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銀星と黒翼  作者: ふとんねこ
第二章.エルフの国編

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39/76

第16話.魔導具

レビュー4本目、5本目、ついには6本目もいただきまして、本当に嬉しいです。レビューラッシュ!!


※2019.7.24 ジャンル別日間ランキング、ハイファンタジーの93位にランクインしました!!! 本当にありがとうございます!!


 学生たちの猛攻をくぐり抜け、ウルはジジの研究室に飛び込んだ。


「おはよう、ジジ、マオ」


「ん」


「おはよーさん」


 作業台に様々なものを散らかしたジジは手元に集中したまま答え、台から転げ落ちたものを拾い集めていたマオは爽やかに微笑んで挨拶を返してくれる。


「ウルーシュラ、魔導具、できる」


「本当? 流石だなぁ……あ、そう言えば二人は……」


 少し気まずさを覚えつつ、ウルは昨晩見たものの話を切り出した。王下三弓のレイが知っていたということは、王下双翼の一人であるジジも知っているとは思うが一応である。


「知ってる。マオも」


「やっぱり。マオ、君は……」


 気遣わしげにマオを見る。軍を率いていた壮年の魔物と同じ、今にも枯れ落ちそうな薔薇の様な暗い紅の髪を持った彼。

 父親と敵対する未来を見据えているであろう黄金(こがね)色の瞳は、とても、ただひたすらに静かだった。


「大丈夫。今の俺は、かつての名前も持たない、主の使い魔マオだ。元々魔物の考えは合わなかったんだ、大丈夫だよ」


(……大丈夫って二回も言った。多分、あんまり大丈夫じゃないよね)


「無理、しないでね」


「ああ」


 苦笑した彼は手を伸ばしてウルの薄紫色の髪を掻き混ぜた。


「わっ」


「お前は自分の心配をしろよ。狙われてるのはお前とシヴァだ……気を付けろよ」


「あ、うん……」


 そうだね、とウルも苦笑した。




「ウルーシュラ、魔法、する。完成」


「ああ、うん。分かった」


 頭を撫でてもらうのは久しぶりだな、とはにかむウル。そこへジジが声をかけた。

 それに答え彼女の隣へ行き、作業台を覗き込む。


「わぁ……これが?」


「ん」


 それは三つの白銀の環だった。

 繊細な曲線の絡まり合いでできた白銀の環には所々に純白の月石が飾られている。

 その内一つは二つより大きく、とろりとした紅色の魔石が嵌め込まれていた。


「魔石、できた。あとは、循環の術、三つを、繋ぐ」


 魔導具を見つめるウルにジジがそう言った。ウルは静かな感動と共にじっと緊張しながら銀の瞳を魔導具に向け続けて、やがてこくっと頷く。


「……ウラヌリアス」


 ふわり、と薄紫の魔力粒子が舞った。

 現れた霊杖をそっと握り、ウルは考え続けていた循環の術式を頭の中で繰り返す。


(大丈夫、できる)


 視界の端では相も変わらずジジが頬を赤く染め、目を輝かせてこちらを見ているが気にしてはいけない。


 今、ここには自分と魔法を待つ魔導具しか無いと思え。


 カツン、とウラヌリアスの石突を床に付けた。そこから床へ魔力を流し込んで術式を組み立てていく。

 描かれていく魔法陣が放つ薄紫の光がウルの姿を神秘的に照らした。魔力が起こす奔放な空気の揺らぎが彼の髪や服を揺らして、魔力粒子を巻き上げ、辺りを煌めかせる。


(繋ぐ。循環は……流れだ。なら、水の力が一番強い)


 ウルの思考に従って、魔力粒子の色が青色に変化した。義姉の色だ、と思いながら魔力の自然な流れを作る。


(よし……これをこのまま落とし込む)


 美しい川の流れを、流線が描く穏やかな繋がりを。


 ウルはカッと目を見開いた。銀の瞳が青い魔力光を受けて夜海に落ちた星の煌めきを見せている。

 床に描かれていた術式の魔法陣が集束して光の帯になり魔導具に注いだ。


 光が収まる。成功を確信してウルはほっと息を吐いた。


「ジジ、これでど……」


 どうかな、という言葉はジジの顔を見たことで詰まって出てこなかった。


 短い呼吸を繰り返すジジは、ぐるぐると濁った黄緑色の瞳からぽろぽろと涙をこぼしていた。

 頬は赤く、短い眉をギュッと寄せて、彼女はウルを見ている。


「ど、どうしたの……?」


 ウルが固まった理由に気づいたマオが手巾を取り出してジジの涙を拭く。


「主、すごく感動したんだと思う」


「そう、なの?」


「だよな、主」


 ちーんしなさい、と手巾を鼻に当てられたジジは素直にちーんと鼻をかんでこっくりと頷いた。


「ウルーシュラ、ありがとう。すごい、ジジ、嬉しかった」


「お礼を言うのは僕の方だよ。魔導具を作るのは絶対簡単じゃない。それを一晩でやってくれて、本当にありがとう」


「ん。これで、完成。着けて、みて」


 ジジは魔導具を取り上げて眺めた後、そう言いながらウルに差し出す。とろりとした紅色の魔石の煌めきが、ウルが魔法を注ぐ前より強くなっていた。

 頷いたウルは留め金を外してそれらを身に着ける。


「どう?」


「何だか、不思議な感覚だよ。でも、良く馴染んでると思う」


「ん。じゃあ、そのまま」


 ジジがその後マオに何やら指示した。するとマオはすぐに大きな集気瓶を持って戻ってくる。

 それを受け取ったジジはウルを見上げ、それから瓶の蓋を取ってウルの方へ瓶の口を向けた。


「ジジ、何これ。薔薇みたいな、匂いがするけど……」


「……成功」


「え? まさか」


 集気瓶の中身を察したウルは自分の両足首に嵌まった魔導具を見下ろし、首に嵌まった魔導具に触れる。


「冥界の、空気。平気、だった。成功」


「やった!!!」


 ジジはうっすりと目を細めて微笑んだ。マオは「良かったな」と笑い、ウルはウラヌリアスを還して跳び上がる。


「良かった、ありがとうジジ、マオも!」


「ん」


「俺は手伝いをしただけだぞ」


「ありがとう二人とも。これで……僕、シヴァと行ける」


 目が潤むのを感じながら、ウルはしゃがんでジジの手を握った。ありがとう、と消えそうに呟く。

 ジジはぐるぐると濁った黄緑色の目でウルを見つめていた。


「ウルーシュラ、できる。大丈夫。シヴァの、そばに、いて」


 小さな手が伸びてきてウルの髪を不馴れな様子で撫でた。ほろ、と耐えられずに零れた涙と共にウルは「うん」と答える。


「僕は、何があってもシヴァの手を離さないって決めたんだ」


 たとえ、どれほど暗い冥府の底へ沈み込むことになっても。




 その時だった。


 ざわり、と不穏な気配がウルの背筋を駆け上がった。微かな地の振動、マオが目を見開いて顔を上げる。

 その中、ジジが冷たい目で呟いた。


「来た」


 それと同時に、遠くから結界に攻撃がぶつかる轟音が響き渡った。


※色々考え、プロローグを削除致しました。部数が一つずつずれましたので読者様に混乱があったかもしれません。作者の勝手ですが、悩んだ結果であります。

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