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最強のエンターテイメント  作者: sky-high
新団体設立
28/51

あっという間の一年間

どっちが勝って、どっちが敗けたなんて、もうどうでもよくなっていた。

最終的にマットの上に立っていたのはオレだった。


ダグはオレの変形フロントスープレックスで右肩を脱臼し、肩を押さえたまま立ち上がる事は無かった。


「…オレは一体何をやってるんだ?キャッチレスリングを学びにイギリスまで来て、コマンドサンボのジムで道場主とギリギリの命の取り合いみたいなスパーリングをして…


何なんだよ、これは!

オレはプロレスラーなんだ、こんな相手を壊す事しか出来ない闘い方ばっかじゃねぇか!」


オレはなんともやるせない気持ちで叫んだ。


全身に激痛が走り、満身創痍の身体でオレとダグしかいない静まり返ったジムで倒れているダグを見て、こんな事がやりたくてプロレスラーになったんじゃない、確かに強さを追い求めてカーウィンの紹介でここへ来たが、コマンドサンボの技術でプロレスの試合で使えるような技でもあれば、と思いここでトレーニングをしていたが、ダグはオレの事を【八百長のプロレスラー】【ブックの決まった闘いごっこ】等々プロレスを侮辱するような事を何度も口にした。


「カーウィンのジイサンの紹介だから仕方なくここへ置いてやってんだ、ありがたく思え」


プロレスラーという言葉に過剰に拒絶反応するダグとオレが合うはずもない。


強さを追い求めるという点では一緒かもしれない。


だが、根本的にオレはあくまでもプロレスラー、ダグはプロレスというショーアップされ、自分の強さを誇示出来ずにプロレスから離れ、他の格闘技を追求し、コマンドサンボという格闘技にたどり着いた。


ダグはここで数々のMMAの大会で好成績を上げるファイター達を育て上げたが、兄のデヴィッド・シュナイダーを越える事は出来なかった。


ただ一心に兄より上に、兄より強くなるためだけに強さを追い求めた。


だが時既に遅し、兄弟共に老いて闘う機会は無く、兄のデヴィッドはこの世を去った。


結局、兄の偉大さだけがクローズアップされ、弟のダグはいくら強さをアピールしても、当時はまだMMAというイベントすら無かった。


いくら選手をコーチしてMMAでトップクラスにまで育て上げても、ダグは心の奥底にある、己の強さをアピールする場を見せたかった。


それが叶わず、酒に溺れ、選手を育てる事も他のコーチに任せ、ジムで選手達を怒鳴り、罵声を浴びせ、ハードな練習をさせていた。


やりきれない思いをオレを含め、選手達にぶつけているだけに過ぎなかった。


オレはここのジムの正式の人間ではなく、カーウィンに紹介され、ここへ来ただけの部外者だ。


だがこのジムに所属している選手達は、ダグの事を良く思ってない。


初日にいきなりスパーの相手をさせられたローマンも、オレの目に指を入れてきたが、あれは自分の意志でやったのではなく、ダグの命令に逆らえずやっただけだと、後日オレに言ってきた。


オレもローマンの指を折ってしまい、そのせいで1ヶ月後に開催されるMMAの大会に出場する事が出来なくなった。


このジムの選手達はいずれ他のジムに移籍しようと他のジムの関係者とコンタクトを取っている動きもある。


Diamondのヘビー級GP準優勝者のセルゲイ・ミハエルコフも近々母国のロシアに戻り、新しいジムに移籍する予定らしい。



皆ダグの練習のやり方、そして扱いに不満を持っていた。



「…まだオレはギブアップしてないぞ…ジングウジ、オレがギブアップする時は死ぬ時だ…」


うめくような声でダグは大の字になり、立ち上がる気配は無い。


「もういいでしょう。こんな所で命の取り合いをして一体何になると言うんだ?

そこまでして何を得られると言うんだ?アンタはこのジムの経営者であり、コーチだ…

それなのに、来る日も来る日も選手を罵倒して、酒に溺れ…

挙げ句にはプロレスラーは八百長だと?

冗談じゃない!プロレスの試合で命を落とすことだってあるんだ!

アンタは兄のデヴィッドに対してコンプレックスがあるのは知ってる。

だからこそアンタはプロレスを離れ、強さを求めてコマンドサンボを身につけたんじゃないのか?

それなのに、一生懸命トレーニングしてる選手達をなじってバカにして、見下して…

アンタはコーチ失格だ!


そんなに命のやり取りをしたけりゃ今すぐここを出て戦場の最前線にでも行けばいい!」


オレは両腕をダグの履いていた鉄板入りのブーツで蹴りをブロックしていたが、骨にヒビが入っているか折れているみたいで、力が入らない。


どっちが勝って、どっちが敗けたとかそんなのはどうでもいい、ただもうこれ以上無意味な闘いはやっても仕方ないし、共に闘えない状態だ。


オレもマットにへたり込み、しばらく動けなかった。





あれから半年が経過した。


ダグは鼻骨骨折と右肩の亜脱臼、オレは両腕の尺骨の亀裂骨折に奥歯を折られた。


そのケガは回復し、トレーニングを再開したが、ダグはあの日を境にこのジムから去っていった。



新たにロシアからコマンドサンボのマスターで過去にMMAにも出場した経験のあるコーチが就任し、ミハエルコフをはじめとする他の選手達も移籍を白紙にし、心機一転ロシア人のコーチのもとでダグの頃とは違う練習方法で汗を流し、ジムは以前と比べ、活気に溢れていた。


オレはミハエルコフやローマン達とスパーリングをして、徐々にだが、コマンドサンボの技術を吸収していった。


「ジングウジ、お前もプロレスラーを辞めてMMAファイターにならないか?

