第拾幕 ~新田肩衝~
槇島城
「殿、三好方より使者が見えております。」
「三好か……やはりきたな」
「確かに予想通りでしたね」
「なお、使者は自らを松永弾正と名乗っております」
「なんだと!」
「三好の家宰が直々にですか、私も同行します」
「ああ、頼む」
大手門
(なかなか、手筈が良いな、問答無用で追い返されると思っていたのだが……)
「松永弾正様、どうぞ中へお入りください」
「承知した」
一の丸 謁見の間
「ここでお待ち下さい」
「承知した」
(我々を何の警戒もなく引き入れるとは……やはり反旗を翻す? いや、しかしそうなら公方が領地を与えるなど……)
「松永様、殿がお見えです」
「表をあげろ」
「はっ」
「お主は?」
「某は三好家家臣、松永弾正少忠久秀と申します」
「三好家の家宰が我に何の用だ?」
「私の主、三好筑前守長慶の命により、足利大和守様に叙任と城主任命の祝いの言葉と品をお持ちしました。」
「ほう」
「これがその品です」
「与一郎」
「ははっ」
松永弾正は控えていた者に持たせていた茶器を与一郎に差し出した
「殿」
「これは?」
「三好宗三が所持していた茶器、新田肩衝でございます」
「な、なんだと」
「主、三好筑前守は大和守様と友誼を結びたいと考えております」
「松永殿、では殿に公方様と反目なされよと?」
「如何にも」
「殿」
「松永弾正、しばし返答は待ってほしい」
「承知しました、新田肩衝は祝いの品、そのままお持ち下され」
「下がってよい」
「ははっ」
大手門
(手ごたえはあった、少なくとも我々の不利には働かぬだろう……しばし様子見であるな)
書斎
「しかし、三大肩衝を土産に持ってくるとは……」
「殿、どうなるのですか?」
「んまあ、兄貴の考えに沿うならこの話乗るしかないんだがな」
「そうですよね……」
「殿、和田様がご到着です」
「ここに通してくれ」
「はは」
「でも与一郎、兄貴には連絡すべきだと思うか?」
「そうですね……難しいです」
「そうなんだよな、少なくとも誰にもこの話が割れてはいけないからな」
「じゃあ俺に任せろ」
「弾正(和田惟政)!」
「俺ならだれにも割れずに公方様に会える」
「なら頼む」
「承知した」
和田惟政、彼は甲賀出身であり、隠密行動は得意なのであった