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銀星と黒翼  作者: ふとんねこ
第三章.冥界編

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第24話.合流


 放たれた魔法の暴嵐が、見事に磨き上げられた床を抉りながら真っ直ぐの通路に溢れていた衛兵たちを薙ぎ払っていく。

 床材が剥がれ、歩きにくくなった通路を黒翼を力強く動かして進み、シヴァはドローリアと共に大広間を目指していた。


「大広間を突っ切れば、その先が玉座の間よ」


 そう言うドローリアは、最初踵の高い靴では歩きにくい通路に苦戦し、今は飛行魔法で進んでいる。その横を赤い結髪を二筋なびかせるローズ=リリーが魔導書片手に飛んでいた。


「…………」


「……地下牢は、大広間の右の通路の先」


 シヴァの沈黙に、緊張ではない別の思考の気配を感じ取ったドローリアはそう言って彼の方を向く。

 彼女の厭世的な色を滲ませる暗紅色の瞳で見つめられたシヴァはゆるゆると首を横に振った。


「いや、いい。イスグルアスはもう目の前なんだ。それに……俺はあいつを信じている」


 その答えを受けて、暫くシヴァの横顔を見つめていたドローリアは「そう」と短く頷いて前方に視線を戻した。


(そうだ、俺はウルを信じている。あいつなら何とかできる気がするんだ)


 シヴァはギリッと黒剣を握り締め、背の翼にますます力を込めた。





 立ち塞がる衛兵たちをその都度シヴァの剣で、ドローリアとローズ=リリーの魔法で倒して、二人はついに大広間の正面扉へ辿り着いた。

 大きく重厚な木の扉。絢爛な金の装飾が施され、所々に煌めく紅玉がギラギラと怪しい光を放っている。

 一度その前で立ち止まった二人は顔を見合わせあって頷くと、中の気配を探ってから扉を押し開いた。



 沢山の水晶を吊るした壮麗な照明が華やかな光を降らす大広間。いくらか破壊されてひび割れた象牙色の床石、左側には元は華麗だったであろう大窓が惨憺たる有り様で並んでいる。

 そこに煌めく(あか)と薄紫の光粒。舞い散る粉塵に混じって踊るそれらは、黒緑の光粒とぶつかり合って砕けていく。

 シャン、と玉の触れ合う玲瓏たる音と共に、煙の向こうの長物が粉塵を薙いだ。最初にシヴァの目に入ったのは拳大の紅玉の煌めきと銀細工の反射光。

 そして、塵と魔力粒子を含む風にふわりと揺れる薄紫の髪が姿を現す。覗く横顔には強い意志の光を灯した銀星の目。


「ウル!!」


 堪らずシヴァは呼んだ。美しい星の双眸が一瞬も迷うことなくシヴァを捉える。


「シヴァ!!」


 そしてウルもシヴァの名を呼んだ。お互いの姿に安堵し、再会を喜ぶ言葉が口をついて出ようとする。


 しかし、その暇はなかった。


『ああ、半霊半魔の。もうここまでいらっしゃいましたか』


 大広間の奥からそんな声がして、もうもうと立ち込める粉塵の向こうで何かが立ち上がった。

 ずるり、としたその動きと死のにおいが満ちた湿地に似た不気味な魔力の気配。シヴァは漠然と蛇に似たものを感じた。


 直後、そこから何かが物凄い速度で放たれる。咄嗟に横へ飛び退くシヴァと反応が遅れたドローリア。ウルが何か叫ぶ。


(まずい!!)


