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第五話

 美空と話しながらスカートの試練に耐えていると、歩いて三十分程で学校に着いた。

 今時珍しい木造校舎で、昭和にタイムスリップしてきたような感覚に陥ったが中々趣があっていいと思う。


「思ったより大きい学校なんだな」

「そうだね。結構人がいるから吃驚した」


 古いから人も少ないのだと思い込んでいたが違った。

 俺達がこれから通う銀水生商業高校は約三十人のクラスがAからEまである。

 それが三学年まであるのでざっと数えると全生徒数は約四百五十名。

 昇降口の隣の壁面にクラス表が張り出されていた。


「あ、オレ達同じクラスだ。A組だ」


 同じA組と書かれた紙の中に俺達の名前があった。

 A組から探し始めたのですぐに見つけることが出来た。

 誰も知っている人はいないし、女子で過ごしていく勝手が分かっていないので同じクラスにいることが出来るのは心強い。

 お互いに『良かった』と顔を見合わせた。

 

 年季の入った下駄箱に靴をしまい、教室に向かった。

 といってもA組は昇降口から一番近い教室だったのであっという間に着いた。

 スライド式の扉は開け放たれたままだった。

 教室の中は既に生徒で賑わっている。

 同じ中学から来ているのか、グループでワイワイと騒いでいる姿も見える。

 少し気圧されながらゆっくりと教室の中に足を進めた。


 黒板に座席表が貼られていた。

 男女交互で列になっている。

 順番は名前の五十音順だ。

 名字が一緒の俺達は隣の席だった。


「まあ、近くでいるのは助けるけどさ……。学校でまで並んで座って顔見なきゃいけないのも嫌だな」


 愚痴りながら席を目指し、辿り着くと鞄を下ろした。


「え? 『お兄様が隣で心強いです!』って言った?」

「どんな耳してんだよ」


 他に友達がいるわけでもなく、することのない俺達は席について大人しく担任がくるのを待つことにした。

 時計を見るともうすぐチャイムがなりそうだし、うろつかない方がいい。


「「あ」」


 なんとなく教室の扉の方に目を向けていた俺達の声が重なった。

 あの子だ!

 桜色の髪のあの子がこの教室に入ってきたのだ。

 目で追っていると、黒板の座席表を確認して席についた。

 やった……クラスメイトだ!


「よかったじゃん!」

「うん」


 声を掛けてきた美空に素直に頷いた。

 ツイてる!


「あ、こっち見てる」


 美空に言われて彼女の方に目を向けるとこちらを見ていた。

 こちらというか、やっぱり『海人』を見ている。


「凄い見られているけど……なんか話し掛けて来ようか?」

「そうだな……」


 美空にはまだ何も説明をしていないから、何を話して貰ったらいいだろう。

 『覚えてる?』とか『久しぶり』とか?


「そこのあなた!」


 話して貰う内容を考えていると正面から二人の女子がやって来た。

 一人はお嬢様風?

 赤みがかった茶色、小豆色の長い髪を緩く巻いていてゴージャスに仕上げているのだがどこか懐かしい匂いがするというか……古めかしいというか……昭和?

 校舎に合わせているのか?

 黄色のカチューシャをつけていて、スカートは少し長めで黒のタイツを穿いている。

 その後ろにいるもう一人の女子は昭和お嬢様の付き人なのかなという印象をもってしまう出で立ちだ。

 竹を思い出させる渋い緑の髪をお下げに纏め、レンズが分厚そうな銀縁のメガネを掛けている。

 二人纏めると更に昭和感が増す。


「あなた、見ない顔ね」


 二人は俺達の間で止まると、美空に向かって口を開いた。


「遠くから引っ越してきたから。よろしくね」


 美空が本来の海人である俺では絶対に見せない素敵な笑顔で挨拶をした。

 恥ずかしい……自分の営業スマイルを見るなんて罰ゲームでしかない。

 顔が赤くなりそうになった俺だったが、笑顔を向けられた二人の顔は既に真っ赤になっていた。

 え……?


「知子!」

「華鈴ちゃん!」


 お互いの腕を掴んで揺すり合っている二人。

 とても興奮している様子だが……なんなのだ。


「ところで、あなたも見ない顔ね」

「え? まあ、ワタシも……あ」


 急に質問をこちらに向けられた。

 焦りつつも答えようとしたところでチャイムが鳴った。

 時計を見ると、教室で着席しているよう指示をされていた時間になっていた。


「はーい、一年A組の生徒は席に着いてくださーい」


 チャイムが鳴り終わるより前に、生徒に声を掛けながら担任らしき女性教師が入って来た。

 二人組の女子も俺の返事を聞かず席に戻って行った。

 折角あの子と話せるチャンスがあったのに……。

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