強さを求めて何が悪いっ!
斎川がリングに上がったのはアングルでも何でもなく、WWAの許可無しに勝手にリングに上がり、対戦を要求しただけで、こっちとしては既に両団体との対抗戦が始まるというアングルだと思っていた。
それにオレが乗っかってしまい、Dangerは即座にメインの試合として、オレと斎川のデスマッチをやるとぶち上げた。
セコンドばかりで試合をやりたくてウズウズしていたオレはまんまとDangerサイドの思惑通りに動いてしまったワケだ…
翌日、本社に呼び出され、上層部からえらい剣幕で怒られた。
【今やメジャー団体ナンバーワンのWWAがデスマッチ主流のインディ団体と対抗戦をして何の得になるというのだ】と。
しかも【お前は向こうの挑発に乗ってしまったんだ、しかもリング上でシュートを仕掛けるだなんて、一体何を考えているんだ!】
そんな事言っても、もう向こうの挑発に乗っかったんだ、今さら後には引けない。
それならば、とオレは退団届けを提出した。
2週間後に行われるDanger主催の試合にはフリーとして出場する、それなら問題は無いだろうと。
新体制になったWWAの役員達はオレをどのようなレスラーにしようと考えていたのか?オレはこの際だから聞いてみた。
だが、新たに生まれ変わったWWAはオレというレスラーをあまり重要視していなかった。
総合格闘技に出たのも、以前のオーナーであるカイザー大和の指令の下であって、今のWWAのカラーに合うタイプのレスラーではないと判断していて、会社側としては、タッグ専門のレスラーとして、タッグチャンピオンにさせるつもりだが、団体の4,5番目の存在、つまり中堅レスラー止まりで、とても財前のライバルという立場には程遠い。
おまけに外国人レスラーのエースであるギガンテスをスープレックスでKOし、欠場させたというペナルティとして、無期限の試合停止処分でセコンドでリングサイドから試合を観る日々。
リングに上がらないレスラーなんてレスラーじゃない…
新弟子じゃあるまいし、オレのフラストレーションは溜まりに溜まっていた。
後から来た後輩のレスラーに後塵を拝するような形で遅れをとり、ただリングサイドでセコンドとして巡業に帯同するだけ…
どのみち、昨日はシリーズ最終戦で、メインの試合が終わった後に退団の話をしようと思っていたところだった。
ギガンテスをKOしたスープレックスは危険すぎるし、他の外国人レスラー達からは、あんなスープレックスを受けたくない、受け身が取れないと苦情もきている。
総合格闘技で勝利し、ギガンテスをKOしてここから勢いに乗って財前の保持するチャンピオンベルトをオレの腰に巻くという目論見はあっさりと崩れ去った。
おまけにエンターテイメントプロレスを掲げる我が団体に古くさいレスリングをする地味な選手をどうやって売り出すのか、会社側としてはオレの扱いに困っていたところみたいだが、もうオレ自身がこのWWAという団体に何の魅力も感じなくなってしまった。
斎川との試合はWWAを退団し、どこの団体にも属さないフリーランスのレスラーとしてDangerのリングに上がると言う事を伝えた。
【ウチの団体を出ていった選手の言った事で、我々としてはこの件に関しては一切タッチしない。だからお前が何処のリングに上がって試合をやろうが構わない。
アングルやブックに関してはDangerサイドと個人で話し合ってくれ】
これがWWA側の出した答えだった。
しかし、プロレス最後の試合がデスマッチとは…
仕方ない、これからは総合格闘技でプロレスラーという肩書きで試合をしよう、そう心に決めていた。
だが、オレの退団に待ったをかけてくれた人物がいた。
WWAの最高顧問という立場で、かつてはカイザー大和と共にWWAのリングでしのぎを削った、佐藤隼士という人だ。
プロレス入団前は柔道でオリンピックに出場した経歴を持ち、帝国プロレスに入団。
その後はカイザー大和と同時に帝国プロレスを退団し、WWA旗揚げに一役買って出た往年の名レスラーだ。
そしてもう一人は、当時WWAの営業部長で、この人がいなかったら、現役のボクシング世界ヘビー級チャンピオンがカイザー大和と異種格闘技戦を行う事は無かっただろうと言わしめた、山田重信という、かつてはカイザー大和の参謀的存在で、現在はWWAで相談役という役職に就いている。
この山田という人は人脈がかなり広く、カイザー大和を日本のトップレスラーにする為、大物格闘家をリングに上げる事に奔走した。
【ストロングスタイル】
【キングオブスポーツ】
【プロレスラー最強】
こういったキャッチコピーでプロレスの全盛期を築き上げた影の功労者だ。
この二人がオレの退団に異論を唱えた。
「強さを証明するのがプロレスラーなんじゃないのか?エンターテイメントもいいが、レスラーは強さの中にエンターテイメント性が必要とされる。なのに今のプロレスは何だ?強さよりもエンターテイメント第一だと?履き違えた事をしてるのはお前らだ!プロレスを何だと思ってるんだっバカものが!」
佐藤さんは役員達の前で一喝した。
さすが老いてもかつての名レスラーだ、その迫力に役員達はたじろいでいる。
山田さんもその場にいて、今のプロレスの在り方というのに異論を唱えていた。
「イロモノみたいな選手ばかり増えてプロレスラーの凄みが全く伝わらない!飛んだり跳ねたりして、顔の良いヤツらばかりを売り出して強さを全面に出すレスラーがいないじゃないかっ!そんなにサーカスの曲芸みたいな技が必要か?」
山田さんもカイザー大和がプロレスラーが強いという証明を見せつける為、世界各国の名だたる格闘家相手に異種格闘技を行い、その都度世界に渡り交渉をしてきた。
「しかしですね、今のプロレスというのは昔と違うんですよ。ファンはより洗練された見映えのいいレスラーと技、そしてアピールの度合いによって人気が増えてくるんです。
強さばかりを競うなら何もプロレスじゃなく、総合格闘技があるじゃないですか?」
役員の一人が反論した。
「お前はプロレスというのが何が一つ解ってない!だから素人みたいなヤツらがプロレスラーだなんて名乗っていくつもの団体が乱立してるんだっ!」
佐藤さんの言うとおり、今のプロレス団体はメジャー、インディ問わず合わせて何十団体もある。
オレも全部のプロレス団体の名称や、どんなレスラーがいるのかも全く知らない。
コミカルなリアクションをする団体もあれば、男女混合の試合にをする団体もある。
一目見て、ごく普通の一般人みたい人物がプロレスラーを名乗る時代だ。
佐藤さんと山田さんはそんな今のプロレスの在り方について異を唱えている。
「とにかく我々は彼の退団届けをハイそうですかって受理するワケにはいかない」
山田さんはオレの退団届けを受理せずに保留という形にして欲しいと言い、佐藤さんも山田さんと同じ意見だった。
そしてこの二人に言われたのはただ一言
「お前のシュートを見せてもらおう」
二人はニヤって笑ってオレがどのような試合をするのか、お手並み拝見といった感じの様子だった。




