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最強のエンターテイメント  作者: sky-high
新団体設立
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日本のプロレス界にもライセンス制度は必要だ

新事務所の六階に会長室と書かれたプレートが貼ってある木目調の扉をノックした。


【入れ】


「失礼します」


オレは扉を開け、一礼した。

会長の趣味に徹したインテリア小物を並べた部屋。社員がミーティングスペースとして利用することも可能な広さだ。


窓からは都会の景色を眺める事が出来て、さぞかしご満悦だろう。


皮張りの椅子に腰掛け、葉巻を吹かしながら会長はアンティークなヨーロピアン調の机の前でふんぞり返っていた。


「どうやら聞いたらしいな。何故、グーリットサイドには旗揚げ戦が決まった時点でお前と闘うって事を」


黒のスーツにノータイという、やや会長という立場にしてはラフなスタイルで会長はオレを見て不敵な笑みを浮かべた。


「今さらどうこう言うつもりは無いです。

次の試合も誰が対戦相手なのか、どんなルールなのかも直前までオレに教えないつもりでしょう。それならそれで構いません。だが、その試合を最後にオレはここを脱退します。

オレにだけこんなやり方をするなんて、カイザー大和なら何をやってもいいって事ですか?」


オレはドアの前で立ったまま、不満をぶちまけた。


「ふっ…そんな所で突っ立ってないで座れ」


応接間のソファーに座り、会長はオレの向かいのソファーへ移動した。


「ここを辞めるってか…まだまだだな、お前は」


葉巻を手に、会長は往年の頃の殺気に満ちた目付きに豹変した。


「何故オレだけには事前に対戦相手を教えてくれないのですか?おまけに総合なのか立ち技なのか、キャッチレスリングなのかも教えてくれない。

どうせあなたの事だ、佐藤さんや山田さんにも相談せずに勝手に決めたのでしょう」


いくら往年の闘志溢れるオーラを放っても、オレには高齢で頑固なジジイにしか思えない。


子供の頃、テレビの前で数々の名勝負を繰り広げてきた不世出のプロレスラー、カイザー大和ではなく、一人の老人、大和悠平に過ぎない。


「それがどうした?」


会長は平然と言ってのけた。


「お前はプロレスラーだろ。いつ何時、誰が相手でも、どんなルールでも闘う、それがプロレスラーじゃないのか、おいっ」


「じゃあ逆に問いますが、あなたは現役時代、いつ何時誰が相手でもって言いますが、実際にそんな試合すらした事が無いじゃないですか?

よく、そんな事が言えますね。

ハッキリ言いましょう。

会長、いや大和悠平さん。あなたには名誉会長の座を降りてもらいたい。

TMNという、自分の意のままに操る新しい団体が欲しくてWWAを売却したのでしょう。

おまけにサイドビジネスは火の車だ。その焦げ付きを補てんする為に売却した金を注ぎ込んだ事ぐらい、かつてのWWAの選手達にはとっくに分かってますよ」


相手が誰であろうと関係ない。


この姑息なやり方が許せない、ただそれだけだ。


「…ほう。オレに会長の座を降りろ、と。…何ナメた事言ってんだテメーはっ!」


会長は手にしていた火のついた葉巻を投げつけた。


勿論オレには当たらぬよう、顔の横側を逸れて。


オレの顔に火のついた葉巻を投げたら、オレは即座に叩きのめしただろう。


「そんなハッタリはいらないから、何ならここで次回の対戦相手になってもらえませんかね?

オレは今、胸骨にヒビが入ってますが、ハンデを与えた方があなたに勝機がほんの僅かだけあるでしょう?

いつ何時誰が相手でも闘うんじゃないですか?

違いますか?」


オレは立ち上がり、ジャケットを脱いだ。


「目の前に分厚いガラス製の灰皿もあるし、椅子だってある。

何でもありのノールールで今ここでやりますか?

勿論、頭突きだけじゃなく、目潰し、急所攻撃何をしても構いませんが」


「いい気になるなよ、小僧!テメーなんかオレから見ればまだまだヒヨッコに過ぎないんだぞ!」


会長も立ち上がり、テーブルを挟んで対峙した。


「カイザー大和ともあろう男がこんな新興団体の名誉会長だなんて、小さな役職に就くぐらいなら、いっそ日本のプロレス界のコミッショナーにでもなったらどうです?」


会長の表情が一変した。


「コミッショナーだと?」


「そうです。今日本にいくつプロレス団体があって、プロレスラーが何人いるかご存知ですか?そこら辺の普通のサラリーマンがプロレスラーって名乗れば、プロレスラーになるような時代なんですよ?

オレはボクシングみたいに、プロレスラーにもライセンスが必要だと思うんです!

それを可能にする事が出来るのはあなたしかいないんです!


あなたが日本中のプロレスラーを(ふるい)に掛けて、このレスラーにはライセンスを発行する、このレスラーは失格だ!と決めるんです。

そして真のプロレス界の頂点に立つんです。

あなた以外にそんな事が出来る人はいますか?いないでしょう?

日本のプロレス界について考えるなら、もっとスケールの大きな事をやって下さい!

それがカイザー大和たる所以じゃないですかっ!」


オレは今の気持ちを正直に会長にぶつけてみた。


会長はふっ、と笑みを見せ再びソファーに座った。


「テメーの言う事にも一理あるな。

確かに今はふざけたプロレスラーが多すぎる。

だがな、オレ一人じゃ出来ねえんだよ。コミッショナーになるには、それなりの地位の人物を動かさなきゃならないんだよ」


「何言ってるんですか?あなたはかつて、絶対に実現不可能と言われたボクシングの世界ヘビー級チャンピオンと試合したじゃないですか?それが出来るんだから、コミッショナーなんて、人脈の広いあなたなら可能でしょう?」


《挑戦する事に諦めたら、それは老いる事である》


そんな名言はハッタリなのか?


「何だか今日は調子狂うな…テメーみたいなヤツにコミッショナーだなんて事言われれば、やりたくなるじゃねえか。

ライセンス制度大いに賛成だ!」


会長とケンカするつもりでここを訪れたのに、気がつけばいつしかコミッショナーだの、ライセンスだのという、大きな事をやれ、と促したようなもんだ。


「あなたなら出来る、いやあなたしかいないんです、こういう事をやってのけるのは」


名誉会長だなんて、ワケの分からない役職に就くより、もっとスケールの大きい事にチャレンジして欲しい。


会長は再び葉巻に火をつけた。


煙を燻らせながら、しばし無言だった。


「やってやろうじゃねえか。

その代わり、オレの独断で決めるからな!いいか、おいっ!」


大和悠平から、カイザー大和に変わっていった…


日本中を熱狂させたヒーロー、カイザー大和が甦ったように感じた。


「では、これで失礼します。

次の試合はどんな相手でも、どんなルールでも構いません。では」


オレは会長室を出た。


翌日のスポーツ紙には、カイザー大和がTMNの名誉会長の座を降り、日本のプロレス界のコミッショナーとなって、ライセンス制度を設けるという記事が載っていた。


「まさかホントにやるとは…バカになれって言葉は伊達じゃないな、あの人は」


スポーツ紙を見て、カイザー大和の行動力にはただ驚かさせるだけだ。


と言っても、焚き付けたのはオレなのだが、コミッショナーや、ライセンス制度というのは、オレが前々から思っていた事だった。


あの人の事だ、多分やってのけるだろう。


それから数日後、正式にオレの対戦相手は事前に知らされていた、ウィラー・マクダエルとのキャッチレスリングスタイルで行うと発表された。


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