お前ならMMAでも十分通用する」


ミハエルコフはオレにMMAに転向するよう勧めたが、オレはまだプロレス界の頂点に立っていない。


「ありがたい話しだけど、オレはプロレスのチャンピオンにもなっていない。

プロレス界でトップになったらチャレンジしてみるよ」


オレはプロレスでチャンピオンになることが目標だ。


強さだけではプロレスのチャンピオンになれない。

相手の技を正面から受けきって、それでも倒れないタフな身体に鍛え上げる。


相手とも闘い、観客とも闘うプロレスは難しい。


観客を熱気させるには、試合内容が重要だ。


一方的に技を出し、相手の技を一切受けないなんて事はプロレスじゃない。


相手の技を受け、それに耐える。


それには勿論強さがあっての前提だ。


強くて、観客にこのレスラーは何かをやってくれそうな雰囲気を醸し出すようなレスラー、オレはそうなりたい。


誰もが納得するぐらいの強さと試合内容でヒートアップさせ、チャンピオンになる。


そしてイギリスへ渡り、一年が経過した。


そろそろ日本へ戻る連絡が来る頃だ。


オレはミハエルコフとのスパーリングで身につけたある技をプロレス流にアレンジして、必殺技として使う予定だ。


イギリスでは試合はほとんどせず、スパーリングに明け暮れた日々だった。


カーウィンと出会い、キャッチレスリングを学び、コールマンというプロモーターからはマスクマンでヒールキャラとして試合をしたが、オレにギミックなど必要ない。


コールマンと一悶着あったが、結局はこのヒールキャラを止め、試合に出ることは無くなった。


そして今リヴァプールでコマンドサンボの技術を習得しようと毎日ジムに通い、トレーニングとスパーリングに明け暮れた。


約束の一年が過ぎ、日本から連絡が来た。

フロントはあまりにも急で、今すぐにでも日本に帰国して欲しいとフロントに言われた。


その理由とは、WWAのトップ外国人レスラー、ギガンテスが、中堅レスラーのオレにジャーマンで投げられ、失神KOしたのが屈辱的で、外国人レスラーのエースであるプライドに傷をつけてしまい、その怒りの矛先はオレが不在の間に他のレスラーが犠牲になった。


ギガンテスは巨体だが、パワーだけのレスラーではなく、レスリング技術もしっかりしている。

だがあの件以来、ギガンテスのファイトスタイルは一変し、巨体を生かしたパワーを全面に出し、荒々しく、ハードヒットな打撃と手加減無しのパワーボムやトップロープからのボディプレスで圧殺し、チャンピオンの財前は首を負傷して長期欠場し、ベルトを返上した。


財前不在のWWAは、王者決定トーナメントを行い、圧倒的な強さでギガンテスがチャンピオンに返り咲いた。

ギガンテスはWWAのシングルとタッグのチャンピオンになり、外国人レスラーのエースとして揺るぎ無い強さと迫力でWWAのトップに輝いた。


だがギガンテスの暴走は止まらず、リミッターの外れた怒れる巨人がWWAのマットで派手に暴れまくり、日本人レスラーだけではなく、他の外国人レスラーをも病院送りにする程、猛獣の如く誰も手をつけられない状態らしい。


そして我が物顔で、オレはWWAのチャンピオンでトップだ、もっと優遇面を改善しろ!とフロントにも噛みついた。


ギガンテスは図に乗り、天狗になってしまった。

気に入らない事があると、すぐに暴れ、それを制止しようとする若手レスラー達がギガンテスの餌食にあい、負傷していった。


「お前はこの団体を潰すつもりか!」


ギガンテスの専属マネージャーや、レフェリー、プロモーターが注意しても聞く耳を持たない。


ギガンテスによって負傷欠場するレスラーばかりで興行的にもWWAはピンチに立たされた。


オレはイギリスにいた一年間、日本のプロレス界がどうなっていたのか全く知らなかったので、後からこんな事を聞かされ、オレは責任を感じた。


フロントはオレの事を必要としているし、帰国しなければならない。

何よりギガンテスがこんなに暴れる原因を作ったのはオレだ。


オレはジムでミハエルコフやローマン達に別れを告げた。


「楽しかったよジングウジ。

またこっちに来た時はスパーリングやろうぜ」


ミハエルコフとガッチリ握手してオレはイギリスから日本へ帰った。


今の日本マット界の事が心配だ…


しかし、オレはすぐに帰国せず、ある国へ半月程滞在してから帰国した。


イギリスでキャッチレスリングとコマンドサンボを学んだが、実はもう一つ気になる格闘技があって、その発祥の地でその格闘技を見て、基礎を学んでから帰国した。


…もしかしたら、帰国してすぐにギガンテスと当たる可能性もある。

そうなると、ギガンテスはプロレスじゃなく、オレを潰しにかかってくるだろう。


またシュートの予感がする、頭の中でよぎった。

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