第拾捌幕 ~奈良・平城京の戦い<序>~
更に三日後
準備が整った筒井軍はそれぞれの攻撃対象の布陣する方向へ兵を向けた
これに応じた義秋と久秀は応戦を決めていた
義秋と順政は平城京の羅生門付近で対峙したのであった
<義秋陣>
「殿、相手は筒井長舜坊です」
「え、誰それ?」
「千歳丸……、私だけなのでいいですが、筒井順政です」
「万吉、それはわかってるさ、で、順政はそう言われてるのだな、で兵は?」
「約4000程かと」
「多いな」
「ええ、興福寺の者の話によると越智氏の旗印も見えるとのこと」
「なるほど」
「こちらは約3300程ですが、如何いたします?」
「皆を呼べ」
そうして、武将級の者が集められた
「さて、相手は筒井長舜坊、越智氏の連合軍だ、そこでだ、大和衆(島、松倉、森、柳生)はそれぞれに俺の兵200を加える。各々考えて動け」
「よろしいでしょうか?」
「なんだ左近?」
「それでは連携が取れないのでは?」
「確かにそれだけだとそうだが、左近、お主はこの戦勝てるか?」
「はは!」
「なら差配はお主に一任する、好きに動かせ」
「「「「!!!!!」」」」
大和衆は驚いて目を点にしていた
(殿は本当に面白いお方だ)
万吉はそう思っていた
それもそうである、今回味方となった大和衆
普通ならば彼らを前線におき、忠義の確認とするのが一般的なものである
それをいきなり軍の中心に置くということはかなりの重用でもあり危険な事でもあった
義秋はそれに加え、家老として和田弾正も連れてきている
「殿! それは!」
「左近、よく考えてみろ、この軍の主力は?」
「……我ら」
「相手は?」
「ふむ、故に」
「勝手がわかるお主らの方が有利だ、任せた」
「御意!」
<大和衆>
「しかし、私に差配を一任されるとは……」
「儂は先の話を聞く上では、納得したが」
「志摩守、しかし、それとこれとは」
「確かにそうなのだがな、見る目はあるようだの」
「ふん、弱者に我らは従わぬ、島左近ならばよい」
「新左衛門殿、助かります」
「で、どういたす?」
「戦場は旧都跡内でしょう、故に朱雀大路に敵を誘う予定です」
「ふむ、如何様に?」
「殿の兵を使います」
「どういうことだ?」
「殿がそこにいると思わせるのです」
<義秋>
「殿」
「なんだ、弾正」
「いいのですか? 彼らに任せて」
「いいんだよ、この戦は俺たちが生き残ればいい」
「「?」」
「まあ、悪くは行かないさ、それに左近は大丈夫だろう」
石田三成の右腕の父だからという安直な考えであったが、義秋にはそれで安心するには十分な材料だったのだ