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01.聡明な蒼きタクティクス

穏やかな海を見た。

それは今は亡き戦友が言っていた通り

とても美しい海だった。


今は“小さな花”という

あまりに可愛いらしい名前を付けられた事を

貴方はきっと笑うだろう。


剣を振れば一流、隊を率いては無双。

聡明な蒼きタクティクスとその名を轟かせた私を。



..............今から二年前。

世界の仕組みは”あの人“によって大きく変わり

魔物と人と精霊とが分け隔てられた。


それ以前、其処此処に存在した私達は

人と暮らしたり、人を遠ざけたり

考え方は皆それぞれで自由気ままに生きていた。


これはその変貌から更に十数年前の話。


西側の大きな洞窟のある森の中。

その頃の私は長くこの場所で暮らしていた。


だからいつの間にかここを守るようになったのだが

旅人にはこの森の守り神などと思われていた。

なんともおこがましい話だ。

そもそも“女神級の精霊”は“女神”とは違うのだから。


「うちのパーティーに入らないか?」

人間は助けられては調子よく物を言う生き物だ。


「悪いが麓の道までしか付き合えない」

そう答えると、一番後ろの小柄な男が小さく舌打ちした。


勝手な奴は放っておけば良いのだが

私は相当なお人好しの部類なのだろうな。


「じゃあな姉ちゃん」

礼も言わずに冒険者達は去っていった。


この手の奴らは度々訪れる。

力無き者が無謀にも洞窟を目指すのは勝手だが

大概たどり着く前に魔物に襲われ逃げ帰る。


だからこうして始めから偵察しているのだ。

この森に入ってきた時から。


中には洞窟まで到達する強者もいるが

過信から下層へと降り過ぎて ケイブラッドやホリボリなど

森の中より格段に強い相手と対峙して倒れた。


その度に私はそれらを薙ぎ倒し

彼らを人の住む村まで運び届けるのだった。


“森の妖精に守られた”

“洞窟の女神に助けられた”


それはどれも見当違いだ。

私は私がただそうしたいからしているのだから。


洞窟内にはそんな彼らが落としていった

武器や防具、魔石など様々なアイテムがある。

それを拾っては隣町へ売りに行ったり

使える物は身に付けたりした。

精霊と言えども生身では戦えないのだ。


森を掻き分ける音がする。

今日も無謀な人間達がやって来たようだ。

私は弓と剣を携えてその方角へと向かった。


(冒険者が一人....一人だと!?)

無謀にも魔物溢れるこの土地に一人で来たのか!

4〜5名のパーティーでも返り討ちに遭うというのに。


少し苛立ちを覚えながら戦況を見守る。

予想外に次々とモンスターを倒し

遂には洞窟へと辿り着いた。


(.....強いのはわかるが、無茶をするにも程がある)

まさかとは思ったが洞窟内部へと彼は向かった。

仕方なく重装備に切り替えて後を追う。


彼は出くわしたホリボリをなんとか倒し

今度は意外にもすんなりと洞窟を後にした。


「変な奴だったな...」


何事もなく帰って行き内心ホッとした。

彼が何者であるのかは不明だが

ホリボリ一匹に苦戦していた様子を見れば

もう暫くはこの森を訪れる事はないだろう。


..................そんな予想は覆された。

彼は三日に一度、二日に一度とこの森に訪れては

さも当然のごとく洞窟へと足を運ぶ。


(なんなんだコイツは.....)


その度に私は付き合わされ...

いや、勝手について行くだけなのだが

何度か危うい時にだけ、気づかれぬようアシストした。


これ以上は危険と私が判断する程度まで来ると

決まって無理するわけでもなく帰って行く。


そんな日々が三月ほど続いた。

今日もきっと彼は来る。

面倒なので最近は洞窟の前で彼を待つ。


(.....来たか。珍しく一週間ぶりだ)


ここのところほぼ毎日来ていたのだが

先週はピタリと来なかった。

厄介払い出来たと思っていたのに残念だ。


この頃には洞窟の中層まで到達出来る程の力を付けた為

私はほとんど後ろから見ているだけだった。


(今日はこの位で帰るだろうな.........ん!?)

いつも無理をしない彼が 敵に出くわさぬよう

猛スピードで二階層も飛ばして降りて行く。


(何やってるんだコイツはっ!)

急いで後を追ったが、待っていたのは最悪の結果だった。

ケイブドラゴン...私でも一人ではとても倒せない...


彼は命からがら攻撃を避けている。

このままでは自分も巻き込まれてしまう為

やむ終えず私は姿を現した。


途端にターゲットは私に移る。

魔力が高い者から先に倒すなんてさすが上級の魔物だ。


私は足の間をすり抜けて裏手に潜り、尻尾を薙ぎ払った。

これを振り回されると後々面倒だからだ。


ドラゴンが大きく悲鳴を上げると共に息を吐く。

重い砂の礫が私の動きを止める。


次の瞬間、鋭い爪が私の右肩をえぐった。

「クッ...このっ!!!」

すかさずドラゴンの左手を切り裂いた。


それでも戦況はかなり不利だ。

爪の毒が徐々に全身を麻痺させる。


(.........これは駄目かもしれないな)

少しお人好しが過ぎたようだ。

これも自分のせいだから仕方がない。


“それ”を覚悟した時だった。

「右に避けてっ!」


突然彼はそう叫ぶとと黄金の弓矢を引き放った。

私は条件反射のように痺れた身体を横に振る。


........もう立ち上がる事が出来なかったが

彼の放った矢がドラゴンの急所を射抜いているのが見えた。


(助けられた...この私が...助けられたと言うのか!?)


そして驚きと、怒りと、安堵と、悔しさを一気に感じた。

ウォーリアの血はその結果を許さない。

無様にも担がれ洞窟を後にする私には

零れ落ちる涙すら拭うことが出来ないのだから。

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