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第一巻 パート五

〜前回のあらすじ〜

どっか上れる場所、ないかな〜?

十月三日 午前八時二十一分

神城高校・一年二組

『御神 秋一パート その三』




 何故か知らんが、眠気が急速に失せた。

 まぁ、よくある事って言えばよくある事だし、行動の選択肢は二つあったから一つ消えたところで無問題なんだがな。

 という訳で、窓際最前列に位置する机のフックに鞄をかけ、俺は当初の予定通り鞄の中で眠っているラノベの一冊を取り出した。結構な重量のある鞄の中身がラノベだらけなのは、先生に内緒だ。

 ちなみに、いま俺が手に持っているラノベは、この神城高校に入学してから二冊目となるラノベである。俺は本とか大好きな文学少年(?)だから、本来ならば既に二十冊くらいは読破していてもおかしくはないのだが――

 それが達成不可能だったのには、まだまだ卒業するまで続くと思われる事柄として、ちゃんとした理由がある。

 ……休み時間には、どうしても読書を邪魔されるからだ。しかも、固定の二人に。

 尤も、本人達は邪魔してるつもりなんか皆無でただ話し相手が欲しいだけなんだろーし、俺としてもそいつらと話すのは楽しいからいいんだけど……それでも、買ったラノベくらいは最後まで読みたい(更にちなみの事として、鞄の中で眠っているラノベ達は未だに包装さえ破かれていない。既に読み終えてる筈だったんだがなぁ)。

 幸い、時間が早いせいか二人の姿はクラスのどこにも見当たらなかった。鬼の居ぬ間に何とやらっつー事で、さくっと読んじまうかな。いつもいつも話しかけてくるおかげで、休み時間の度に二ページずつしか進んどらんのだ、このラノベは……。

 つーか、これの主人公って俺にやたらと重なるんだよなー。黒い短髪って外見は同じだし、十六歳って年齢は同じだし、おまけに超が付くほど平凡な学生ってのも同じ。


 ――そういえば、中学の通知表が一年から三年まで一つたりとも違わずオール三だったのは笑える記録だった。言っとくが、狙ってやったんじゃないぞ。完全な偶然だ。中途半端な実力が出してしまった数字を偶然と呼ぶのは、若干どうかと思うが。


 何にせよ、展開が楽しみだ。自分に似てる奴が主人公の小説ほど楽しめるものは、そうそうない。それが、いい意味でも悪い意味でも、な。

 と、俺が表情を緩めながら、頬杖を着きながらページをめくろうとした瞬間の事だった。


「ど〜ん」


 聞き慣れた鬼の声が耳に届くと同時に、俺の右肩が、背後から出現した紛れもない鬼の手によって叩かれたのは。

 盲点だった。いつもより早く登校したからといって、ゆっくり小説を読めるなどという甘い保障はどこにもなかったのだ。そういや二人のうちの片方は俺と同じく遅刻ギリギリにきてたが、もう片方のこいつは何時何分にくるのかが全く不明だった。

 うわ、最悪だ。要するに、俺はこいつと朝の時間まで仲良くお喋りする為に早くきちまったのか。

 ふぅ……と、気分を落ち着ける為に一息吐いて、開いていたラノベを閉じる。あ、栞、挟み忘れた。別にいいか。いつもと同じく、栞が必要なほど進んでないし。

 抵抗が無駄な事はわかりきっているので、諦めて鬼の話相手になる事を決めた俺は椅子に座ったまま背後を振り返る。少し上に向けられた視線の先には、何やら苦笑い的な笑顔を浮かべた鬼、もとい女子が一人。

 一応の紹介をしておくと、こいつが二人の片割れ、天染 結である。サラサラで綺麗な髪は肩の辺りまで伸びてるが、色はただの普遍的な濃い茶色だから特徴にはならない。しかも、ルックスまで特徴とまではいえない中の上程度だから、総じて普通な女だ。漫画や小説、ゲーム的に言えば、ヒロインには不向きな女だな。せめて性格が異常なほど尖ってるとかあればいいんだが、完全に真逆の人懐っこい性格だから終わってる。

