻が遠ざからない内に、宿舎の薄い壁越しに他の開拓者達が目覚める気配がちらほらと伝わって来ました。


「……って、何だよ。お前、六時前に起きてたのか」

「ここ時計がないから分からないけど……大体一時間前には起きてたよ」


 アラケル王国及びティルノア島において、時計自体はそこまで珍しいものではありません。一般家庭の柱にも掛かっているところが見られますし、通行人が道端で懐中時計を取り出して盤面を覗く姿も、取り立てて気を引くような光景ではありません。が、同時に所有していない者の存在も決して珍しくはありません。


 教会の鐘は、時計を持っていない街の人々に――もっと言えば、時計と言うものが一般に広まる遥か以前の時代から、人々に対して"時刻を知らせる"と言う役目を担って来たのです。


「早起きだな」

「朝食前に軽く運動するのが日課なんだ。起きてから川まで降りて、顔洗って水飲んで、軽く身体動かしてから今戻って来たところ」

「……どうやら、迷わなかったみたいだな」


「ボクを馬鹿にし過ぎだよー。まだ薄暗いとは言え宿舎から川見えるし、川からも宿舎見えるでしょ。見えてる場所まで行って戻って来るだけなんだから、迷いっこないって」

「まあ、それもそうか」


「元の部屋へ帰るのも、総当たりで何とかなったし。部屋の数がそこまで多くなかったのは幸いだったよ」

「そうだよな。部屋の入り口、川からじゃ見えないもんな。それを"迷った"って言うんだよ。隙あらば迷子になるなお前」


「も、戻れたんだから良いじゃん。ほらほら、リオも顔洗って来なよ」

「はいはい」


 呆れつつ、リオは言いました。






「それで、今日はどうするの?」

 昨日の内に買っておいたパンをかじりながら、ティエラは尋ねました。


「昨日はあまり消耗していないから、今日もクエストに出る予定だ。詳しい事はギルドに行ってから決めるが、やはり日帰りでこなせるのを受けたい」

「昨日と同じようなの?」


「あるいは、グリーンスライムよりも強めの魔物だな。昨日の戦闘で、お前の腕前は開拓者としてやって行くのに十分だと分かったからな。まだまだ勝手の分からないところもあるだろうから、いきなり難易度の高いクエストを受ける訳にも行かないが……。焦らず少しずつ、報酬の多いクエストを受けて行こう」

「パーティーはどうするの? やっぱりボクとリオ、二人のまま?」


「一応そのつもりだ」

 リオは頷きました。


「人数が増えるなら、それに越した事はないけどな。ただまあ、普通はあんまり(ラン)()が離れた者同士でパーティーを組む事は少ないからな。クエストには等級ランク制限があるから、低等級(ランク)者がいると高等級(ランク)者にとってちょうど良い難易度のクエストが受けられなくなる。逆に低等級(ランク)者にちょうど良いクエストは、高等級(ランク)者にとって報酬的に物足りない。お互いの都合が合わないんだよ。……つまり、等級(ランク)が高い奴がわざわざ俺らのパーティーに――駆け出し冒険者が混ざっているパーティーに加わってくれる可能性は低い」


「昨日の……確かアルヴィドって人と、ハリーさん達は? だって、アルヴィドさんも最近開拓者になったばかりなんだよね? 以前から開拓者やってたハリーさん達が組もうって思ったのは何でだろ?」


「ハリー達の等級(ランク)は"五位"だからな。二つ下の等級(ランク)七位は、一応選択肢には入る。将来性を取ったと考えれば、別に不自然な事じゃない。俺がお前と組もうと思った理由と似たようなもんだろ」


「なるほど」


「開拓者になったばかりの奴は、同じ初心者同士でパーティーを組む事が多い。だから、お前が他の初心者を誘えば加わってくれる可能性は高い。が、その場合ぶっちゃけ俺の都合に合わん。お前と新メンバーが脱・初心者を果たす前に、俺は資金難に陥る可能性が高い。最悪上納金が支払えなくなるかも知れないし、第一俺に初心者の指導なんて、お前一人だけで手一杯だ。二人以上の面倒を見る自信は全くないし、流石にそこまで尽くす事は出来ない」


「ふんふん」


「要するに、今の俺達じゃメンバーの選択肢が限られて来る。俺らにとっても相手にとっても条件が合うってのは、そこそこ都合に恵まれる必要があるからな。今のところ、積極的にパーティーメンバーを募集するつもりはないな」


「そう言う事なんだ。リオも中々パーティーに入れてもらえなかったくらいだし、メンバー探しも大変なんだね」

「…………おいこら。俺がさり気なく遠ざけようとしてた事実に、それとなく触れようとするんじゃない」


「いやだって。そこはかとなく、メンバー募集しない理由の全責任ボクに押し付けとこう的な気配を感じたから。一応牽制しとこうかなー、と」

「絶妙な一手だよ畜生っ!」


 この場で明言しておきますと、『リオの魔術が弱過ぎるので、加入を断られる可能性大』と言う事です。


「……まあとにかく、今のところメンバーを増やす気はないな。こっちに都合の良い相手が加わってくれるなら話は別だが……あんま期待は出来ないだろうな」

「うん、分かった」


「それと……お前ならまあ大丈夫だとは思うが一応。仮にパーティーへの加入を断るにしても、ちゃんと"断り方"ってもんがある。『等級ランクが釣り合わない』とか、

『前衛は足りている』とか、『必要な能力が不足している』とか、きちんと理由を説明するんだ」

「うん」


「説明をするって事はつまり、『お前では駄目な、正当な理由がある』『決してお前を不当に疎外している訳ではない』って事の証明になるからな。

そりゃあ開拓者なんて、口の悪い奴や喧嘩っ早い奴なんかも珍しくはないが、そんな奴らでもマトモであれば断る理由を説明する。


 無駄に角を立てないように、ってのもあるし、何よりも適当な対応のツケは自分に返って来るからだ。何だかんだで開拓者達の間には同業者仲間って意識がある

し、見てる奴はキッチリ見てるぞ。ぞんざいな理由で断ったり、理不尽な理由で追い出したりは、自分の知らないところで着実に信用を失う事になる。大抵の場合、気付くのは自分が苦境に立たされてからだ。タイミングとしては完全に手遅れ、後はお決まりの転落路線だ。


 戦闘能力ばっかに目が行って、こう言う部分で足下すくわれる奴も一定数いるからな。くれぐれも気を付けるんだぞ」


「はーい」


「よろしい。……んじゃまあ、そろそろ出るか」


 最後に一口水を飲み、リオは立ち上がりました。


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