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川に架かっていた橋はこの川を渡る唯一の交通手段らしく、幅が広い上に金属で作られており、足甲がカツカツと硬い音を響かせている。それ以外にも、馬車や荷車、魔力で走っているらしい路面電車など、一昔前の情景を思わせる景色があった。
まぁ、俺の生きた時代じゃ無いし、懐かしいとも何とも思わないのだが。
アルマの話によれば、俺の役割は「咎」。世界の罪を一身に背負ってそれを償い続けなければならない役割らしい。尤も、その世界の罪というのが、勇者と魔王の戦いそのものを指すらしく、簡単に言えば、戦犯を擦りつけられて投獄されているのと同じ事で、俺が何かしようがしまいが、勇者と魔王が戦ったら俺が牢屋にぶち込まれる、という事らしい。
理不尽極まりないんだよなぁ。しかもそれが正しいと思っていた事が信じられない。
…とりあえず、役割そのものに関してはわかった。それで、俺を解放した理由を聞くと、
「勇者が必ず勝つという歴史はこれで変わりました。だから、貴方が繋がれ続ける歴史も終わりでいいでしょう」
ぶっちゃけいうと?
「………、自由になりたかったんです」
という事らしい。彼女を含めた咎守の一族は、咎がこの世界に現れる事が感知できるらしく、代々使われてきた拘束具などを用いて咎を拘束し、それと歳の近い咎守一人は、世話係として側にいなければならない。
アルマの様な年頃の女の子には辛いだろうな、だから歴史通りに行かなくなった今回に乗じてその役目を無くそうとしたのだろう。
だが、これは立派な重罪に当たるらしく、彼女もまた王都から逃げなければならなくなったわけだが、それでも、マシなんだろう。
スキルについてもいろいろ聞かせてもらった。まずは『心眼』、これは対象の癖や特性を瞬時に見抜き、即座に対応する事ができる。下位スキルに見切りというのがあるらしい。
次に『刹那の一撃』、僅かな隙に最大の一撃を叩き込む事ができるスキルらしく、心眼との相性がいい。加えて、『刹那の連撃』によって続け様にそれが放てるようで、この三つの相性は最適と言っていい。
『練気』スキルは常時発動しているものらしく、無意識下で魔力を回復し続けるスキルで、魔法や技の発動と相性がいい。
そして『覇気』は本来勇者が持っているはずのスキルだという。感情の昂りに応じてスキル、技の能力が上昇するというもので、気分次第でメリットにもデメリットにもなり得るスキルのようだ。
『ウェポンマスター』はなかなかにおかしな性能のスキルで、全ての武器の習熟度、及び武術の習熟度をSランクに引き上げるというぶっ飛んだスキルだった。
確かに、これは粒揃いだ。アルマの説明を聞けば聞くほど、自分のステータスの高さに驚くばかりだ。
スキルや武器習熟度以外にも、基礎ステータスがあり、その部分はアルマと見せ合いっこした。
俺の基礎ステータスは以下の通りだ。
ケイ:咎人
体力:1825
魔力:1200
筋力:2130
俊敏:2492
信仰:150
魔性:1150
信仰が低いのではなく、他が高過ぎるだけらしい。信仰というステータスは回復魔法を使う際にその効力を左右するもので、魔性が魔法の攻撃力に当たるらしい。
つまり俺はスピードアタッカーなワケだ。
それに対してアルマの基礎ステータスはこんな感じ。
アルマ:咎守
体力:972
魔力:1530
筋力:326
俊敏:263
信仰:250
魔性:1875
「これ、ステータスの最大値は?」
「わかりません…、そこまで到達した人を見た事が無いので。ただ、貴方のステータスは今まで私が見た中で一番高いです」
「そういう目が有るんだな」
「スキルの一つです。『観察眼』といいます」
「へぇ…。ってかそうなるとアルマも結構凄いよな、魔性の値が」
「私は、咎守の一族としてずっと修行してきたんです。この数値まで負けてたら流石に泣きます」
アルマはツンとした態度を取る。どっからどうみても普通の女の子としか思えないが、魔法の腕では敵わないのだろう。
「そういえば、この数字なら俺も魔法を使えるんだよな?」
「使えると思います。見てみますか」
「それも見れるのか」
「見れますよ。それどころか、このアイテムが無いと魔法を使う事もできませんから」
アルマの手に一冊の黒い本が浮かび上がる。
「『魔導書』と言います。適当な雑貨屋でも置いてある品なので後で買いましょう」
橋を渡りきった所で、俺に本を差し出すアルマ。だが俺はそれを受け取らず、前方に視線を向けた。
「アルマ、目的地は何処って言ったか」
「え?聖都メルタですが…」
「方向は」
「ちょうどこのまま真っ直ぐ…、あ…」
舗装された道の先、ちょうど見えている聖堂らしき建物の頂点が、今、崩れた。
「走るぞアルマ。掴まってろ」
「そんな…、メルタが…」
信じられないといった顔のアルマを抱えて脚に力を入れる。光の筋が目に浮かぶ。
キンッ!
『疾』
発動した技は俺の身体の周囲に風を巻き起こし、俺の前進をアシストした。木々の高さを優に飛び越え、聖都の門に辿り着く。
正に地獄絵図。ゲームでしか見たこと無いような化け物が跋扈し、建物を破壊していく。門兵の姿は無く、いや、門兵だった残骸が辺りに飛び散り、ここから見える中の様子も惨憺たるモノだった。
崩れた街並み、逃げ惑う人の姿はとうになく、その体を地面に投げうち、その上を平然と化け物が歩いていく。生きた人の気配なんて何一つ感じられない。其処彼処で火の手が上がり、焼け付く臭いが充満している。
「どうして…結界があったはずなのに…、なんで…」
「そんな事言ってる場合じゃあないぞ。ルーラーってのがいるのはあの真ん中の建物で良いな」
「………、」
頷くだけのアルマを抱えて街に飛び込む。『疾』の効果で建物の屋根を走っていく。俺に気づいた化け物達が追いすがるが俺の俊敏に追いつけないのか、大群をあとにして聖堂の中に飛び込んだ。