 ところで、なんなんだ? その妙な笑顔は。


「そこ、私の席だよ」


 何を馬鹿な……。


「いつからお前の席になった」

「昨日。席替えがあったでしょ?」


 恥ずかしさのあまり、窓から飛び降りたい衝動に駆られた俺なのでしたとさ。

 六時間目に行われた上に眠かったせいで記憶は曖昧だが、そういえば席替えはあった気がする。そして、俺は最前列の、窓際から横に二つ目の席へと移動したんだった。

 閉じたラノベを、片手に。

フックにかけてあった鞄を、左肩に。

 いざ、右隣の席へ。


 ――って。


「お前の隣かよ!?」

「よろしくね〜」


 今後の関係をよりよく保つ潤滑油的な発言をした結は、お決まりの行動として机のフックに鞄をかけてから、呆然と立ったままの俺を差し置き空いた席へと腰を下ろした。

 悪夢だ……このラノベ、今年中に読了できんのかな?

 ……いや、家で読めば、普通に可能か。よく考えたら、学校だけで読む必要ねぇじゃん。


 ――いやいや、待てよ。家で読むにしても、自宅での時間を削られるのは割と痛い。学校じゃ出来ない事だってあるからな、色々と。


 結との距離が不服ではあるものの正しい自分の席に座り、小説をどこで読もうかについて考えていると、


「ねぇ」


 足を組んでこちらを向いている結が、やはり俺を話し相手にしようと声をかけてきた。どうでもいいけど、お前スカートだって忘れちゃいないか。

 思考を邪魔されたくない俺は、駄目元で談話を断る。


「考え事をしてるから、出来れば今だけは邪魔せんでほしい」


 傍から見れば、かなりキツい断り方に見えるかもしれない。

 しかし、この女が相手なら、これでもまだ足りないくらいなのだ。


「考え事、ね。普段は何も考えてないくせに、こういう時だけは都合よくですか。ひどいわ」


 うお、侮辱と非難を一纏めに言いやがった。ほらな、だからあんな断り方じゃ足りないんだ。この女に投げる言葉の選択など要らんという事を、再認識させられたぜ。

 仕方ない。ここで無視したりすると更に追撃が飛んでくるだろうし、小説をどこで読むかは二人と別な選択授業の時にでも考えるか。


「わかった、わかったよ。俺が悪かった。で、なんだ?」

「あれ、別に好きなだけ考え続けててもよかったのに。まぁ、わざわざ中断してくれたなら嬉しい限り」


 何を言っとるのか、こいつは。半強制的に中断させられたんだっつーの。あのまま続けてたら、俺の心が致命的なダメージを負う可能性すらあっただろうに。


「やかましい、さっさと話に入れ」


 お前の言う通り、わざわざ思考を止めてやったんだ。退屈になるのだけは勘弁だぞ。

 私的には、相当無愛想に言ってやった筈なのに、


「話っていっても、大した事じゃないんだけどね――」


 不満の色など少しも見せず、結は満面の笑みを浮かべて話し始めた。

 こいつのこういうところは、素直に可愛いと思う。精神攻撃を得意とさえしなければ、普通にいい女なのだろう。顔も、整っていないといえば大嘘になるし。

 ……今からでも、間に合うのかね? 「人の心に刃物を刺すのはやめろ」とか言えば。

 んん、でも、惜しい気がしないといえばそれも大嘘になるな。こいつの精神攻撃が本気だけで構成されてる、なんて事はないだろうし、今のままでも嫌な女として見る程じゃあない。

 結論としては――


「でさ――って、ちょっと。聞いてる?」

「おっと……悪いな。大した事じゃないってトコから、全部きいてなかった。もう一回たのむ」

「もー、ちゃんと聞いてよ」


 ……結論としては、このくらいがちょうどいいんだろうな。仲のいい同級生でしかない結にヒロイン性など求めちゃいないし、求めちゃいけない。


「はい、はい……」


 俺は、生返事にしか聞こえない確かな返事を返して、お喋り好きな結の話に耳を傾けてやった。

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