第拾陸幕 ~戦いへの誘い~
第拾参幕の順慶の表記を訂正しました
大和国 東大寺
「寺務代、興福寺より使者です。」
「ふむ、ここへお通ししなさい。」
「わかりました。」
華厳宗大本山東大寺、別当が不在のため寺務代であった英訓が寺を仕切っている
法相宗大本山興福寺と華厳宗大本山東大寺
この二つの寺は過去争いを続けていた
しかし、貴族の力の衰え、朝廷の力の衰えにより、この諍いはほぼ終結していた
この二つの寺はお互いを助け合わないと戦乱の世の中を渡れなかったのである
「どうしたのかな? 興福寺の使者殿」
「寺務代英訓様、別当兼継より書を承っております。」
「ふむ、拝見いたしましょう」
「な、なんと……これは誠ですか」
「はい。」
「そうですか、大和でまた命が散るのですね……」
「興福寺は足利大和守様と共に歩む所存」
「なぜです?」
「大和守様は次代の別当となられるお方でした。そしてその資質も問題なく持っておられた。しかし、時代がかのお方を戦乱へお連れになられました。」
「それで……」
「かのお方の考えは戦乱の世を終わらせることだと聞き及んでいます。ですので、その助けを我々は手伝いたいと。これは興福寺の総意です。」
「それで、ですか」
「はい」
「東大寺は主上の言葉なしには動けません」
「それは重々承知しております。」
「わかりました、打診を申してみましょう。」
「誠ですか!」
「この戦でこの周辺は大和守様がお治めになるでしょう」
「どうしてそう考えたのでしょう?」
「別当殿は大和守様が勝たれると信じておられる、そして興福寺も支援するとのこと、さて、この大和で興福寺の信徒は如何ほどいましょう」
「それは……」
「東大寺は大和守様と今は敵対しないと公言いたしましょう。それで彼との約束も守られる」
「彼?」
「いえ、なんでもないです。それに伊賀を取り返して頂けるらしい、それだけでも東大寺とすれば味方したい所ではあるのです。」
「そうですか」
「東大寺を陣屋にする件、御受けいたしましょう」
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山城 宇治川
「さて、そろそろ大和だな」
「殿、先程、松永殿からの使者が書をもって参りました。」
「それで?」
「三好軍5000は既に大和の国の信貴山城を目指して進軍中とのこと」
「なるほどねえ、先にそこを抑えるか」
「畠山の牽制にはうってつけですね」
「そうだな、さて万吉、俺たちも行くとするか」
「ええ」
「「筒井城へ」」
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筒井城 大手門
「左近、そろそろ行かねば」
「ですね、行きましょうか、藤勝丸様は?」
「こちらに」
乳母の一人が赤子を抱いていた
筒井藤勝丸(順慶)である
「では、皆行こう、目指すは興福寺」
「「おお」」
彼らに応じた将は以下の通り
柳生新左衛門家厳
森志摩守好之
筒井城之介(順慶の弟)赤子の為共に脱出
彼らの配下の将兵1000
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筒井城 城主の間
「何? 右近、左近、志摩守らが出兵しただと?」
「は!」
「順政おぬしか!」
「順国ではないのか!」
お互いがお互いだと思っていた
しかし、現実は虚しく……
「「……」」
筒井城内は最早、バラバラだった