第一巻 パート二
〜前回のあらすじ〜
秋一、メイドに会っちゃった。
※ミスをしてしまい、前回の『CROSS×GARDEN』を間違えて削除してしまいました。
御迷惑をおかけします※
十月二日 午後十一時四十五分
暮沢住宅街
『アルル・アルフォードパート』
時折かたむいたものがある民家の屋根を足場に、緩やかな曲線を描きながら飛び移りつつ思う。
相手の手の内を把握していなかったとはいえ、私は普通界の始末屋風情にやられてしまったのか、と。
『クロス・ガーデン』参戦に必要な証であり、自らの極めた事を記録する『極印』の入手。そこまでは、全てが順調に進んでいた。しかし、まさか極印に記録する間もなく襲撃に遭うとは予想外だった。普通界の裏と繋がりがあるところを見るに、恐らく私の抹殺を依頼したのは機界辺りなのだろうが……あの界からは、クロス・ガーデンに誰が参戦するのだろうか? 記憶では、戦闘向きな者など一人としていなかった筈なのだが。
……あるいは――。
――いや、考えすぎか。
「……っと」
危ない。着地の瞬間にバランスを崩して、転びそうになった。普通界の民家にある屋根とは、なぜ斜めになっているものがあるのだろう。平らな屋根しかなかった魔界育ちの私には、解せない。
まぁ、今のは私が悪かったのだが……やはり、何かを考えながら物事をこなすなどという器用な事は出来ない。不器用なのだろうか? どうでもいいか。
「……うわ、わ!」
また、同じ理由で転びそうになった。どうやら、不器用らしい。どうでもいいか。
……話は変わるが、今の私にはいつからか一つだけ気になり続けている事がある。
それは、先程わたしが目を覚ました時、近くに立っていた少年の事だ。
彼は、面倒事に巻き込まれる事を危惧して嘘をついたのではなく、本当に『奴』を見てはいなかったのだろうか?
いなかった、という言葉が、素直に口から出た真実ならばそれでいい。
だが、不幸な偶然で奴の姿を見てしまっていたなら――。
口封じと称して仕事の目撃者を抹殺する主義の始末屋に消される可能性は、低くない。
尤も、変に隠すような様子はなかったし、彼は本当に通りかかっただけなのだろうが……。
「――!」
そこまで考えて、気付いた。
仮に、だ。私に止めを刺そうとした始末屋が、偶然とおりかかった彼を見て一時的に隠れたのだとしたら、どうなる?
言うまでもなく、当然どこかで私達(とはいっても、私はほとんど気絶していたが)のやり取りを見ていた訳だ。
ただでさえ、私達が発していた声の音量は普通か普通以下だった。ならば、奴が私達の声などまともに聞き取れないような位置で一部始終を見ていたら、どうなる。
誤解で私と彼が仲間だと思われたなら、奴を目撃していないとしても彼はどうなる。
そもそも、私はまだ生きているではないか。奴が気絶した私の始末を中断する理由など、彼の介入以外ありえない。
それに、気配から察するに今の私は誰からも尾行されていない。奴が隠れる原因となったであろう彼と別れたならば、戦闘再開に相応しい場所――人気がない場所に着くまで、押し殺したような殺気が纏わり付いて離れない筈。
だが、もしも奴が一時的にターゲットを変更し、容易く殺せると思わしき『邪魔』な仲間の抹殺を優先したならば……。
こうして考えを重ねると、憶測が事実に変わった気がしてならない。
戻らなくては――!
「――って、あぁ!」
懲りない私。屋根に飛び移ったまではいいが戻ろうと振り返ってバランスを崩した私は、ついに屋根から落ちた。
柔らかい感触からして幸いにも土の地面が衝撃を和らげてくれたらしかったが、それなりの高さから落ちただけだって全身には鈍痛が響いた。しかも、頭を変に打ってしまったのか段々と意識が遠のいている気がする。多分、気のせいではない。
さようなら、名も知らぬ少年。巻き込んでごめんなさい。
……やっぱり、どうでもよくなかったわね。