ダテにイギリスで修行したワケじゃない!
財前が再試合のゴングを鳴らした。
ギガンテスはさっきとは打って変わって、膝を曲げ、低い体勢からアメフト仕込みのタックルでオレを吹っ飛ばした。
プロレス技で言うところのスピアーという技だ。
ギガンテスはプロレスラーになる前はアメフトの選手でNFLに所属していたプロのアメリカンフットボールの選手だった。
だが在籍期間は短く、試合中に膝を負傷し、アメフトを断念。
この巨体を生かすにはハイスクール時代にレスリングをやっていた事もあり、シカゴにあるプロレスラー養成所でプロレスの基礎を学び、デビューした。
170㌔を越える今でも動きは速く、まともにタックルを食らった。
身体が軽自動車にぶつかったかのような衝撃で、コーナーまで吹っ飛んだオレにギガンテスは攻めを緩めず、ストンピングとグローブをはめた両手でパンチの連打でラッシュをかけてくる。
オレは顔面をガードしていたが、そんなのはお構い無しにブンブンと剛腕を振り下ろす。
ガードしている腕ごと叩き潰すかの如く、物凄いスイングだ。
オレはたまらずコーナーに崩れるようにしてへたり込んだ。
「ブレイク、ブレイクだ、ギガンテス!」
レフェリーの財前は身を呈してギガンテスの猛攻を止めた。
そしてコーナーに下がるよう指示して財前はダウンカウントを数えた。
「ワン、ツー、スリー、フォー…」
いきなりの奇襲でダメージがかなりある。
あの体重の乗ったスピアーをまともに食らい、更にパンチの連打で身体中に激痛が走る…
「セブン、エイト、ナイン…」
オレはカウントギリギリで立ち上がり、ポーズを取った。
「ファイっ!」
財前の声で再びスタンディングのスタイルでガードを固め、何とか立っているのがやっとだった。
ギガンテスは再びパンチ攻撃でオレを攻め立て、辛うじてブロックしたが、がら空きになったボディにトゥーキックを放った。
前足底で蹴るプロレスのトゥーキックではなく、爪先でモロに下腹部を蹴った。
オレは踞るようにして倒れ、場外へエスケープした。
「大丈夫か?」
「神宮寺さん、大丈夫ですか?」
「今の急所蹴りだろ!反則だ!」
セコンド陣はオレに詰めかけ、若手レスラーは背中を擦ったりしていた。
ギガンテスはロープ際で大越で捲し立てている。
「Quickly rises to the ring!(さっさとリングへ上がれ!)」
財前が場外カウントを取る。
「サーティーン、フォーティーン、フィフティーン、シックスティーン…」
何とか立ち上がり、サードロープに手をかけ、リングへ上がろうとした時、ギガンテスは財前を押し退け、ラリアットを放った。
「グヘッ…!」
喉元に食らったオレはまた場外へ転落し、リングサイドの鉄柵へ背中を強かに打ち付けられ、ダウンした。
再びセコンド陣が駆け寄るが、今度はギガンテスが場外へ下りて、セコンド陣を蹴散らす。
オレは満身創痍でギガンテスのパワーをまともに食らって意識が朦朧としている…
ギガンテスがオレを抱え上げ、リングへ投げ入れた。
…何だ?一体どうなってんだ…
「痛っ…」
オレは一瞬なのか、それとも長い時間なのか分からないが、記憶が吹っ飛んでいた。
「グフォっ!」
土手っ腹にギガンテスのエルボードロップが突き刺さった。
胃の中の物がリバースする程の衝撃で、オレはさっきから防戦一方だった。
【ギガンテス、マジで強ぇ!】
【神宮寺ヤベーじゃん】
【おい、さっきからギガンテスにやられっ放しじゃねえかよ!】
一方的に攻め立てるギガンテスの猛攻に手も足も出ない。
ギガンテスはフォールにいかず、オレを無理矢理立たせ、右のスイングで顔面を狙った…
ヤバい、これを食ったらKOだ!
本能的にかわし、ギガンテスのバックに回った。
ギガンテスは腰に回された腕を掴み、スープレックスを阻止する。何がなんでも、この技だけは食らうまい、と力が拮抗し、膠着状態になる。しかし、次の瞬間「が…!」
一瞬、ギガンテスの表情が苦痛に歪んだ。その隙をオレは逃さない。
ギガンテスの巨体が浮き上がり、あっさりと地面に倒された。
……背後から倒れこみ、相手の踵を蹴って投げる技。
しかもその直前、左手で大腿骨を極めている。
カーウィンの下で学んだキャッチ・アズ・キャンの技術だ。
無意識にこの技でギガンテスをテイクダウンさせた…
来る日も来る日、キャッチレスリングに明け暮れたロンドンでの生活が役に立ったみたいだ…
オレはバックマウントを取り、ギガンテスにスリーパーホールドを掛けた。
どんな巨体でも根っ転がしてしまえば体格なんて関係ない!
オレはチョークスリーパーではなく、あくまでもプロレス流の頸動脈を締めるスリーパーホールドでギガンテスの首を攻めた。
一気に形成が逆転し、場内は神宮寺コールで沸き上がった。
「ヘイ、ギガンテス。ギブアップ?」
財前がギガンテスの様子をチェックする。
「NOッ!」
オレはギガンテスの顔を反らすようにして、スリーパーに捕らえ、更に頸動脈に腕を食い込ませ、キャメルクラッチのような体勢で締め上げた。
【おーとーせ!】
【落とせ!】
【そのまま締め落とせ!】
落とせコールで場内は一体となり、それに応えるようにオレはありったけの力を振り絞り、スリーパーホールドで落とすつもりだ。
「神宮寺、ブレイクだ!」
「何っ?」
ギガンテスの長い脚がサードロープにかかっていた。
【あぁ~、もうちょいだったのに!】
【ロープ際じゃ無理だ】
ロープブレイクで観客が一斉にため息をついた。
だが、前半のラッシュと今のスリーパーでギガンテスのスタミナもやや落ち始めたきた。
オレはスリーパーを解き、コーナーに戻り、呼吸を整え、ダメージの回復を待った。
ギガンテスがゆっくりと立ち上がり、再び財前の声で対峙する。
「ファイっ!」
オレは片足タックルでギガンテスの右足を取り、サイドキック要領で足底を左膝の内側をヒットさせた。
膝がガクンと崩れ、オレはギガンテスを再びテイクダウンさせ、右足首を左脇に抱え、アキレス腱固めに捕らえた。
足をキャッチして、もう片方の足を蹴って倒し、足関節技に持ち込む。
これはリヴァプールでコマンドサンボを習った時に習得した一連の動きだ。
一年間のイギリスでの修行の成果がこういう場面で発揮できた。
ギガンテスはもう片方の足でオレの顔を蹴って脱出しようとしたが、オレはアキレス腱固めから、踵を抱え込むようにしてヒールホールドに切り替え、グイっと力を入れた。
「グァァ…っ!」
ギガンテスの膝が軋む。
「ギブアップ?」
「NOッ!」
ヒールホールドはとても危険な関節技だ。
極ったらタップするしかない。
我慢すると膝を破壊する可能性もある。
オレは渾身の力を込め、ヒールホールドを完ぺきに極めた。




