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銀星と黒翼  作者: ふとんねこ
第三章.冥界編

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第13話.皇宮


 かなりの魔法の技能を持つと考えられる屍術士(ネクロマンサー)・ドローリアの協力を取り付けたシヴァ。


 取り敢えず命の危険な状況は脱したという安堵と、今後の計画を立て始めることができたことに少しだけ満足し、ほっと笑みを浮かべ、さあ一安心と身体の力を抜いた彼は。


「もう、限界……だ」


 そう言って見事に昏倒した。


 ドローリアは大慌てで使い慣れない治癒魔法を用い、彼の治療を開始したのであった。



―――――………



 そして、場所は変わり皇宮。

 

 皇帝イスグルアスの居城であり、冥界の政治の中心であるここは、難攻不落の城砦でもある。


 黒鉄の格子窓や棘付きの鉄塔が左右対称に並んだ、黒岩の建材で造られた城。


 その名をナースゴルドと言う。絶対不落を謳い、皇帝の権威の象徴の一つとして、イスグルアスの魔法によって冥界の統治体制確立と共に建てられた城だ。


 広大な敷地は敵の侵入を阻む高い塀で囲まれ、塀の外は底が見えない切り立った崖となっている。

 そんな孤島の様な皇宮は、正面の大門から延びる石橋によって外の大地と繋がっており、石橋の始まりの左右には大きなガーゴイルを載せた石柱が立っていた。


 ごりごり、と石の擦れる音を立てながら首を動かして、石橋に進んでいく者を睨むガーゴイル。

 それへ優美に微笑み返したのは、黒のドレスに、後頭部で纏めた白い髪の乙女であった。

 皇宮に帰還した黒死の姉妹の妹、ディエルオーナである。

 その傍らには無表情で歩を進める姉のジエルメーラ。時折妹の腕に横抱きにされた精霊――ウルーシュラを見ていた。


 そのまま姉妹は石橋を渡っていく。靴の踵がカツンカツンと石を叩き、断崖絶壁から吹き上がってくる風が二人の服をはためかせた。


 二人が大門に近づくと、重厚で巨大な鉄扉がゴゴゴ……と低い音と共に内側から押し開けられる。

 扉の番人がその魔力によって動かすこの鉄扉は、決して破られない堅牢で重厚な出来であった。


 姉妹はそのまま黒岩の宮城の前庭を真っ直ぐ進む。灰色の石で敷かれた道を取り巻く様に広がる深紅の芝に、枯れ木と見紛う様な、生命力を感じさせない黒く細い幽嘆の冥樹が左右対称に配置された庭だ。


 庭の石畳の先にあるのは皇宮全体を囲むものよりは背の低い塀――それでも見上げるほどの高さはある――で、姉妹はその真ん中に鎮座するどっしりとした木の扉を開けさせる。


 その先まで進んでようやく皇宮の入口が姿を現した。黒岩の宮の入口は、燻銀色の柱が並ぶ同色の階段の先にある。

 その鈍い鋼色の鉄扉には華美な装飾が施され、所々に嵌め込まれた魔力を秘めた紅玉がギラリと煌めいていた。


 扉の両側にじっと立っているのは無慈悲なる門番、鋼鉄の魔導式自動人形(ゴーレム)である。

 甲冑から、目が無いのに飛んでくる刺さるような視線。ディエルオーナは自分が横抱きにしている精霊に目を落とし、それから「陛下の欲しがっていたものよ」とゴーレムに告げた。


 宮廷に出入りする権限のある者の言葉はゴーレムを通して術者へと伝わる。

 皇帝イスグルアスに絶対の忠誠を誓うゴーレム使いはディエルオーナの言葉に頷き、彼女等を通すよう命令した。


 ゴーレムから敵意の気配が消え、ディエルオーナは華やかに微笑む。ありがとう、と弾む声で残し、姉を連れて、彼女は開かれた扉の向こうへと歩を進めた。


 帰還の報は入れてある。きっとイスグルアスは精霊(これ)を首を長くして待っているに違いない。


 そのまま真っ直ぐ、丁度城の中心にある玉座の間へ歩いていく途中、確信を持ちながらも確認のため文官を捕まえて皇帝の所在を問えば「ぎょ、玉座の間に、おられます」と怯えた様な返答が得られた。


