3-5
ギレアンはまた俺の隣を通ってさっきと同じ位置に立つ。腰に刺さっていたもう一本を逆手に抜く。
「ここからは、剣技を交える。お前は今まで通り躱すなりなんなりして身体の感覚を奪い返せ」
「わかった」
つまりは、見て盗め、そう言いたいんだろう。同じ技が使える師匠がいるんだ、存分に盗ませてもらう。
ギレアンの前に立つ。距離は凡そ十メートル、さっきまでのを加味すれば、確実に間に一歩が必要になるはずだ。
ギレアンは右脚を前に身体を開く。右手の木刀を突き出し左手の剣を腕に添わせるように持ちながら、少し腰を落とした。
「表裏一閃ノ型」
トッ…!
「っ!」
『裏閃:空狐』
視界から消えたギレアンが弧を描いて左腕を振り下ろす。俺は半身になってそれを躱す。見えない剣気がビシッ、と床と壁に切れ目を入れる。
『一閃:穿』
近い…!
ふんわりとしていたはずの軌道はいつの間にか直線にかわり、順手になった左腕が俺を貫かんと突き出される。俺はさっきの足を軸にして更に身体を回転させ身体を屈める。その直ぐ脇を通り過ぎたギレアンは着地と同時に体の向きを変え、次の一撃を放つ。
『裏閃:一』
屈めていた身体を半分に割るように踏み込まれる。俺は咄嗟に背後に跳ねる。目の前を木刀が通り過ぎ、俺はバク宙で着地すると、目を疑った。
視界の端、左側。
裏閃で左斜め前に通り過ぎたはずのギレアンが、コマのように身体を回転させながら俺の真横にいた。
『表裏一閃:龍旋』
「カッ…ハァッ!!」
トグロを巻くような軌跡で、背中を殴り飛ばされる。ゴロゴロと床を転がりながらも、俺は手をついてブレーキをかける。
『裏閃:打瀬』
「ぐぅ…!」
裏になった右刀の柄が俺のミゾに入るのをすんでの所で受け止めて一歩下がる。が、それが仇となる。
ギレアンが大きく踏み込む。
『極閃:天』
ガードされる事が前提の大技、右下からの両方とも表による斬り上げ。その威力はさる事ながら、その踏み込み位置が恐ろしい。
ほぼ、俺の真横。刀の根元から根こそぎ斬り上げる。
まさに、俺は天を仰いだ。ガードした腕に痛みが走る。顔を歪めている暇はない。
来ている。
空気の振動が直に感じられる。
『表裏一閃:滝落』
俺と同じように地面と並行に飛び上がったギレアンは左を表、右を裏にし、回った。
ガガガガガガガガガ………ッッッ!!!
「ッッッッッッッッッッッッ!!!!!」
いきが…できない…!!
腹に叩き込まれ続ける連撃は、『極閃:天』によって打ち上げられた分だけ、長くなり、激しくなる。
「食い縛れ…!」
そう聞こえた時、俺は思い切り奥歯を噛み締めた。
確かに、見えた。
青白い剣気が木刀にまとわりついたのを。
ドゴォッ!!!
「ッッッハっ………!!」
腹と背中の衝撃で残っていた僅かな空気まで強制的に吐かされる。
「…良く耐えたな」
ギレアンの言葉に、返す気力もない。
コレが、閃技。
コレが、技を使えるという事。
何という高み。
何という強み。
立ち上がったギレアンが逆光で見えなくなる。
肩で息をしたまま、遅れてやってきた痛みに顔をしかめた。
「今日はここまでじゃな。どれ、風呂にでも行くか、青年」
俺は痛む腹に耐えながら身体を起こして言った。
「ケイ…呼んでくれ」
クソ、言葉が上手く出てこない。ギレアンはキョトンとした後、手を差し出して笑った。
「上出来だ、ケイ」
俺はその手を取って、やっとの思いで立ち上がると、ふらふらの足を抑えて首を振った。
「まだまだ…。明日も、お願いしたい。風呂の後直ぐにでも…」
「これ、早まるな」
俺の額を小突く。それだけでも俺は倒れそうになった。
「事情があるのはわかる。だがな、今のお前にはもう無理じゃ。休む事も鍛錬には必要やき、風呂にでも入りながら話を聞かせちくれや」
…わかった、そういうしかなかった。木刀を腰紐に挿してギレアンが表に出る。
俺は痛む腹をさすりながら後に続いた。
メッチャ痛い。
でも、学べたものは多い。技にはどれにも意図が必ずある。それを理解しないと、俺は前には進めない。
閃技は表と裏を使い分ける事で多様に変化する技だ。片腕しか使えない俺にはその半分も使いこなせないだろうが、やるしかない。
魔王が迎えに来る前に、俺は咎を抑え込む。俺はお前より強いという自信をつける。




