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第一巻

ミスをしてしまい、前回の『CROSS×GARDEN』を間違えて削除してしまいました。

御迷惑をおかけします。

十月二日 午後十一時三十七分

暮沢住宅街

『御神 秋一パート』




 神秘的な月光に照らされた、黒い空の下。俺は、遅い夕食を買う為にコンビニへと出掛けた。家を出たのが十一時くらいでコンビニまでの片道が十五分くらいだから、日付が更新される前には夕食にありつけるな、と思っていた。

 だが、今の状況からすると日付が更新される頃には家の門すらくぐってない気がする。

 何故かって? 簡単な事。俺の目前三メートルほど先で、どういう訳かメイド服を着た女の人がぶっ倒れてるからさ。おまけに、濃紺のワンピースとフリル付きのエプロンを組み合わせたエプロンドレスは破れて乱れてボロボロ。着ている本人が生きてるかどうかすら疑わしいときたモンだ。つーか、ここは何の変哲もない住宅街だぞ。場所を選んでくれ、墓場とか。俺みたいな幸薄野郎が困るだろうが。

 ……まぁ、とにかく、だ。このメイドが生きているかどうか? それを確かめる事が最優先事項だと思うのだが――。

 仮に、仮に生きてなかったら、いくらなんでも面倒すぎるな。

 そんな事を思いつつも、親切な俺はメイドに恐る恐る歩み寄る。離れていた時には気付かなかったが、メイドは銀髪だった。珍しい。

 えぇと……確か、気絶だか失神してても呼吸はあるんだっけか? 忘れたが、息がなけりゃとりあえずアウトだな。呼吸の確認法は中学の時に何かの授業で習った気がするけど、忘れた。確か、胸の方に顔を向けて頬を口に近付けるんだよな。人が一人倒れてるってのに、どうしてここまで冷静なんだろうね。

 メイドの傍らに膝を着き、かろうじて覚えている事を実践する。間違ってはいない気がする。

 結果として、呼吸はあってくれた。なかったら、通報沙汰になってたところだ。

 さぁ、後は放っておいても勝手に起き上がるだろうし、車にひかれないよう道路脇にでも移動させてから帰ろう――。

 って訳には、いかないよな。流石に良心が咎める。

 しかし、起き上がるまで待つって言っても俺にだって明日の学校がだな――。

 と、所有物な筈なのに持ち主の味方をしない良心と俺が、醜い拮抗を始めた時だった。

 傍らで横になっていたメイドが、失った意識を取り戻すとき独特の声を発しながら頭を摩り、ゆっくりと上体を起こしたのは。

 何たる僥倖か。俺の思いが彼女に届いたのかもしれない。いや、帰りたい思い的なものが。

 よし、もう心配はいらないだろうし、帰っていいんだよな。彼女は起きたがそれはそれで微妙に嫌な予感がするし、さっさとこの場を逃れたい気分だ。

 さっきまで対立していた良心も今は咎める事なく、俺は起き上がったメイドに背を向けて歩き出した。やれやれ、立ち往生してた分も含めて十分はロスしたか。まぁ、日付が更新される前には家に着けそうだな。よかったよかった。


「あの」


 嫌な予感が的中すると同時に、俺の動きがピタリと止まる。

 今の声は、多分、というかまさしく、背後のメイドが発したものだ。だって後ろから声がしたんだもの。彼女以外ありえねぇ。

 呼ばれたのに無視して歩き続けるのもどうかと思い、振り向いてから、


「……俺ですか?」


 若干ひきつった笑顔で、一応の確認をした。頼むから、他の人に言ったんであってくれ。

 いや、待てよ――それはそれで、相当はずかしいな。やっぱり俺に言ったんであってくれ。

 振り向いた俺の視界内にいるメイドは、凛とした眼差しでしっかりと俺の事を見ていた。つまり、俺を呼んでいた訳だ。これ、喜んでいいのか? 複雑だ。

 メイドは、俺の言葉に返事を返さず尋ねる。


「私の他に、不審な男がいませんでしたか?」


 男絡みか、どんなトラブルがあったんだろうね。何にせよ、関わりたくない。

 とはいえ、返事を返さないのもやはりアレだ。


「いえ、いませんでしたよ」


 だから、知ってる限りで、おまけに簡潔な言葉で返しといた。これ以上は聞かないでくれ。貴女に関して俺が知ってる事といえば、服がボロボロな事くらいです。理由は知らないし、聞かないけども。


「そうですか……」


 メイドは、溜め息をつきながら胸を撫で下ろした。漫画とかではよく見るが、実際には天然記念物並みに見られない安心の仕方だ。

 質問にも答えたし、いい加減に帰っていいっすよね、俺。

 別に親密な関係になった訳じゃないし、「さよなら」とかは言わない。

 再びメイドに背を向ける。そして、今度は何事もなく歩を進め続ける。


 ――背後で、何かが勢いよく地面を蹴るような音が聞こえるまでは。


「――ん?」


 音に反応して、俺は咄嗟に、また振り向いた。


「……あ、え?」


 随分と間抜けな声が出たものだが、こんな声を出す原因となった現象があまりにも突然おこったのだから、仕方がないだろう。

 いないのだ、メイドが。

 たった十秒ほど前までは俺の視界内にいたメイドは、忽然と姿を消していた。消え方がいきなりすぎて、そもそも始めからいなかった気さえしてくる。

 目を離した時点での彼女は、まだ上体を起こしていただけだった。振り向くまでの秒数を考えると、急いで立ち上がってからダッシュで走り去ったとしか思えない。そんなに早く俺から離れたかったのかな。微妙にショックだ。

 あ……けど、地面を蹴るような音は一回しかしてないな。走り去ったなら、何度も足音がする筈だ。

 全く。考えれば考えるだけ頭が混乱しそうだな。珍奇な格好をした人だとは思っていたが、まさか行動まで珍奇だったとは……。

 もう、あのメイドの事は忘れたい。いや、忘れよう。覚えてたら連鎖的に変な出来事が起こりそうな気がしてならないし。

 それに、俺の帰宅を遮るものは完全になくなった。ようやく帰れる。

 という訳で、我が家に戻る為、メイドという障害があった場所に三度目ながら背を向けて歩き出す。なんかカッコいい気がする。だが、よく考えるとメイドの単語があるおかげで全然カッコよくない。寧ろ気持ち悪い気さえしてきた。考えなきゃよかった。

 にしても、けっきょく日付が更新される前には家に着けそうもないな。走れば間に合いそうだが、そこまでして早く帰るメリットないし却下しとく。

 この後はフェイントもなく何事も起こらず、無事に帰宅する事ができた。


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