 やっぱり、と笑んで、真っ青な顔で頭を下げている文官の横を通り過ぎる。


「ふふふ、褒めていただけるかしら」


「ディエルオーナ、陛下は何故、精霊(これ)を……?」


「……ふふ。秘密よ、姉さん」


 とっても素晴らしい秘密、と付け加えて彼女は笑った。

 ジエルメーラは小首を傾げて不思議そうにしていたが、やがて興味を失ったのかいつも通りの無表情に戻る。






 そして……姉妹は玉座の間に到着した。


「失礼致します。陛下のお求めの精霊を得て、黒死の姉妹、ただいま戻りました」


 ウルを傍らに寝かせ、片膝を赤いカーペットに付いて深く頭を下げる二人。三馬身ほど離れた距離に五段の階段があり、その上に翼竜を模した装飾の金色の玉座が鎮座している。


 そこに座して、眼光鋭く黒死の姉妹を見下ろしている者が、皇帝イスグルアスであった。


「……それが、霊王の末子か」


 轟く地鳴りにも似た低い声でそう言ったイスグルアスは、深紅のマントと金の装飾が多い黒い衣装を纏った全身から魔力による威圧感、恐ろしいまでの覇気を放っている。

 その体躯は、驚くべきことにウル二人分程の高さがあり、全体的に筋骨隆々としてがっしりとした姿だ。


 そしてその顔は人間に似て、艶のある白い髪と白い髭をたくわえた、老君と呼んでも差し支えない様な、年老いた冷酷な君主のものであった。

 感情の温度が見受けられない冷たい瞳は深く剣呑で、血の様な暗さを持つ紅だ。


 白い前髪を全て上げた頭部には金の王冠が載っており、その中央には禍々しい輝きを放つ大粒の紅玉が嵌まっている。


「はい。重傷ではありますが魔法で治癒が可能な範囲にとどめております」


「良くやった。褒めて使わす」


「有り難きお言葉、身に余る栄誉ですわ」


 ディエルオーナはうっとりと微笑んで、不死者としての色の無い肌に微かな喜色を浮かべた。

 ウルにじっと目を向けて、イスグルアスは少しも表情を変えずにいる。


「……出て参れ、サガノス」


 やがて呼んだのは側近の名。頭を下げたままだったディエルオーナが悔しげに顔を歪める。

 皇帝に心酔している彼女にとって、常に皇帝の傍らに侍ることを許された側近サガノスは忌々しい存在であった。


 玉座の間の端、ひっそりと壁の一部にある木の扉が開いて黒服の男が姿を現す。動きに音の無い不気味な男であった。

 黒緑の髪に、酷薄そうな印象を与える黄金色の細い目。長身痩躯に纏う魔力は死の気配が濃厚な湿地のにおいがする。


「それを治療し、地下牢に入れておけ」


「承りました、陛下」


 無駄なことは言わずにサッとウルを抱え上げると、サガノスは出てきた時と同じ様に音も無く去っていった。


(サガノス……っ、いつかその座から引きずり下ろしてやるわ)


「下がれ」


「……はい、失礼致します」


 脳内で舌打ちをしながら、表面上は優雅に礼をして、ディエルオーナは姉を伴い玉座の間を辞した。


トールキン先生へのリスペクトが過ぎて、心の中の皇宮ナースゴルドはミナス・モルグルに似ています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミナス・モルグルかっこいいですよね笑 好きなものからイメージを沸かせるのすごくよく分かる。 後書きを読んでめっちゃほっこりしました(∩´∀`)∩ サガノスとディエルオーナがライバル関係な…
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