第弐幕 ~別当兼継~
斯波氏武衛陣・足利義輝邸 (旧二条城)
「父上、先ほどの使いは何だったのですか?」
「千歳丸が快癒したとの報告だ」
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興福寺
「ほう、それで公方様に会いに行きたいと」
「ああ」
「ふむ、そうですな……我々は俗世界から外れた身、そのような事は本来許されぬが……覚慶様の快癒祝いという事で一度だけ認めよう」
「ありがたい」
「護衛を一人付ける、誰か胤栄を」
「承知しました」
「それで、会いに行かれて何をするのですかな?」
「何かをするというわけではないが、強いて言うならば……幼くして離れた故郷を今一度見てみたいという事が目的ではあるな」
「ほう」
「それに兄き……兄上が俺のことをどう思っているのかも知りたい」
「ほう(公方様の真意を知りたいじゃと?)」
「別当には申し訳ないが願わくば、幕臣として仕えたいのだ」
「恐れながら、覚慶様、そのような事をなされば恐らく公方様より危険視される恐れがありますぞ」
「故に、兄上の真意を知りたい」
「……(本当に変わられた、これがまだ12の子供なのか?)」
「どうかしたか?」
「うむ…………」
「別当、胤栄を連れて参りました」
「別当、われに何の用だ?」
「ああ、よく来てくれた、ここにおわす覚慶様の護衛を務めてもらいたいのじゃ」
「護衛?」
「うむ、覚慶様が公方様に会いたいとのこと、道中の危険を考えてお主に護衛を務めて貰いたいのじゃ」
「応、問題ないぞ」
「では、公方様の所まで頼むぞ」
「われに任せておけ」
「覚慶様」
「なんだ?」
「儂らは覚慶様の味方ですぞ」
「ん? ああ、ありがとう」
「ではお気をつけて」
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興福寺別当室
しかし、覚慶様はどうなされたのだ……
今まで自らを捨てた親、兄には会いたくないと散々言っておられたのに……
それに、あの発言、よもや将軍位をお狙いに?
いや、それを断言するの早計じゃろ
あの方は時々起こす癇癪などがなければまっすぐなお方、故にこの寺に小言は言えど覚慶様を嫌っておるものは存外少ない
仮に公方様と関係が悪化しようが、一乗院の門跡としているのなれば次代か、その次の別当は覚慶様になろう
何、将軍家とわが興福寺の兵力はさして変わらん
それに、筒井、三好は我らを支持するじゃろうしな
問題は南近江の六角と細川じゃな
儂も戦乱の世で生きてきた身、世の渡り方は心得ておる、好きにするがいいぞ覚慶様