3-11 子供でいて欲しいと思うのは贅沢ですか?
「周囲の警戒は任せる」
それだけ言うと、長袖のシャツを脱いで袋のようにしてリリーを入れると、底にブレストプレートを当て自分の肩で縛って簡易おんぶ紐にする。
両手がフリーになったので盾とメイスを持つ。
「湧き場から離れてリリーの回復を待つ、街道に戻ろう」
フリードとティアは頷いて、了承すると移動を開始する。
回復魔法の使えるティアがいてよかった。
(居なかったら、今頃湧き場で周囲を警戒しながら治療中だ)
考えるだけでぞっとする。
周囲を魔物に囲まれた湧き場で動けない怪我人を守りながら戦う。そんな事態にならなかったことを感謝しつつ、こんなことになってしまった自分の思慮不足を嘆く。
「慣れてきたと思ったけど、駄目だなぁ」
「怪我人が出るのなんてよくあることだろ?」
そういうフリードはあまり気にした様子もない。
「師匠がよく言ってたけど、死ななきゃ安いもんだ、稼げなきゃ食えなくて死ぬ。怪我くらいは必要経費だってな」
言ってることはわかるが納得しづらい。
リリーをこれから先連れていきたくはないのだが。稼ぐ手段を身につけさせないと自分に何かあったとき最悪リリーも死ぬことになる。
つまりはそういうことだろう。
「それに、まだ助かったわけじゃないんだぜ?」
フリードはそう言って周囲を注意深く見まわしている。
彼も奇襲を防げなかったことに何かしら思う部分があったのだろう。
「そうだな、悩むのは帰ってからにするよ」
そう言って以降は無言で進んだ。
無事に街道に出た頃、リリーが目を覚ました。
「ん、・・・おとうさん?」
目を覚ますとリリーは背負い袋と化したシャツの裾から手を出し、首に抱き着いてくる。
「痛いところはない?」
怒るべきか、謝るべきか、わからなかったので今のところは問題ないか現状確認することに努めた。
「うん、大丈夫。みんな、ごめんなさい」
リリーはそう言って謝罪した。
「警戒って言われてたのに、気づけなかった私も同罪だよ」
「そうだな、こっちこそごめん」
「よくあることだって、気にすんな」
即席だが意外といいパーティかもしれない。
まぁ、今後もリリーを連れていくかは帰ってからの話し合い次第だが。
リリーにもう冒険者をやめろと言うつもりはない。稼ぐ手段を身に着けることは必要だとティアやフリードを見て思い知ったからだ。
今日のように保護者がいなければゴブリン相手でも子供は死ぬ。
そして信用のない子供が稼げる仕事などよほど運が良くない限り見つけられない。
自分だって、いつ死ぬかも知れないのだ。その時がいつになるかわからない以上、リリーの選択を否定することはできない。
「降ろして、一人で歩ける」
リリーがそう言って背中でもぞもぞと動く。
「だめです、心配かけた罰です。家まで降ろしません」
一人で歩けるのは強がりではないだろうが、今離れるのは嫌だった。
そう言われるとリリーはリュックの中でもぞもぞするのをやめて、こちらの首に縋りつくようにくっついてくる。
まだ出会って一ヵ月、もう少し子供でいてほしい。
いつか嫁に行くとしても・・・まだ早い!お父さん許しません。
「おとうさん親馬鹿だね」
そう言ってリリーがくすくす笑う。
「過保護ですね」
「過保護だな」
うるさい、おまえらも子供ができたらわかる。
そう思いながら、帰路に就いた。
「ノルンさん、清算お願いします」
冒険者組合に着くなり、そう言って魔石を放り投げる。
「あらあら?ご機嫌斜めですわね」
そう言ってノルンさんは魔石を受け取って、いつものように銀貨と変えていく。
リリーは背負われたままだ。家まで降ろすつもりはない。
「えぇ、怪我人が出てしまったので気分はよくないですね」
むすっとした表情を崩さずに話すのは八つ当たりだ。
自分が対処し切れなかったこと、考えが足りなかったことが今回の原因であるが、事前にリリーがついてくるとわかっていればいくらか対処もできたのも事実だ。
「回復できる範囲の怪我なんて怪我のうちに入らないわ。死ぬ前に学べてよかったですね」
そう言うとノルンさんが今日の稼ぎを渡してくれる。
途中で帰ってきたので少ないがそれでも一人で狩る時よりは多い量が入った袋に少し驚く。
そのままノルンさんがリリーに手を伸ばすがそれをぺしんっと叩き落とす。
八つ当たりです。今日のところは許しません。
「まぁ、みんな無事に帰ってこれてよかったですね」
「おぉー、結構稼げたなぁ」
などとフリードとティアが言い、ホクホク顔だ。
「一人当たり銀貨8枚だね、ここで分配してしまおうか」
そう言って二人に銀貨を渡し、それからリリーにも肩越しに差し出す。
最後は残念だったが今日のMVPは間違いなくリリーだ。
「いいの?」
そういうリリーに、
「リリーが稼いだお金だよ」と受け取るように促すと、嬉しそうに握りしめた。
その様子を見てノルンさんが嬉しそうにくねくねしているが、見ない振りをする。
とりあえず、ろくな装備がない三人をどうにかしないといけないだろう。
だが、リリーはともかく一時的に組んだパーティのためにお金を出すというのはダメだろう。 このまま短期のPTで終わるのか、期間が終わってからも組むのか、きちんと二人の意思確認をしてからになる。
リリーが嬉しそうに今日会ったことをノルンさんに報告しているが、それを聞いたノルンさんがふと考えたような顔をした。
「どうかしました?」
「いえ、カバーに自信がないのなら、なぜダンジョンに潜らなかったのかなと思いまして」
言われて、目から鱗が落ちた。
なるほど、確かにダンジョンなら360度警戒せずとも、前と後ろを警戒していれば問題はない。
「え、ダンジョン内の魔物相手になんとかなりそうですか?」
そう返すと、呆れたようにため息をついて頬に手を当てて
「魔術師2名にオニクマをソロで殴り殺す前衛がいて不足?ありえませんね。当然、前衛の負担は増えますけど」
そういうものらしい。
ふむ、明日は休みにするつもりだったし、ダンジョンについて調べてみるのもいいかもしれない。
軽く話を聞いてから、お礼を言うと冒険者組合を後にした。




