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咎の勇者  作者: 如月厄人
第一章 勇者敗北
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1-7

 俺は斧を担ぎ直してアルマに尋ねた。


「アルマ、魔力が切れたらどうなる」


「…気絶します。魔力は体の中のエネルギーと同義です。それを使い切るということは、体を動かすエネルギーを切らすということでもあります」


 最悪の場合、死にます。


 それを聞いて俺はルーラーに背を向けた。


「お前が何を護ろうとしているのかは知らんが、この街でお前が守るべきものはもう無い。俺たちも訳あって王国に頼ることは出来ん。寧ろ逃げているところだ。だからお前に選択肢をやる」


 俺は扉を開け放ち、今にも破られそうな聖堂の扉を睨みつける。


「ここでこのままのたれ死ぬか、俺たちと来てその役目を果たすかだ。来るなら時間を稼いでやる。来ないなら俺たちはお前を置いてこのまま壁をぶち破って逃げる」


 木製の大扉に割れ目が入る。斧やら剣やらを突き立てて闇雲に扉を破壊しにかかる化け物共。鍵を狙わない辺り、知能指数は低いとみた。


 だが扉は今にも破られそうだ。


「早く決めろルーラー!お前の役目はもう終いか!」

「っ、行きます。私はこの世界を終わらせたくない。終わりになんかしない!」


 俺は両手に大斧を構えた。


「良い返事だ。アルマ、裏口から出ろ。ある程度までいったら魔法か何かで合図してくれ」

「はい!」


 俺はグッと脚に力を込める。


  キンッ!

『大旋壊』

  バゴォッ!


 一歩で扉越しに間合いを詰め、思い切り大斧を薙いだ。青い輝きを灯した大斧はゴッソリと壁ごと扉を破壊する。


 だが、勢いは止まらない。両脚を揃えて接地面を小さくし、身体を勢いに任せて回転させた。グルングルン回る視界に、『大旋壊』で薙ぎ払われた化け物共の後続が見える。更に回転数が増し、風が巻き起こる。やがてそれは大きな竜巻を引き起こした。


 キンッ!

『バルディッシュトルネイド』


「ァアアッ!」ギュンッ!


 大斧を手放すと、竜巻を纏った大斧が周囲を存分に巻き込んですっ飛んでいった。


 だが、新たな風に竜巻が掻き消される。その余波で竜巻が巻き込んでいた瓦礫や死体の残骸がまた撒き散らされる。


 人間…?


 回転していたせいで後続の姿ははっきりとは見えていなかったが、先頭に立っているのは間違いなく人間だった。煤けた黒いコートに見慣れたワイシャツが目につく。


「お前が「咎」か。…良いステータスだな、勇者とは桁違いだ」

「…魔王」

「ご明察。結局、勇者になるんだな」

「生憎と勇者はガラじゃあない。殺し合いがしたいなら他を当たってくれ。こちとらお前らが作った罪の尻拭いで手一杯なんでな」

「そういう割には、俺の邪魔をしてくれるじゃねえか」


 魔王と思しき青年の手に一冊の本が浮かび上がる。魔導書(グリモア)…、さっきは後れを取ったが、今はアルマが居ない。


 警戒を強め、腰のロングソードに手を掛ける。


 魔王は自分の前方に魔導書を浮かばせ、口許を歪める。


「調停者をどこに連れてったんだ?」

「さぁな、俺も知らねえよ」

「そう言うと思ったぜ」


 魔王が横に手を薙ぐ。


「っ」

  ゴッ!「ぐっ!」


 見えない何かに横から殴り飛ばされ、壁に激突する。膝をつかずに直ぐに体勢を立て直した。


 魔王はそれを見て、目を細め、何かを確かめる様に手を引いた。俺は横に跳ねる。


「ふっ!」

  ゴッ!


 俺がぶつかった壁が抉られる。魔王は何かを確信した様で、俺に声をかける。


「…見えているな」

「何がだ?」

「ククッ、良いぞ、スゲェ良い。ちょっと遊ぼうぜ!」


 高速で腕が振るわれる。


 クソ!まだこっちはよくわかってねえってのによ!


 視界を埋め尽くす黒い線。かわせない…。


 なら突破だ。


  キンッ!

『魔封剣』


 抜き放ったロングソードを顔の横で水平に構える。見えていた黒い線は螺旋を描いて刀身に吸収されていく。


「そう!そうこねえとさぁっ!」


 魔王が手を天に翳す。瞬間、雲が円状に割れ、それは姿を現した。


 隕石。しかも超特大。更に周りの瓦礫やら何やらを集めて更に大きくなっていく。


 思わず呆気に取られ、言葉が口を突く。


「何でもありじゃねえかクソ野郎」

「さぁあどぉする!!」


 どうするじゃねえ。


「どうにかすんだよッ!」


 甲高い音が連続で鳴り響く。


『魔力吸収』『魔ノ手』『上限解放』『限界突破』『練気解放』『高速練気』


 キンッ!

