第漆幕 ~足利大和守義秋~
興福寺
俺は万吉に事情を聞いた
「万吉、どういう事だ?」
「何がですか?」
「恍けるな、何故ここに居る?」
「貴方に仕える為にですが? それが何か?」
「な!」
「公方様からです『還俗しろ』と」
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興福寺別当室
「ふむ、そういう事になったか。」
「ははっ」
「少し展開が早いのう、まあ、しかしそういう命を受けたならば謹んで受けねばならんのう、いやはや、後10年は無いと踏んでいたのじゃが」
「別当、覚慶様、細川様がお越しです。」
「隣部屋に通してくれ、さてお主も引き続き頼むぞ」
「ははっ」
(伊賀者はやはり凄いのう)
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隣部屋
別当が入ってきた
「覚慶様、何用じゃ?」
「別当、話がある」
「ふむ、大方予想はできるが、何かの」
「還俗させて欲しい」
その後、何の困難もなく俺の還俗は行われた
(手際が良すぎる、別当、これを見越していたのか?)
「千歳丸、先代からです『正五位上 大和守に任官』そして公方様から『元服がまだだと思う、烏帽子を取りたいがそういう訳にもいかない、兼継に話は通したから彼に取って貰え、名は父上と考えた【義秋】だ、目の前で祝えないが、おめでとう』との事です」
「大和守だと?!」
「はい」
「いくら何でも……」
「それと槇島城を与えるとの事です」
「父上と兄上は何を考えているのだ!」
「一言、公方様は『父を頼む』と」
「……兄上」
「先代様は『菊童丸の予備ということは肝に銘じておけ』と」
「父上……」
「まあ、そう言っている先代の手が震えていたのも何かの間違いでしょう」
(万吉の奴……)
「そして、槇島城代の幕府奉公衆、真木島輝元以下を与力として与えるとのことです、総領約5万石との事」
「兄上……そういうことですか」
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さてさて、義秋は分かったでしょうか?
これはあなたを餌とした大きな罠であることを
わかってもらってなければ残念ですが弟は死ぬでしょうが……
大丈夫でしょう、あの者ならこの意図に気づくはずです
急な環俗、叙任、任命
幕臣となると言ったお前の覚悟見せてもらうぞ!