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最強のエンターテイメント  作者: sky-high
レスリングマスター、そしてコマンドサンボ
18/51

キャッチレスリングを習得してこい!

あの試合から1週間が経った。


縫った箇所もほぼ癒えた状態だ。


試合を終えた翌日は身体中至る所に無数のキズ口がヒリヒリして、痛み止めの薬を飲んでも効果は無い程で、満足に眠れる状態じゃなかった。


オレは現在合宿所から出て、都内のマンションで一人暮らしをしている。


試合後、車で家まで送ってもらい、佐藤さんや山田さんはしばらく自宅療養という形で家で休んでろ、と言われた。


オレはどうなるのか?あのまま退団届けを受理するのか、それとも佐藤さんと山田さんが待ったをかけてWWAに残れと言われるのか…


しかし何もしないで部屋にいるのは退屈だ。


オレは道場でも行ってトレーニングを再開したいのだが、会社側がオレの処遇をどうするのか結果が分からないまま道場でトレーニングするのは如何なものだろう?と思い、道場へ行くのを躊躇った。



部屋でゴロンと横になり、あの試合の事を振り返る。


翌日のスポーツ紙には大きく取り上げられ、プロレスラーとは何か?

強さなのか?それともエンターテイメントなのか?

そんな事が書かれてあった。


プロレスの専門雑誌では、オレがクルスフィックスで斎川を押さえ込んでいる様子が表紙を飾っていた。


全てカラーの記事で、途中までしか読んでないが、シュートがデスマッチを制した、プロレスラーは強くなければならない、そんな事が書かれており、試合内容としてはオレの完勝、そんな記事だった。


完勝じゃないな…

確かに端から見れば一切の凶器攻撃を使わず、シュートスタイルのレスリングで攻めていたオレがペースを握っていたように見えるが、実際は完勝ではなく、辛勝だとオレは思う。


あの雰囲気、あらゆる凶器攻撃、そして異様なまでの観客の盛り上がり。


オレは試合を終えた時、全身から流れ出る血の量を見て、ゾッとした。


それと同時に斎川はあんな血の量を毎回流しているのか、と。


額に刻まれたシワのような傷跡、デスマッチを誰よりも数多くこなしてきた証だ。


オレはとてもじゃないがあんな試合を続ける自信は無い。


斎川も斎川なりにプロレスラーとしての凄味を見せつけていたのだろう。



それと試合後にカイザー大和から言われた言葉【シュートなら相手の命を奪うつもりで殺れ!】

この言葉が頭の中から離れない。



あれはホントにシュートだったのか?当事者のオレが言うのもなんだが、試合前まではシュートを公言してリングに上がった。


相手の指を折り、肩を脱臼させた。


しかしそれがシュートなのか?と問われると自分でも分からない…


シュートだと思っていただけなのでは?


シュートに一切の情は無用、ただ目の前の相手を潰す、即ちレスラー生命、いや人生をも絶つつもりで闘うのがシュートなのではないか?


自問自答するが、答えなんて出て来ない。


だが周囲はオレをシュートレスラーとしてのイメージを持っているだろう。


となると、今後のプロレス人生に大きく関わる。


神宮寺直人=シュートという先入観で見られてしまう。


そうなると、今後オレはシューターとしてのイメージを植え付けられ、通常のプロレススタイルだと観客がどう反応するのか?


マッチメーカーだってオレにどんな選手を対戦カードを組めばいいのか悩んでしまう。


オレが試合に出ればシュートを期待していまう、そんな不穏な試合を待ち望んでいるとなれはこの先オレはどんなスタイルで試合をすればいいのか分からなくなってしまった。


一介の中堅レスラーが総合格闘技へ参戦して勝利し、巨漢の外国人レスラーをスープレックスでKOし、インディのデスマッチ王とはシュートで制した。


徐々にだが、オレというプロレスラーが有名になった。


有名になるのは悪い事ではない、むしろ良いに決まっている。


だが、有名になった理由がシュートとなれば、シュートしか出来ないブック破りのプロレスラーとして危険な存在になってオレは目標にしていたWWAのチャンピオンにはなれない。



いつまたブック破りのシュートを仕掛けてくるのか、対戦相手はオレとの試合を引き受けてくれるのか?



…そう考えたらオレはこれからどんなスタイルで試合をしなきゃならないのだ。



そんな事を考えていた時、連絡あった。


WWAの関係者からだ。


【キズの方は大丈夫か?もし動けるなら会社まで来て欲しいんだが】


オレは何もする事が無く、退屈な日々を過ごしていたので「はい」と返事をして会社へ向かった。


来社して上層部の連中から祝福とケガは大丈夫か?と言われた。


「問題ないです。ところで何か話があるのでは?」


オレは今後の事についての話し合いだと思っている。


佐藤さんと山田さんも同席の上で会議室で話をした。


「あの試合に勝ってWWAは団体No.1だという事を証明してくれて君には本当に感謝する」


役員の一人がそう言って握手を求めてきた。


「いえ、こちらこそ勝手な事をして申し訳ありませんでした」


オレは握手をしながら勝手にDangerのリングに上がった事を詫びた。


「結論から言わせてもらうが、君はこの団体を出ていく必要は無い」


そうか、デスマッチに勝ったレスラーが団体を出ていくなんてWWAは何を考えてんだ?

と言われるだろうからな。


だが役員は表情を曇らせながらオレに話を続けた。


「君が勝った事で君と我が団体の株はかなり上がった。

だがそれと同時にマッチメーカーが君と対戦させる相手がいなくなってしまった。

シュートを仕掛けてくるんじゃないか、って特に外国人レスラー達が君に警戒心を抱いてしまっている」


やっぱりそうか…


あの試合以前にもギガンテスをKOしたジャーマンや総合格闘技で勝利した事でオレの対戦相手を誰にしようかマッチメーカーは頭を悩ませているって事か…


ふと、頭の中をよぎった事を役員達に伝えた。


「ではしばらくの間、海外遠征をしてみたいのですが…」


役員達や佐藤さん、山田さんはキョトンとしていた。


「前からキャッチレスリングに興味あったんです。イギリスで本場のキャッチレスリングを学びたいんです」


オレは頭を下げてその願いを聞き入れてくれるよう頼んだ。


「いいんじゃないか、キャッチレスリングなんて今どきやる選手はいない。私は彼の意見に大賛成だよ」


山田さんがオレの提案に賛成してくれた。


「…」


役員達は少し考えているようだ。


「対戦相手がいないでここにいるより海外で暫くレスリングをしてみたいんです、どうかお願いします」


もう一度頭を下げた。


「神宮寺行け!その代わりもっと強くなって帰ってこい、いいな!」


佐藤さんはオレの肩をバンと叩きながら後押ししてくれた。


「まぁ、今の状態じゃ試合が出来ないんじゃ仕方ないでしょう」


役員達は佐藤さんと山田さんに押しきられるような形で納得した。


「ありがとうございます。

キズ口が癒えたらすぐにでも出発しようと思ってます」


オレは礼を述べ、すぐにでも海外へ行く準備をしようと思った。


「ところでキャッチレスリングをやりたいと言ったよな?ならばロンドンに行け。

そこにキャッチレスリングのマスターがいる。

そこでキャッチレスリングを習得してこい!」


こうしてオレは山田さんの紹介でロンドンへ旅立ち、キャッチレスリングのマスターと言われた、ロイズ・カーウィンという往年の名レスラーの下で一年間キャッチレスリングを学んだ。

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