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銀星と黒翼  作者: ふとんねこ
第三章.冥界編
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第7話.戦闘


 漆黒の剣と金色の大鎌が激しくぶつかり合う。散る火花は眩しく、衝撃が烈風を生む。


「流石、剣技に優れるモルモルの一族に養育されていただけありますね」


「そんなことより、何故あいつを狙うのか話してもらおうか」


 シヴァの黒髪と、ジエルメーラの白髪が風に翻る。


 跳躍して宙で横回転を加え、勢いを乗せて斬りかかったシヴァの剣を大鎌の柄で受け止め、細腕に似合わぬ力で跳ね返すと、ジエルメーラは一歩退いてじっと口を閉じた。


 感情の窺えない真白の瞳が、同じく感情の動きを隠した美しい藍色の瞳を見つめている。


「……貴方に教える義理はありません」


「そうだろうな。だから力尽くで聞き出させてもらうぜ」


「そうですか。では頑張ってください」


 そう言ってジエルメーラは大鎌をくるくると回しながらタンッと軽く地を蹴った。


(ちっ、やりにくい相手だな)


 無感情の攻撃は、思考による動きの乱れが生まれない。そのため、隙がなかなか生まれなかった。


 シヴァは苛立ちを無表情の後ろに押し隠して黒剣を振るった。



――――……



 人通りの少ない場所までウルは走ってきた。飛び交う危険な魔法に、往来の魔物は悲鳴を上げて逃げていく。


(うん、それでいい)


 両側に建物が並ぶ石畳の道で、ウルはようやく足を止め、くるりと追手を振り返った。

 すると宙に浮いていたディエルオーナは目を瞬いてひらりと着地する。

 華やかな笑みを浮かべているのに、まったく感情を読み取れない美貌。ウルは薄ら寒いものを感じながら、その真白の瞳を見返した。


「もう追いかけっこは終わり?」


「うん、終わりだ」


「私たちと来る?」


 小首を傾げた彼女は嬉しそうに白い貌に浮かんだ笑みを深める。


 ウルはウラヌリアスを握り直した。しゃらん、と銀翼の装飾の下の銀環に吊るされた三連の雫型の紅玉が触れ合って玲瓏とした音を立てる。


(シヴァも戦っている。逃げるばかりじゃ駄目だ。僕だって、戦えるんだから)


 ぶわっと薄紫の魔力粒子のさざめく渦が溢れ出て、風を巻き起こしながらウルを取り巻く。

 ディテルオーナは不思議そうな表情になって首をこてん、と傾げた。


「あたしと戦うの?」


「うん」


「ふぅん。そう」


 目を細めたディエルオーナにウルはごくりと唾を飲んだ。

 ウルの周りを漂う魔力粒子たちはディエルオーナを警戒するように、ざわざわと動き続けている。


「姉さんはなるべく傷つけるなって言ってたけれど……」


 暗い魔力が蠢く。

 咄嗟の判断でウルは自身の周囲に防御の結界を張った。


 直後、細剣(レイピア)で刺突する様な勢いの爆炎がウルの視界を覆い尽くす。結界が軋み、ウルは轟く爆音に耳が痛んだ。


 爆炎が姿を消すと、ウルの周囲は炎の海になっていた。あまりのことにウルはぞっとして息を呑む。


 呼吸するだけで咳き込みそうな黒煙が上がり、高熱で揺らめく景色の先に炎に照らされ凄絶な笑みを浮かべるディエルオーナの姿があった。


「少しくらい千切れても、直せばいいわよね?」


 ひらり、白い手が動き、再び周囲を埋め尽くす爆発がウルに襲いかかった。


 ウルは防御の結界を解かぬまま、それを自身の周囲に展開した状態を保って爆炎の海を突き進む。


「わぁ、すごいわ! 貴方、壊しがいがありそう!」


(怖いな、この子。狂気に満ちてる)


 踏み込みと共に爆炎を打ち払う烈風を発生させる。それと同時に石畳や建物を覆う赤々とした炎ごと周囲を凍りつかせた。

 一気に熱が遠退き、冷気に満ちる。凍りついた炎の姿は、不可思議な氷の彫像であった。


「ふっ!!」


 ウラヌリアスを振る。勢いよく飛んでいく魔力粒子の塊が風の刃となり、ディエルオーナに襲いかかった。


「精霊なのに、冥界(この地)でそれだけの力を行使できるなんて、流石アルタラの一族の者ね!」


 両の手から溢れさせた赤い爆炎で風刃を破壊する彼女の言葉に、ウルは「確かに」と苦々しく思う。


 戦闘になり、魔法を使い始めてから、この大地の拒絶は色濃くなるばかりだ。

 自分の魔力は大気に満ちる魔力と上手く絡まず、ほとんど自分の魔力だけで魔法を使わなければならない。


 大地と大気の力を得られないことがこんなに大変だとは。


 ウルはそう考えながら顔を顰めてウラヌリアスを振るう。

 宙を走る薄紫の魔力粒子。変換し、現れる浄化の白炎魔法は大気に拒まれてその鮮烈な純白を薄める。

 それでも無理矢理魔力を注ぎ込み、ディエルオーナの爆炎にぶつけた。


「きゃははっ。無理してるわね? その苦しそうな顔、とっても可愛い」


 反対に、魔物特有の杖を介さない冥界の大気の力を活用した魔法は、ディエルオーナ本人の技量と魔力量によって恐ろしい威力になっている。


 ウルの白炎を呑み込んで、襲いかかる爆炎と轟音。結界にぶつかり、ウルの左右に分かれて周囲の氷を舐める。


(順調に溶けている。もう少し、もう少しだ)


 足下でぴしゃ、と水を踏む音がして、ウルはウラヌリアスをギリッと握り締めた。


「片目くらい、貰ってもいいかしら?」


「それは困るよ」


 ディエルオーナの恐ろしい台詞にそう答えながら、ウルは踏み込む。

 魔力の渦が黒々とした鉄粉の群に変わった。ウラヌリアスの動きに合わせ、鉄粉が鉄剣の群に変わる。


「行けっ!」


 魔力量にものを言わせて、黒い千剣の雨を叩き込む。ドドドド、と低い地鳴りと地の揺れが、千の剣が石畳に突き刺さっていることを伝えた。


 土煙が周囲を満たす。その間にウルは炎を放って周囲の氷を溶かしていく。


 千剣の雨が止んだ。ウルはウラヌリアスを身体の前に斜めに構えてディエルオーナを窺った。

 次の瞬間、弾けた赤い爆炎。土煙が打ち払われる。


「きゃははっ、すごい! とても面白いわっ!!」


 黒いドレスは幾らか破けていたが、本人は少し土埃に汚れた程度の無傷。

 それを確認した直後、ウルは烈風を低位置に走らせる。氷が溶けた水が巻き上げられて、ディエルオーナの全身を濡らした。


「きゃっ、なぁに? 濡らしたってあたしの爆発は止められないわよ?」


「うん。知ってる」


 そう答えながら、ウルはふわりと少し浮かび上がる。

 ウラヌリアスの(かしら)を下に向け、ディエルオーナを見つめた。


「僕は、こんなところで負けていられないんだ」


「何をするつもり?」


 パシッと青い稲妻が弾ける。テンペスタを作ってから、ウルの雷魔法はつられる様に青くなった。

 怪訝そうな真白の瞳を見返して、ウルは答えた。


「君を倒すつもり」


 直後、青雷が水面を走った。


 瞬きをする暇も無い程の一瞬で、その鮮烈な青雷は、濡れたディエルオーナの全身を駆け回った。


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