予想外の反応だったオープニングマッチ
大晦日、TMNの旗揚げ戦には超満員の観客がスーパーアリーナに訪れ、オープニングセレモニーでは、全選手がオクタゴンのリングに上がり、名誉会長のカイザー大和がマイクを手にした。
「えー、年の瀬に関わらずたくさんのご来場誠にありがとうごさいます!
TMNは今日、この地でスタート致します!
まぁ、他の場所でも総合格闘技のイベントを行ってみたいですが、この団体はれっきとしたプロレス団体です!
プロレスとは、柔道、空手、ボクシングやレスリング等、様々な格闘技の要素を含む総合格闘技であります!
そして今日、このリングに上がる選手達の闘いを目に焼き付けて、良いお年を迎えてください!
皆ありがとうっ!」
場内は大歓声に包まれた。
選手入場の際には、古代エジプトの神殿の入り口にあるパイロンの様なゲートを設置し、リング外のステージや火薬の爆発、ムーヴィングなどのライティングやスモークを焚き、ロックやヒップホップの曲が流れ、派手な演出で選手が颯爽とリングへと続く花道を歩いていく、かなり手の込んだ造りになっている。
その歓声とは裏腹に、オレの心はどんよりとしていた。
一週間前に急遽、対戦カードを変更させられた。
立ち技ルールで、試合でオランダのキックボクサーベビー級チャンピオン、ヨハン・グーリットとメインで闘う。
キャッチレスリングから、立ち技の試合に変更され、オレは打撃のトレーニングに切り替えたが、所詮は付け焼き刃に過ぎない。
いっそボイコットでもしてやろうかとも思ったが、オレはプロだ、如何なる時でも闘う準備に備えなきゃならない。
しかも旗揚げ戦という、TMNの今後を左右する大事な一戦だ。
…こう言えば聞こえはいいが、いくらプロでも、僅か一週間でキックボクサーという、専門分野のチャンピオンを相手に闘うのだから、圧倒的に不利な条件で、どう考えても勝てる要素が無い。幾多の選手をKOした、必殺の右ハイキックを食らったら、ひとたまりもない。
まともに打ち合いになったら、あっという間にKOされてしまう。
唯一勝機があるとすれば、投げ技、もしくはスタンディングでの関節技や締め技ぐらいだが、グーリットはヨーロッパでの総合の試合にも出場した経験があり、相手の懐に入り込む事すら容易では無い。
試合は3分5ラウンドで、フリーノックダウン形式で、スタンドからの関節技によるギブアップかKO、もしくはレフェリーストップによるTKOで勝敗を決める。
パンチ、キック、膝蹴り、肘打ち、そして頭突きによる打撃に加え、投げ技と関節技をミックスした、総合立ち技とでも呼ぶべきスタイルだ。
オレは控え室でジッと出番がくるのを待っていた。
頭の中で、あれこれとシミュレーションをして、どのようにして相手に組み付き、腕や首を極める事が出来るのだろうか?
組み付いたとしたも、首相撲で頭を押さえつけられ、膝蹴りの連打を食らってしまう。
じゃあ、どうやって攻めればいいのか?
いくら考えても、オレがKO敗けを喫するイメージしか浮かんでこない。
場内ではオープニングマッチが始まろうとしていた。
キャッチレスリングスタイルで、イギリスのレスラー、ハンス・マイケルと、レスリンググレコローマンスタイルの銀メダリスト、アメリカのジョニー・バーネットとの一戦だ。
このスタイル、果たして観客にウケるものだろうか…
オレは控え室を出て、入場ゲートの袖で、観戦した。
リングアナウンサーがルールの説明をしていた。
30分一本勝負で、一切の打撃を禁じ、スリーカウント、またはギブアップで勝敗を決する。
オレは観客のリアクションを観察しながら試合を観ていた。
共に白人で、マイケルは黒のショートタイツにニーパッド、レスリングシューズという出で立ちで、対するバーネットはレスリング用の赤のシングレットと言われる【吊りパン】にレスリングスタイルのシューズを履いている。
足首から膝くらいの丈の編み上げ、そして靴底が薄くぐにゃりと曲がるようないわゆるレスリングシューズもしくはレスリングブーツというプロレス用のシューズと、アマチュアレスリングで使用されるスニーカータイプのシューズという、プロとアマのコスチュームだ。
金髪でサイドと後ろを刈り上げ、短髪で胸板が分厚く、二の腕も太い、いかにもプロレスラーという体格のマイケルに対し、ややダークブラウンの長髪に線は細いながらも、引き締まったムダの無い逆三角形な体型のバーネット。
身長はややバーネットの方が高いが、ウエイト的には若干マイケルの方が重い。
序盤は腕の取り合いから、テイクダウンに持ち込み、寝技の展開になる。
やはり寝技中心のスタイルになってしまう。
予想外だったのは、寝技で膠着した状態にならなかった事だ。
膠着状態になれば、下になったレスラーは両肩がマットについてしまう。するとレフェリーがカウントを取る。
レスラーはカウントスリーを取られないように目まぐるしく、回転系の攻防をする。
しかもスピーディーにレスラー同士が上になり、下になり、関節を狙いつつも、抑え込みでカウントを狙う。
この寝技を中心としたスピーディーな攻防に観客のリアクションはかなり良い。
成る程、スリーカウントを採用した事によって、膠着状態を少なくしようとしたのか…
これならキャッチレスリングスタイルも受け入れられるだろう。
問題はブック無しの闘いで、どういう風に決着つけるのか。
そして試合開始から20分が過ぎた頃、バーネットが腕を取り、アームロックに移行とした時、マイケルはスルリと抜け出し、うつ伏せになったバーネットの両脇に自分の両足首を差し込み、そのまま自身の体を横に捻るように回転することで、相手の上体を仰向けに返して両肩をマットにつけ、続けて自身が後方へブリッジすることでバーネットの両足をエビ固めに丸め込んだ。
【ワン、ツー、スリー!】
一瞬の隙をついたマイケルが、ジャパニーズレッグロールクラッチホールドでバーネットを下した。
プロレスで言うところの、クイック技として使用される隙をついたエビ固めの種類の一つでもある。
オリンピックの銀メダリストとは言え、スリーカウントルールに慣れていなかったのか、それともキャッチレスリングを熟知したマイケルがタイミングを見計らって丸め込んだのかは分からないが、このオープニングマッチを休む間も無く、回転系の寝技の展開でスピーディーに動き回った両者に、観客は惜しみ無い拍手と声援を送った。
オレが試合をしたかのような気分で、観客のリアクションも良く、このスタイルが今のところ受け入れられてホッと胸を撫で下ろした。
となると、次は総合のスタイルだ。
オレはメインで立ち技の試合を行う事の不安さよりも、この大事な旗揚げ戦が無事に成功するよう、影からジッと観戦していた。
第二試合は、ロシアからコマンドサンボをバックボーンに、ヨーロッパやアメリカの総合格闘技に参戦した経験のある、イリューヒン・ハシミコフと、ブラジル出身で、ムンジアル(世界柔術選手権)のチャンピオンでブラジリアン柔術の使い手、エリオ・フェルナンドとの一戦だ。
この総合ルールも先程のキャッチレスリングのように観客に受け入れてもらえるのだろうか。




