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恋人が竜でした

例えば目の前の普通の人間にみえる自分の恋人がいるとしよう。その人間は自分に大事な話があると言って真剣な顔で自分を夜の人気のない広場に連れてきたとしよう。

「…俺は、竜なんだ」

そう、真面目に告げられたとしよう。首をかしげる私の反応は、皆理解していただけるだろう。

「えっと、すごいねぇ」

とりあえずこんな言葉しか思い浮かばなかったのは私だけの落ち度ではないと思う、本当に。目の前の男は真剣な顔をしている、今日も元気よく森の木を切ったりする木こりの1人である。穏やかで、木こりにしては豊富な色々な知識で、昔からうちの村の外れで住んでいる男だ。

「…信じてもらえないかな」

「まあ、本当ならなんで人間の姿でこんな辺鄙なとこに住んでるんだろうなって思うかな」

「竜でも人間が好きな奴もいるんだよ、僕みたいに…少し、離れていて」

急にその瞳を曇らせて、彼は私から距離をとった。言われた通り遠くまで離れていく彼を見守る。

「嫌になったら、逃げてくれ」

「へっ?」

遠くから聞こえる声に聞き返すと、瞬間、爆風が私を襲った。息ができないほどのそれに顔の前で両腕を組む。それが止み、目を開くと自分の前に月夜を遮る大きな影ができていることに気づき、顔を上げる。

そこには、赤い瞳をもつ黒い大きな物体がいた。月光に照らされて、その物体が持つ鱗がきらきらと光る。爬虫類苦手だったら卒倒するだろうな、これ。

「これが、俺なんだ」

竜が出す声は先ほど目の前にいた男の声だった。ついていけない事実でも、とりあえず自分の恋人は実は竜でした、ということはわかった。

「えっと、すごいねぇ」

またもや何も思いつかず、よくわからない発言をしてしまった。

「…怖くないのかい?」

「んーと、喋りにくいからさっきの姿に戻って欲しい」

大柄な竜を見上げると首が痛いし、踏み潰されないかちょっと怖い。おまけに声が大きくて耳が痛いのだ。彼は何も言わず、さっきの姿に戻る。先ほどの爆風はなく、瞬きの間に知らぬ間に姿が変わっていた。なんでさっきは爆風を撒き散らしたのだろう。そっちが気になってしまう。続いた沈黙を破るために、他愛のない話をしようと適当に思いついたことを言う。

「竜に戻った時って、私とか人間を食べたくなんないの?」

「世界に舞っている魔力があるからお腹は空かないんだ。食べることはできるんだけどね」

「じゃあ私のあげたクッキーとかシチューとか嫌じゃなかったの?」

「君から貰ったものなら毒でも食べるよ」

「うわっ」

私がちょっと彼の気迫に引くと、彼はしゅんとした表情で俯向く。こいつは割と一途というか一途を還元濃縮したような人間である。まぁ監禁されたりとかそういうことはなくて、普通の凡人である私にとっては身にあまるほどの素敵な恋人であるのは間違いない。

「君は、俺が怖いと思った?」

「うーん…すごいなって思った」

よく物語で種族を超えた愛!みたいなものが謳われているけど、実際に自分の恋人が竜だったらこんな感じだと思う。自分の家族が実は竜だったと言われるくらいだ。現実味もなくあっそうなんだすごーいとしか言えないと思う。別にそれで相手が嫌いになる訳ではない。どうせ中身はあののほほんとした自分の恋人だしなあ、と呑気に思う。

「でも、竜って偉いし長生きなんでしょ?」

「うーん…そうなのかな?俺はよくわかんないけど」

「いいの?私あんたよりもすぐ死んじゃうよ?」

自分の目の前で立っているじぶんより少し背の高い男を見上げる。彼は目を見開いてこちらを見つめた。

「俺を、受け入れてくれるの?」

「あー、こんな凡人でいいなら、どうぞ?」

何だかこいつがまるで私が死ぬまで居てくれることを前提にした発言をしてしまったかと、彼から目をそらす。結構図太いことを言ってしまって恥ずかしい。しかし目の前のこの男は全然それを気にせず、私の腕を引っ張って腕の中に私を閉じ込める。

「本当に嬉しい、夢みたいだ」

「そう、よかった」

「番は君以外考えられないから、怖かった。拒絶されたらずっと1人だったから」

「つがい、って?」

「愛してる」

嬉しそうに私を抱きしめているこいつは私の話を聞く余裕もないようで、溜息をついてそのままその腕の中で目を閉じた。


落ち着いた恋人から番にシフトした男から、竜の番にはどういう意味かとか、実はこいつがえげつない権力者の息子とか、結婚式は王に会わないといけないとか、色々私が目を回すことが待っていることを聞かされるのだが。自分の好きな相手がたまたまそうだったから、諦めるしかないんだとそう思う。

愛って偉大、美しい夢物語のようなこんなフレーズも、ちょっと分かってしまうなと、幸せそうな夫を見て思ってしまった。

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