1-3 救われたみたいです(少女視点)
気が付くとふわふわの毛布に包まれ、柔らかいソファーに寝かされていた。
寝ぼけた頭で周りを見渡すと見たこともない家具が並んでおり、目の前の机には水差しが置かれており、部屋は狭い。
だがここに並んでいるのはどんな場所でも見たことがないような不思議な、だけど美しいものばかりだった。
ここは天国だろうか?
私は死んでしまったのか?
神様が救ってくれたのだろうか?
そう考えていると倒れる前に私に声をかけてくれた男性が戻ってきた。
あの時は余裕がなくて顔もろくに見れなかったが、かなり若く見える、16〜18歳くらいだろうか?
(なぜこの人は私を拾ってきたのだろう?)
熱に侵された頭で考えていると、男はコップに水を注ぎ「飲みなさい」と突き出してきたので、言われるがままに受け取った。
澄んだ水だ。村を出て以来澄んだ水など飲んだことなどないが、飲んでも大丈夫だろうか?そう思い匂いをかぐと嫌な匂いはしない。
恐る恐る口を付け、一口含むと不思議な味がした。
甘じょっぱいそれが喉を嚥下すると、飲むのが止まらなくなり、一気に飲み干してしまった。
彼は水差しをもち、また注いでくれる。
何故か、急に泣きそうになったが、泣いてしまうと捨てられるような気がして泣けなかった。
私が飲み終えるのを待って、彼は「おフロに入れる」と言って私を抱きかかえた。
(おフロとはなんだろう?)
なんとなくだが、彼が私に危害を加えることはないと思えたので、されるがままに抱き抱えられた。
彼が少し顔をしかめていたがなぜだろう?
だが、いきなりシャツをまくられた時はさすがに驚いて手で押さえてしまった。
浮浪者にすら相手にされない体だが、彼はそう言った趣味の人間だったのだろうか?
そんなことを考えながらシャツを押さえていると、「服を脱いで、体を洗います」と言った。
なるほど、確かに私の体は田舎で暮らしていた時よりもかなり汚い。
水浴びができるような場所もないため、雨の日に着の身着のままのシャツで体をこするくらいしかできなかったのだから仕方がないと思うが、この綺麗な身なりをしている男から見れば耐えられないのだろう。
彼が再びシャツを捲るが今度は抵抗せずにされるがままに脱がされる。
(恥ずかしい・・・・)
そう思う心が残っていたことが不思議だが、嫌ではなかった。
だが、薄い服一枚とはいえそれを脱ぐとさすがに寒い。彼は慌てて震えている裸の私を抱き上げて、水の中にゆっくりと下した。
指先がじんわりと温まり、ジンジンと甘い痺れを寄越す。
よくてお湯、最悪の場合水をかけられ拭かれるだけだと思っていた私は全身が浸かるほどのお湯に驚いて固まった。
「寒くない?寒かったらもう少し温めるよ」
そう彼が問うので慌てて答えようと首を振ると彼を濡らしてしまった。
怒った様子はないが、このまま叩き出されたらどうしよう。そう思いながら戸惑っていると、彼は苦笑し、布で体を拭うように言われた。
彼にされるがままに頭を洗われながら体を拭う。柔らかい布ではあったが傷口に擦れて少し痛い。
水が目に入らないようにと浴槽の縁に仰け反るように頭を乗せられて、ごわごわで絡んだ髪が洗われていく。
髪からいい匂いが漂い、全身がすっかり温まった頃、お湯から抱き上げられ、手早く白い泡を全身に塗りたくられる。
泡は私の体につくとすぐに消えてしまったが、その都度、暖かいお湯が出る魔法の筒で流して白い泡がしっかり残るまで2度ほど繰り返された。
見たこともないような魔道具の数々に彼はとても裕福なように思える。
(やはり、子供相手にそういうことをしたい人だろうか?)
少しだけ不安になってくる。
綺麗になった体、路地裏で生活していた先輩が「金持ちにはそういう人もいるから気を付けろ」と言っていたことを思い出す。
それならもっと見た目のいい子があそこには居たはずだ。
実際あそこにはそうやって体を売って生活している子だっていたのだ。
病気で、やせ細って弱っている。路地裏ですら最底辺の私を拾ってくる理由はない。
だから彼は違う、そう心の中で首を振る。
(あぁ、私は信じたいんだな・・・)
ふと、そんな風に思う。
彼に助けられたのだと。
もう辛いことはない。
人生で唯一幸せだったといえるあの頃のように・・・・、
彼が父や母みたいに接してくれると。
おフロがあまりに気持ちよくて暖かくて、粗相をしてしまったことを彼は気づかなかっただろうか?
気づかれなかったと信じたい。
彼に嫌われたくない。