1-6
ステンドグラスを足でそのままかち割って中に入ると、教会らしい部屋に、人の死体が多数転がっていた。そのほとんどが、ばらばらに分解されている。
「ひどい…」
「…ルーラーを探す。何か手掛かりは…」
「シェァアッ!!」
「っ、チィ!」
頭上からの強襲を飛びのいて躱す。
「まだ残ってたか。しかも上玉連れてるじゃねえか、あぁ?」
青い表皮に艶めく鱗、赤いトサカに猛禽類と似た金色の目。軽装ではあるが、その手に持っている両刃の大斧を扱うための軽量化の一つだろう。
「ちょうどいいや、目の前でぶち犯してぶっ殺しゃ流石にルーラーもたまんねえだろ」
…どうやらこいつはルーラーの居場所を知っているらしいが、
「数々の暴言、耳に余るな」
俺はアルマをその場に下ろしてゆっくりと歩き出す。
「あ?サルが何言ってやがる。てめえに用はねえんだよ、今豚の餌用に解体してや」
キンッ!
「る」
『一閃:煌』
光の軌跡が遅れて辿る。
「トカゲ風情が、デカイ口を聞くな」
俺のロングソードの上に載っている首を投げ捨てる。剣を振り血を払い落とす。背後で崩れた胴体から、大斧を拾い上げた。
「行くぞ、アルマ。ボサッとするな」
芝居掛かった口が勝手に言葉を吐く。ハッとしたアルマが俺に続いて聖堂の奥の扉を開いた。
異臭、おかしな臭いが充満している。思わず眉間にしわが寄った。腐臭とも焦げた臭いとも違うその臭いに、アルマも口許を抑える。
奥に目をやると、光り輝く白い球体とその側に佇むローブ姿の何かがいた。
人ではないのは明らかだ。ローブの下から覗く脚には、肉がない。骨しか見えなかった。
「人間を連れて来いとは言ったが、やられろとは言っていないのだがな」
「貴様の都合など知らん。其処を退けろ。俺はそいつに用がある」
「奇遇だな、私も彼女に用がある。悪いがご退場願おう」
一瞬、ローブが翻ったかと思えば、巨大な闇の手が眼前に迫っていた。
「!」
「『氾濫する光』!」
俺の背後から光の波が押し寄せる。波は俺を躱して巨大な手を飲み込んでいく。
ローブの骸骨はまたローブを翻して闇の壁を作り上げ、波を堰き止めた。
宙にに本を浮かべたアルマは闇の壁に向けて手を突き出した。
「『反芻する光球』」
闇の壁ごと球体が包み込み、その中を光の線が乱反射する。更に一緒に囲い込んだ光の波まで中で反射し、壁を飲み込んでいった。
アルマは突き出した手をギュッと握る。
「クラウズ!」
声と共に光の球体が一気に凝縮され、跡形も残さず消えた。だがアルマは肩を落とした。
「…ごめんなさい、逃しました」
「いや、構わん。助かったぞ」
俺は斧を肩で担いで光の球体に近づいた。
「駄目!」
「!!」
俺が足を踏み入れた瞬間、足下が仄暗い光を灯す。それと同時に球体から聖衣を纏ったルーラーが飛び出す。ルーラーは俺に飛びかかる形で一緒に魔法陣の外へと飛び出した。
直後。
『グォァァア!!』
バグン!!
何もない空間に、魔法陣の下から現れた巨大な口が食らいつく。そしてそのまままた魔法陣の下へと消えていった。
なんつートラップだ…。
「ケイ!大丈夫ですか?!」
「あぁ、何とか。あんたは?」
「私も…大丈夫。私を助けに来たのなら要らないから…、早くここから逃げて…!」
「それは出来ません。今この世界は貴女を失う訳にはいかない」
「え、あ、あなた!咎守の…!」
「事情は後ほどお話しします。今はどうか、黙って付いてきてください」
「それは…出来ない…。まだ誰か残ってるかもしれないから…」
ルーラーは白と青のコントラストで織られた聖衣を踏まないようにしながら立ち上がる。何一つの汚れのない金色の髪に青い瞳、あの球体を維持するために魔力を使い続けたせいか、顔色は頗る悪い。このままここに置いていったとしても、彼女の魔力が尽きるのが先だろう。