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第十二話

 今日から教科の授業が始まった。

 と言ってもどの教科も、この一年でどういった内容を取り扱うのかの説明や、教材の確認ばかりだった。


 教科の合間には十分間の休憩がある。

 とても重要な十分だ。

 なのに……。


「あなた、海人の写真を寄越しなさいよ」

「寄越してください。華鈴ちゃんはモテない面食いなのです」

「余計なことを言わないの!」

「あ、私は音声でお願いします」


 また昭和女子組に絡まれた。

 この子達の相手は面倒だな。

 モテないという情報は親近感が湧くので好感度アップだが、今は話し掛けないでくれ。

 あと音声ってなんだ?


 無駄なことで貴重な時間を消費したくない。


「本人に頼めば? カイト! この子達、用があるんだって」

「なっ、あなた!」


 海人は女子に囲まれ、和気藹々と話をしていた。

 取り巻きが出来ている……。

 羨ましいを通り越して恐ろしくなってきた。


「何か用? こっちにおいでよ」

「! 参りますわ!」

「行きましょう!」


 こっそり写真を手に入れることより、直接美空と話すことを選んだようだ。

 良かった、厄介払いが出来た。

 美空と目が合った時小さく頷いていた。

 俺の手が空くように引き受けてくれたのかもしれない。

 昨夜、日鞠ちゃんと話せたことを伝えたら『良かったね』と一緒に喜んでくれたが、その一方で約束を守れなかったことを気にしていたから罪滅ぼしのつもりなのかも。


 よし、美空のおかげで自由になったので日鞠ちゃんの元に直行だ。


 騒がしい教室の中、彼女は静かに席に座っていた。

 ぽつんと一人で寂しそうに見える人もいるかもしれないが、俺にはどこか神々しく見えた。

 彼女が纏う空気は澄んでいて透明だ。


 話し掛けづらい美しさがあり、声を掛けるのは緊張するが休憩時間は短い。

 躊躇っている余裕はない。


「水沢さん。学生食堂にジュースを買いに行かない?」


 俺が近づいていたことに気づいていなかったのか、こちらを見た目は少し揺れていた。

 動揺したようだ。

 隠すように手にしていたスマホをソッと反対側に裏返した。


 メッセージアプリの画面を開いていたのは見えた。

 誰かに連絡しようとしていたのだろうか。

 おのれ、羨ましい。

 俺はまだ一度しか貰っていない。


 反応を待っているとこくんと頷き、立ち上がった。

 はあ、可愛い……。




 ※※※




 学食は短い休憩時間だというのに人の姿が多くあった。

 殆どがジュースを飲んでいるだけか雑談をしているだけだが、中にはお菓子を広げてパーティのような状態になっているグループもいる。

 休憩時間十分だぞ?

 少し呆れながら賑やかなテーブルの横を通り過ぎた。


 辿り着いた一角、そこには自動販売機がずらりと並んでいる。

 ジュースが殆どだが、お菓子やアイスを売っているものもある。

 日鞠ちゃんはどういうものが好きなんだろう。


「一年A組のお花ちゃん達みっけ! ここ来るんだったらおれも誘ってよ!」


 声の主は見なくても誰か分かる。

 留年している奴の匂い、ダブり臭がする。


「「……」」


 打ち合わせはしていないが、日鞠ちゃんと完全無視の方向で一致だ。

 良かった、俺達気が合うかもしれない。


「水沢さんは何飲む?」

「お水。桃の味の」

「水か。健康的だね」


 桃をチョイスする辺りが女の子らしくていい。

 水も透明感のある彼女にぴったりだ。

 ほっこりしながら自分はビンに入ったビタミン補給の出来る炭酸栄養ドリンクのボタンを押した。


「エネルギーチャージして元気になったところでおれと遊ぼ!」


 うるせえな……本当に鬱陶しい!

 反応してしまうのも癪なので、苛々しながらも無視をしていると学食の入り口付近が騒がしくなった。

 女子の声が多く聞こえる。

 何の騒ぎだ?


「新しい同級生にまで迷惑を掛けているのか、お前は」

「なんだ、この空気はやっぱり煌か。お前が来ると迷惑なんだよ、シッシッ!」


 誰かが鳩羽に話し掛けた。

 ちらりと目を向けると、妙にキラキラした上級生らしき人物がいた。

 なるほど、周りがざわついていたのはこいつがやって来たからか。

 確かに女子が好きそうなイケメンだ。


 髪は長めのショートヘアーで菫色、瞳は鮮やかな水色でどこかミステリアスな雰囲気が漂う美形。

 背も高く、モデルでもやっていそうだ。

 イケメンか……害しかないな。


「君達、こいつのことは無視していいからね」


 関わらずに立ち去ろうとしていたのに、キラキラした奴がキラキラした笑顔を振りまきながら話し掛けてきた。

 以外にも話し方は柔らかい。

 もっとクールなのかと思ったが……ってどうでもいいや。

 スルーしようとしていたのに話し掛けられては困る。

 先輩クラスメイトは兎も角、上級生を無視するわけにはいかない。


「はい。無視しています」

「ははっ。そうか。余計なお世話だったね」

「いえ。お知り合いなら引き取って頂けると助かります。騒々しいので」

「酷いなあ。でもそらちゃんはそうやっておれの気を引く作戦なんだよねえ。可愛いなあ。ひまちゃんもおれと遊びたいよね?」

「妄想は大概にしてお引き取りくださいクラスメイト先輩」


 チャラ男にもキラキラにも日鞠ちゃんは近づけない。

 二人から隠すように彼女の前に立ち、壁になった。

 日鞠ちゃんは俺が守る!


「あはは! 『クラスメイト先輩』だって。これ以上無いくらいお前にぴったりな呼び方じゃないか」

「愛を感じるわー」

「感性を患っているようなのでお薬を飲んでください」

「あはは!」


 こちらは日鞠ちゃんとの時間を邪魔されて苛々しているというのに、野郎二人は楽しそうだ。

 それが更に苛々を煽る。


「僕も引き取るのは遠慮するよ。いらないから」

「そうですか」


 ならばお前に用はない。

 これ以上日鞠ちゃんとイケメンを近づけるのは嫌だ。


「僕はこいつの元同級生で天竜寺煌と言います。君、名前を聞いてもいいかな?」

「そらちゃんとひまちゃんだよー!」

「お前に聞いてないから」


 美空が喜びそうな絵面だな。

 どっちが攻めとかそういう話しが始まりそう……って毒されてどうするんだ。


「休憩時間が少なくなったので教室に戻ります。失礼します」


 まだ何か話があるような素振りをしているのが見えたがさようなら。

 日鞠ちゃんが一緒に来てくれているか確認しながら学食を出た。

 少しだが無駄な時間を過ごしてしまった。


「水沢さんがああいう人はどう思う?」

「?」


 教室を目指し、廊下を歩きながら日鞠ちゃんに質問をした。

 日鞠ちゃんもああいうイケメンがタイプなのだろうか。


「さっきのイケメンの先輩。えっと、異性としてというか……」

「苦手」

「そうなの? なんで?」

「キラキラしてるから」

「! 分かる~~~~」


 日鞠ちゃんが理解ある人で良かった!

 俺、普通で良かったよ。


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