大胆不敵なパーテルポジション
試合当日、オレは胸骨のヒビが完治しないまま、試合に出場する事を余儀なくされた。
オープニングでは、旗揚げ戦同様、全選手がオクタゴンのリングに上がり、社長の佐藤さんがマイクを手に挨拶した。
「TMN第二戦目は、ここ関西での大きなホールで行う事が出来、そしてたくさんのご来場誠にありがとうございます!
えー、専門誌やネット等で既にご存知かと思われますが、名誉会長である、カイザー大和氏がTMNを離脱し、同時にスポンサーが離れ、TMNはWFEの傘下となり、新たに出発致します。
応援してくださった皆様、今回の件については多大なご迷惑をお掛けして誠に申し訳ありません!」
佐藤さんが深々と頭を下げてるを見て、全選手も頭を下げた。
「えー、今回のような大規模な会場で行うのは暫くの間は無いでしょう。
次回からは小規模、中規模の会場で徐々に年間の試合数を増やし、またここで試合が出来るよう、邁進してまいりますので、どうか御支援、御声援の程を宜しくお願い致します!」
また我々は頭を下げ、会場内は拍手が起こった。
【ええぞー、カイザー大和なんていらん!】
【そや、また1から始めたらええがな!】
温かい声援だ。
オレはTMNに移籍して、団体としての責任感をWWAにいた頃以上に感ずる。
旗揚げ戦の時とは違い、試合数も少なく、マクダエル以外、これと言った注目の選手もいないが、会場は超満員だ。
無名に等しい選手達の試合だったが、ネームバリュー等お構い無し、と言わんばかりの白熱したファイトで会場を沸かせた。
第一試合は総合スタイル、第二試合は立ち技スタイル、第三試合はキャッチレスリングというローテーションで試合を進め、メインを含め全六試合しかない。
オレはこのぐらいの試合数がちょうどいいんじゃないか、と思っている。
ただ試合数だけ多くても、内容が伴わないと、間延びしてしまうだけだ。
【ただ今より本日のメインイベント、30分一本勝負を行います!青コーナーより、TMNジャパン、神宮寺直人選手の入場です!】
オクタゴンの中央で、リングアナウンサーがはっきりと通る声でコールする。
「ナオト、マクダエルは典型的なアメリカンレスラーだが、レスリング技術はトップクラスだ!
心してかかれよ!」
カーウィンが認める程のレスラー、マクダエルはエンターテイメントなレスリングから、総合までこなす万能タイプのレスラーだ。
オレの入場テーマ曲が鳴り響き、花道をゆっくりと歩いた。
セコンドにはカーウィンが付き、コスチュームは黒のショートタイツにレスリングシューズのみ。
胸板にテーピングを施していたが、入場する前に剥がした。
ウィークポイントを見せてまで闘うつもりはない。
まだ胸の痛みはするが、泣き言を言ってる場合じゃない。
【神宮寺~っ、今日こそ勝てよ!】
【二連敗だけはすなよ!】
【また得意のスープレックスでKOしたらんかい!】
関西弁の応援が時折聞こえる。
リング手前で目を閉じ、大きく深呼吸して、オクタゴンのリングに踏み入れた。
【赤コーナーより、元AAWヘビー級王者、ゲージファイトヘビー級ランキング一位、キングオブレスラー、ウィラー・マクダエル選手の入場です!】
軽快なラップのリズムに乗り、マクダエルは大きく両手を上げ、花道を歩いた。
エンターテイメントを極めたプロレスラーは一挙手一投足までもが華になる。
AAW時代の俺様キャラではなく、黒と白のロングタイツに赤のニーパッドとレスリングシューズという出で立ちで、アメリカの国旗をマント代わりにし、リングイン。
ブロンドでアシメトリーにしたヘアスタイルに彫りの深い顔立ち。そして彫刻像のように鍛えぬかれた鋼の肉体。
さすがトップを極めたレスラーだ、オーラが半端じゃない。
【本日のメインイベント、キャッチレスリングスタイル、30分一本勝負を行います!】
オレもマクダエルも互いにコーナーで目を離さない。
【青コーナーTMNジャパン、186㌢106㌔、神宮寺直人~っ!】
オレは右手を上げ、コールに応えた。
場内からは拍手と神宮寺コールが起こった。
【赤コーナー、188㌢106㌔元AAW王者、ゲージファイトランキング一位、リアルアメリカン、ウィラー・マクダエル~っ!】
国旗を両手に掲げ、コールに応える。
オレの時よりも歓声が遥かに上回る。
レフェリーが中央に呼び寄せ、ルールを説明する。
体格はほぼ互角だ。
互いの額をくっ付け合う程、睨み合う。
レフェリーが無理矢理離そうとするが、オレもマクダエルも離れる気は無い。
場内からはどよめきと歓声でボルテージはマックスに達した。
そして睨み合いのまま、ゴングが鳴った。
動かない。
オレも動かないが、マクダエルも動かず、ただ額をくっ付け睨み合うままだ。
【ファイッ!】
レフェリーの声で手四つの体勢から力比べでスタートした。
さすがにパワーは伊達じゃない。
オレも日本人としてはパワーがある方だが、マクダエルは更に上回るパワーで押され気味だ。
たかが序盤の力比べだが、負けたくない。
オレは一気にパワーを全開にし、マクダエルを押し気味にした。
そして、手を解き、マクダエルの前で四つん這いになり、挑発した。
うぉ~っ!とどよめく場内。
レスリングで言うところの【パーテルポジション】という、消極的競技者に与えられる警告。マット中央においてグラウンドの姿勢をとらされ,背後より攻撃を受けるポジションの事だ。
つまりオレはパーテルポジションでマクダエルに対して【どっからでもかかって来い!】というポーズをしている。
マクダエルは全米のグレコローマンスタイルの王者にもなった選手だ。
高校のインターハイで優勝したオレとは雲泥の差だが、マクダエルはニヤリと笑みを浮かべ、背後に覆い被さるようにして、身体ごとローリングして、両肩をマットにつけた。
全米グレコローマンチャンプの肩書きは伊達じゃない…




