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吊るし雛(千文字小説)

作者: 小出元春


 亀と這い這い競い合い さるぼぼ犬が羽子板追えば

  梅で花見に苺と団子 お多福ねんねは手鞠を抱え

   雀燕鶯が つまむ桃柿美味そうな


 だるまが転がるその元を 三番叟が小槌を振れば 蕗と筍生えてくる

  目出度いな 今宵は御鍋の贅沢に 鱈腹米を食うていけ

   七宝鞠 菊と扇は枕元 夜に鳴くは梟か


 着物を着たぉ前さんは 晴れておかたになれたから

  私の編んだ巾着に ほうずき辛子を入れてゆき




 雛祭りの歌といえば『うれしいひなつり』が有名だと思うけど、私には題名も無いこの唄が馴染み深い。私が幼い頃から母は吊るし雛の飾りを亀から順番に指差しながら唄って、私は自然とその唄を覚えた。その時のやりとりをこの時期になると自然と思い出す。


「カメさん?」

「そう、カメさん。カメさんは一歩一歩ゆっくり幸せになるように。こっちは?」

「ハイハイしてる」

「這い子さんはたくさんハイハイして元気な子になるように。こっちには俵の上にネズミさんがいるね。ネズミさんは大黒様のお使い。だから、お金と御飯に困らないように。こっちは『おかたごろ』といって花嫁さんのこと。いいかい? ここに吊られているお人形さんにはひとつひとつ意味と願いがあるんだ。覚えておきな」



 私が子供の頃はとても裕福とは言えず、小さな立雛すら買うのが難しかった。そのため、祖母が母の為に作った手製の吊るし雛が御下がりで私の物となったのだけど、小学生にもなると友達の家に飾られている段飾りや出飾りが羨ましく、泣きながら両親に買ってとせがんだ。翌年、両親は無理をして小さな出飾りを買ってくれて、その年から出飾りと吊るし雛はセットで飾られるようになる。


 雛人形の御蔭かは分からないけど、大きな病気も無く、晴れておかたごろとなり、娘も授かった。夫は娘の顔を見る前に事故で他界してしまったけれど、この子の為にも辛い顔は見せられない。

 母子二代に渡って受け継がれてきた吊るし雛は大分傷みが目立つようになってきて、近年は母に裁縫を教わって直している。せっかくなので、今年は娘の名前にちなんだ花の飾りを作ってみた。


「どう蓮華? ママ頑張って作ってみたんだけど?」


 娘が赤い花を手に取り、まじまじと見てからニヤっと笑った。


「私に似て可愛いと思うよ、ママ」


 誰に似たんだか、随分とマセたことを言ようになった。


「ねぇママ、早く私のお花を付けてまた唄って」


 分かったわと言って傷みの酷かった桜の飾りと付け替える。

 それじゃあと言って、私は亀の飾りに指を指した。

↓↓下のサイトを参考に作りました。興味の湧いた方は是非↓↓

http://www.tsurushi.jp/index.html


(吊るし雛を知らなかったなんて言えない……)

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