1-4
俺を繋いでいたのは、王都から森を挟んだ川沿いの社の地下だった。その社の地下も、今は施錠され誰も入れなくなっている。なんでも、アルマとしては発見を出来るだけ遅らせたいんだと。
兵士から奪った剣を腰から下げ、辺りを見渡す。遠くに城が見えるから、実際そこまで王都から遠くはないんだろうな。川の反対側にも目をやる。空を見上げる。半年振りの太陽だと言うのに、何故か感動しない。先程の事もあってか、自分が追われる身になると、お天道様に顔向けするのは若干気が引けた。
川のせせらぎに耳を傾けた。少し、落ち着けないとな。
剣の塚に手をかける。槍は置いてきた、王国の刻印がされていたし、長物は旅の邪魔になるそうだ。
俺に続いて外に出た少女は、俺と微妙な距離を空けて話しかけてきた。
「あの、お名前を伺っても…」
「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺は啓、あんたは?」
「私は咎守のアルマです。ケイ様、先ずは王都から離れましょう」
「様はやめようぜ、呼び捨てで良いよ。で、具体的にはどこ行くんだ?」
アルマは川を辿って視線を上げていく。俺もそれに倣うと遠くに橋が見えた。
「まずはこの川を渡ってルーラーのいる聖都メルタを目指します」
「ルーラー?」
「世界の均衡を保つ役割を持った方です。こまめに貴方にも会いに来てくれてましたよ」
「あー…、うん、顔はわからんけどわかるわ。でも、そこを目指す理由は?」
歩き出したアルマに続きながら問いかける。すると、意外な答えが返ってきた。
「私達のこれからを相談しに行くんです」
「これからを相談って…なんか目的があって俺を解放したんじゃないのか」
「ありますけど…それは半ば達成された様なものですから。貴方こそ、役割を果たす道標はあったほうが良いのでは?」
役割…ねぇ…。
「アルマ、俺の役割って何なんだ?」
「えっ?」
足を止めてこちらを振り向くアルマ。俺も足を止める。
「わかっててやったんじゃないんですか?」
「いや、全然。なんか知らんけど、あの時は勝手に口が動いた」
三人を相手取った時のことを思い出してあの時の言葉を思い出す。
「世界の罪を贖うってどういうことなんだ?」
アルマは俺をジッと見た。すっ…と彼女の目が変わる。いや、見た目がどうこうというわけではないんだが、何らかの方法で俺は彼女に見られているのがわかる。
一頻り見つめた後、眉間にシワを寄せてムッとした。
「…貴方、二重人格なんですか?」
「…はい?」
アルマから見られている感覚が無くなり、彼女は腰の麻袋から一枚の羊皮紙を取り出した。いや、サイズ的におかしいんだけど、実際に出てきたのだ。10センチくらいしかない麻袋から、二倍の大きさはある羊皮紙が。
俺が身体を傾けて麻袋を観察していると、アルマは取り出した羊皮紙を俺に突き出した。
「この袋はマジックアイテムです。『収納』のスキルが付いているのである程度なら入れられます。それより、コレを広げてください」
「コレ?」
丸められた羊皮紙の紐を解いて広げる。
「これは現在のステータスを確認出来るアイテムで、ステータスロールと言います。端と端の印に親指を置いて持って下さい」
広げると大体20×30センチくらいの直方体になった羊皮紙の端を持つ。言われた通りに親指を合わせると、羊皮紙に文字が走り始めた。
「コレは…」
羊皮紙一杯にびっしりと文字が浮かび上がる。
アルマは懸命に文字を追う。俺はザッと流し目にその情報を目に入れた。というかスキルが多過ぎてステータスが追いやられている。ただその殆どが?マークになっていて内容がわからない。
「すごい…こんなの見たことない…」
「そんなに?」
「そんなにです。ステータスのここを見てください。武器別習熟度というのがあります。普通ならここは武器を使い込まなければ上がらないはずです。ですが、貴方方異邦の方たちは揃って武器の習熟度はEランク、誰も武器を使った事が無いのです。それでも称号の補正によって上昇幅に違いはありますが、全くの素人スタートのはずなんです。なのに貴方は全てSランク、先程の身体のこなしからしても、徒手の状態でさえSランクはあるのです。これが異常でなくて何と言いましょうか」
語り口調のまま興奮した様にスキルを指差した。
「それからこのスキルの量、ここが私に見えなかった所です。貴方は戦闘に入ると、人が変わります。本質的に変わったと言えるかはまだわかりません。けど、この?マークのスキルは貴方のスキルでありながら貴方が使えないスキルなのです。それでも粒揃いのスキルなんですけどね」
「へぇ…」
スキルに改めて目を向ける。開示されているスキルは六つ。
『心眼、刹那の一撃、刹那の連撃、練気、覇気、ウェポンマスター』
「心眼って何?」
「あ、じゃあスキルの説明をしますね」
「頼む。っていうかよく知ってるね」
「…勉強させられましたから。さて、兵士が戻ってこないのを怪しまれる前に進みましょう。スキルの説明と貴方の役割は歩きながらします」
行きましょう。
先を歩くアルマに続いて橋に向かって歩き始めた。