第一巻 パート六
〜前回のあらすじ〜
小説代は、生活費と別途で小遣いとして貰ってます。
十月三日 午前九時三分
神城高校・屋上
『アルル・アルフォードパート その三』
案外、簡単に屋上へ上がる事ができた。
理由は、学び舎全体を囲うように配置されていると思われた砂地が、実のところ一部分にしかなかったからである。嬉しい誤算だった。
しかし、障害がなかったといえば、決してそうでもなかった。そこまで急ぐ必要はないだろうと悠長に学び舎周りを歩いていたら、生徒の登校時刻になったらしく人目も多くなってしまったのだ。
ただでさえ、今の私はボロボロの服、髪に付いた土などでとんでもなく目立っている。それに重ねて目立つ真似など、到底できる事ではなかった。
だからして、屋上に到達するのがこうも遅くなってしまった訳だが……まぁ、結果オーライである。奴に見つからず無事に屋上までこれたなら、過程などどうでもいい。
それよりも、今は極印への記録の方が大事だ。極印に触れる事ができるのは何かを極めた者、もしくはありえる筈のない例外だけだが、自分が例外でないのは既にわかりきった事なので、私は確実に何かを極めているのだ。
年甲斐もなく、わくわくしている。百三十年もの間、ただ剣の道を歩んできたのだ。できれば、剣術を極めているのであってほしい。
しかも、極印に記録した後は、極めた事に反映された能力を使う事ができる。クロス・ガーデンという大戦争が始まるにあたって、戦闘向きな能力が得られるのは幸先がいいのである。
どこからか湧き出る期待を抑え、私は服のポケットを探り、極印を――
……極印を――
……?
……? ……!?
「あれ……!?」
――極印が、ない。
右のポケットにも、左のポケットにも、左右どちらかにはあるべき筈の極印は、どこにもなかった。
なんという事だ。あれだけ湧き出ていた期待が、一瞬にして全消滅した。代わりに現れたのは、自分自身を呵責する為の言葉が大量に詰まった辞典である。
どこかに落としたか……? いや、それしかないだろう。
とはいえ、どこに落としたかがわからない。あの男と交戦している最中? それとも、花壇に落ちた時か?
どちらにせよ、まずい。
極印に触れる事ができるのは、何かを極めている者、ありえる筈のない例外、この二者のみなのだが、その例外とは魔力を持たぬ人間……つまり、この普通界の者達なのだ。
そして、クロス・ガーデンへの参戦を認められていない普通界に極印が存在する事は、通常ありえない。故に、ありえる筈のない例外なのである。
あのメダルにも似た重要物には、小さな宝石が大量に散りばめられている。真の用途を知らずとも、その美しさに誰かが拾ってしまう可能性は十分にあるだろう。
既に記録が終了していれば、なくしたとしても大体の位置は把握できるようになっていたのに……! 昨日から、不幸が続きすぎている!
間に合え――!
そう思うと同時に、私の身体は飛翔していた。絞り切れない分の風が暴れようが、奴に見つかろうが、知った事ではない。
全速力だ。