 それが迫ってきてようやく目で捉えられた薄黒い魔力の光線に、逃れ難い濃密な死の香りを見てとったシヴァはドローリアに視線を向けた。

 反応が遅れた彼女はふらりと体勢を崩しており、目を見開いて迫り来る光線を見つめていた。


 駄目かとシヴァが思ったその直後。

 ふわり、と(あか)色の魔力粒子が舞った。





「……ぁ」


 光線はドローリアに当たらなかった。


 言葉にならない音を漏らした彼女の前には、鮮やかな紅色の薔薇を咲かせた金の蔓の盾が展開していた。

 その色に、その気配に、思わずかつて愛した女主人を想起して震えるドローリアの元へ、カツカツと靴の踵を鳴らして盾を作り出した者が歩み寄ってくる。


 豊かな金の髪は戦闘のために乱れ、左耳の耳飾りは取れて無くなっていた。白い美貌も煤に汚れていたが、その真紅の双眸は真っ直ぐドローリアを見ている。


「ティ、ティルトリア様……」


 床から見上げるドローリアが思わずこぼした名前に彼女は目を見開いた。


「――母を、知っているの?」


 その言葉でドローリアはすべてを理解した。悲劇の皇后ティルトリアの忘れ形見であり死の原因、冥界には望まれなかった孤独な皇女。


「……ハルザリィーン、皇女殿下」


 名を呼ばれて戸惑いを見せた彼女に、ドローリアは泣きそうな顔で微笑んだ。


「大きく、なられましたね」


 そう言って立ち上がる。紺碧の衣装の裾をさばき、母親に良く似た皇女の左手を取る。そこに光る指輪はかつてティルトリアの指を飾っていたもの。ドローリアはそれへ迷いなく口付けた。


「わたしはドローリア。以前、皇宮に仕えていた黒薔薇の屍術士(ネクロマンサー)です」


「ドローリア……」


 シヴァは二人のやり取りを見ていた。大広間の奥の者は追撃を仕掛けてこない。その間に小走りでやって来たウルが彼の隣に並ぶ。


「やっぱり君の隣が落ち着くな」


「お前、まさか皇女までたらし込むとは思わなかったぜ」


「……久しぶりに会っていきなりそれなのか……まあ、君らしいや」


 ウルはくすくすと笑って続ける。


「僕はハルザリィーンとただ、話をしただけだよ」


「強行手段に出なかった辺り、お前らしいよ」


 シヴァもそう言って苦笑した。


 二人の視線の先で、ドローリアとハルザリィーンが何やら言葉を交わしてから頷き合った。


「シヴァ。心強い味方と、わたしが生き延びる理由が、できたわ」


「そうか。引き続きよろしく頼むぜ」


「あの、貴方が私の従兄……?」


 恐る恐る、といった様子で近づいてきたハルザリィーンが言った言葉にシヴァは頷いた。


「けど、今はそれどころじゃない。話は後で、四人揃って生き残ってからだ」


 そう言ってシヴァは黒剣を構え直す。全員が彼の視線の先に目をやった。そこでは黒緑の大蛇が剣呑な気配を滲ませてゆらりと鎌首をもたげていた。


「シヴァ、あれはサガノス。イスグルアスの側近だ……強いよ」


「そうか。ま、なんか今は負ける気がしないんだけどな」


「うん、少し分かる」


 ウルは少し笑って同意し、霊杖ウラヌリアスを構えた。銀環に揺れる雫型の吊るし玉が涼やかな音を奏でる。


『懐かしい顔ですねぇ』


 大蛇はクツクツと嗤って大きな頭を左右に揺らした。ドローリアはハルザリィーンより前に出て、魔力を灯した両手をサガノスに向けて構える。ローズ=リリーがハルザリィーンの背後を守っている。


「相変わらず、嫌な魔力ね。わたし、貴方は嫌いよ」


『言ってくれる。生憎、私も貴方が大嫌いですよっ!!』


 そう言って、黒緑の魔力粒子を纏いながら大蛇の姿をしたサガノスが飛び掛かってきた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ようやく再会ですね。 再会したときのシヴァとウルの反応が良かったです。 お互いに生きていると信じていながらも、互いの存在を認めて感情が溢れて来たような印象を受けました。 ハルザリィーンと…
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