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14 増援とも戦いました

 四匹のグリーンスライムは、リオ達へと向かってブニョンブニョン、と一斉に跳ねて来ます。


「やっ!」


 跳び掛かって来た先頭の一匹を、ティエラは袈裟に斬り下ろします。続けて迫って来たもう一匹も、返す刃で斬り捨てました。


「ティエラ! 奥からまた四匹出て来たぞ!」

「見えてるよ! 援護お願い!」

「分かった! 上位ノーブル級魔術で行くぞ!」


「いや出来れば物理で!」

「むべもなく!?」


 リオの魔術師としてのアイデンティティを、ティエラはサラッと全否定しまし

た。もっとも先程までの様子を見れば、むしろ柔軟で素早い判断であるとも言えます。


「ああくそっ、分かったよ! くのっ、くのっ!」


 悪態を吐きつつリオは前線へと出て、一匹のグリーンスライムへ杖を振り下ろします。右手一本で振られた木製の杖に数発打たれ、魔物の動きが鈍ります。そこに向かって左手の短剣を二度突き出し、トドメを刺しました。


「リオ、左から来てるよ!」

「っ! 下位岩石魔術ストーンバレット!」


 左半身側から向かって来る一匹に、咄嗟に右半身をひねって杖の先端を向け、迎撃の下位コモン級魔術を発動させます。


 杖の先から出て来た指先サイズの小石が『ひゅーん』と飛び、スライムの身体に『むにょん』と跳ね返されました。


「っ、んのっ!!」


 リオはその場にしゃがみ込み、杖を置いて代わりに手近な石を拾い上げ、グリーンスライムへと投げ付けました。手のひらサイズの石が上手い事命中し、魔物の足止めに成功しました。


「見たかっ! 俺の魔術をっ!」

「流石リオの物理攻撃! ……下位障壁魔術シールド!」


 二匹同時に跳び掛かって来たグリーンスライムを、ティエラが青白い魔術の壁で受け止めます。


「ちょっと数が多いな……っ」

「うんっ。だけど、一体ずつ落ち着いて倒して行けば大丈……夫っ!」


 言いつつ、ティエラは続けて体当たりして来た一匹を斬り伏せます。これで、残りは四匹です。


「リオは引き続き援護をお願いっ! さっきみたいに石でっ!」

「おうっ、魔術でだなっ!」


 噛み合わないと言うよりも意図的に噛み合わせない返答をしつつ、リオは地面に置いていた杖を拾い上げ、一旦後ろに下がります。


 前衛のティエラに向かって、先程下位障壁魔術(シールド)で弾いた二体と、リオが投石まじゅつで足止めした一匹と、さらに右奥にいた一匹とが、それぞれ別々の方向から迫ります。


 高い剣の腕前を持つ上に防御魔術を使えるティエラであれば、少なくとも危険な状況には追い込まれないでしょう。ですが、一撃は喰らう可能性はあります。致命傷にはほど遠いでしょうが、当然それを黙って見過ごしていては、後衛の援護役としても彼女の先輩としても失格です。しかし投石では、三方向から来る敵をまとめて足止めするには力不足です。


 ならば。


 リオは杖の先端を前方へと向け、上位ノーブル級魔術を発動するべく体内で魔力(マナ)を練り上げます。複雑な魔力マナ制御を素早く正確に完了させ、炎の魔術を発動させました。


上位火炎魔術フレアグレネード!」


 杖の先から現れたのは、ともる松明ほどの火球です。平均的な魔術師の下位火炎魔(ファイアーボー)()よりも小さな炎が、ティエラの右側から迫るグリーンスライムへと向かって飛んで行きました。


 リオの放った魔術が、ティエラの右側面を通過して行きます。彼女から見れば

"背後から火球が飛んで来た"格好になりますが、事前にリオが叫んだ魔術名を聞いていたため、特に慌てる事はありません。魔術師が魔術を発動する際に名称を口にする理由の一つは、『他の味方にこれから使う魔術を知らせる』ためであります。


 正面から飛んで来た火球に、グリーンスライムは身構えるような動きを見せま

す。視覚で捉えている訳ではないにせよ、彼らが自身に向かって来る炎を"脅威"であり"危険"である、と認識しているのは確かです。水や小石が飛んで来るのとは訳が違います。


 動きを止めたスライムへ、そのまま炎の魔術が命中――する直前に、いきなり軌道が変わります。ほとんど直角に、左方向へ曲がりました。


 そのまま火球は、ティエラと彼女正面のグリーンスライム二匹の間とを横切って行きます。いきなり真横から火球が飛び込んで来た事に、ティエラは一瞬驚いたように目を見開きます。しかしそれ以上に驚いていたのは、"進行方向上に突然炎が割り込んで来た"グリーンスライム達の方でした。ティエラに跳び掛かろうとしていた勢いが、泡を食ったような急ブレーキによって完全に消え去りました。


 硬直した二匹を尻目に火球はそのまま進んで行き、ティエラの左側から迫っていたグリーンスライムへと真っ直ぐに飛びます。


 命中。緑色のゼリーに触れた火球がぱっと爆ぜます。


 一般的な下位級魔術以下のささやかな爆発ではありましたが、リオの上位火炎魔(フレアグレネー)()は命中したグリーンスライムの身体の幾分かを焼いて損傷を与え、なおかつ怯みによってその動きを止めました。


 リオが放った一発の魔術は、四匹のグリーンスライムの動きを止める事に成功しました。全て、リオの狙い通りでした。


「今だっ!!」


 驚異的な魔術制御を前にティエラは目を見開いて眺めるばかりでしたが、リオの声で我に返ります。思い切り良く踏み込み、正面の二匹へと斬り掛かります。辛うじて硬直から立ち直った魔物達でありましたが、鋭く迫る刃の軌跡を前に遅過ぎる復帰でした。為す術もなく少女の振り抜いた太刀に掛かり、二匹のグリーンスライムは大地に住まう生命としての活動を終えました。


 続けてティエラは、右側の一匹へと駆けます。こちらは既に動揺から復帰してはおりましたが、少女の巧みな剣捌きの前にほとんど意味はありません。抵抗らしい動きを見せるいとますら与えず、あっと言う間に両断してしまいました。


「うりゃあっ!!」


 一方のリオは杖を振りかぶり、上位火炎魔術フレアフレネードを命中させた一体へと殴り掛かりました。三度、四度と振り下ろされた杖に打ち据えられ、トドメの短剣を突き入れられ、最後に残ったグリーンスライムは動かなくなりました。


 二人は武器を構えたまま、しばし周囲へと注意を巡らせた後、


「……もういないみたいだね」

「ああ。目的達成クエストクリアだ」


 敵の全滅を確信し、大きく息を吐き出しつつ警戒を解きました。


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