贖うその身(忘れられし者)


 剣にまとわりついていた魔力が吸収される。剣を鞘に納め、腰を落として拳を握る。肘から先が真黒く変色し、魔力を纏う。そこから、一度力が全身から抜ける感覚と共に、急速に力が漲り始める。コレは、そう、ギアが上がった様な感覚。ローギアから一気にトップギアに入った様な反動。


 そして握った拳が限界を訴え始める。ビキ、と覆われた黒い腕にヒビが入る。思わず眉間に皺が寄る。


「行くぜ世界最凶、俺の限界を教えてくれよ」


 笑いながらも玉の汗を浮かべる魔王と、しかめっ面で拳を構える俺。恐らくコレがお互いに最大の一撃。


 我慢の限界。


「『星崩しの巨星(ロストプラネット)』ッ!」


「『神の手(ゴッドハンド)』ッ!」


  空気の摩擦で表面が紅く変色した空を覆い尽くす塊目掛けて、身体を捻り、『魔ノ手』の限界以上まで溜め込んだ魔力を拳に乗せて吐き出す。


 ドッ!と地面に足がめり込む。俺の片腕から出たとは思えないほどの巨大な光の掌が真っ向から隕石と向かいあう。空気の振動と圧力が町の原型を留めさせず、いずれそれらは邂逅する。


「―――!!!」


 形容できない音が耳をつんざく。上だけに集中している場合じゃない。このままここにいたら俺も無事ではいられない。


 視線を下げる。


「?!」


 魔王が地面に突っ伏してる…!


 え、マジで出し切り?魔力切れたからぶっ倒れた感じか?


「うーんー、ええいくそめ!」


 俺は魔王に駆け寄りわきに抱えて走り出す。


「あぁ…?何…してんだ…」


「うるせえ、俺だって何してんのかわかんねえよ。けどな、今この世界で欠けていいのは俺の役割だけだ。お前は生きろ、魔王として」


 そういうと、魔王は俺をにらみつける。


「お前…逆だろ、それ。筋書通りにいきゃ、今欠けてるのは俺のはずだ」


「誰の筋か知らねえがそんなの俺の知ったこっちゃない。いいから黙ってろ。もうぶつかってもいい…」


 背後からの風にあおられて体が宙に浮く。


 ぶつかった…!


 浮いた体を翻す。着地の態勢は作れたものの風はさらに俺たちを遠くに運んでいく。


「っ!アルマ!」


 途中でアルマの姿が見えたが、あちらはあちらで魔法で障壁を張るのに精一杯なようでこちらに気づいていない。


「あれが咎守…、調停者もいるな」

「あ、」


 しまった…!魔王の狙いはあいつだった…!


「…今は放っておいてやるよ。あと、あんた、魔法は?」

「知らん、使えるらしいが魔導書がない」

「いや、必要ねえだろ。風の魔法は『サイト』だ」

「サイト?」


 頭の中で甲高い音が聞こえた。


『暗唱』『魔法操作』


 俺が口にした言葉が風を巻き起こす。その風は目に見える碧で、俺の前方を保ちながら渦巻いている。


「それを動かせ」

「簡単に言うな…!」

「難しく考えるな、お前の身体は知ってる」


 またそういうパターンか…!


 俺はアルマの方向を見ながら、見えている青い線を手でなぞる。


「おい、良い加減離せよ」


 魔王が俺の腕から離れる。そのまま足元に風を纏わせ、バランスの取りきれない俺の隣に並んだ。それから俺の背後に手を向け、背後からの追い風を止めた。


 お、バランス取りやすくなった…。


「…はぁ、今回は俺の負けだな」

「おう?………oh…」


『神の掌』が『星崩しの巨星』を押し上げていた。道理で追い風以外になんも飛んでこないわけだ。掌は巨星を崩す事無く、包み込む様に上へ上へと持ち上げていく。


 自分でやった事ではあるが、規模がデカすぎる。聖都メルタ一つ分はゆうにあるであろう隕石と、それと同じだけの大きさの掌だ。この地平線上にいれば誰もが目に入れる事ができるだろう。


「俺は行くぜ。次はもう少し自分の事を知っておくんだな」

「…なんと魔王らしくない」

「俺もこんな役じゃなきゃただの学生だったんだ。借りの出来た同胞に背中から斬りかかるほどのめり込んじゃいない」

「その割に、楽しんでるじゃねえか」

「それが俺の役だからな。『強敵との邂逅』、『虐殺』、この二つが俺の力を出し切れる条件だ」


 そこらへんも聞いておけ。


 そう言って魔王は碧い風に巻かれてその姿を消した。


 なんだかんだ良い奴だったな。


 自分の事をもっと知るべき…か。確かにそうかも知れない。


 アルマの目の前に降り立った。


 俺はまだ何も知らないままだ。


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