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暗闇ヲ駆ケル花嫁 第弐部~再覚醒  作者: 喜多見一哉
話之弐 <再覚醒(サイカクセイ)>
9/26

弐  相談(ソウダン)

 そして、一限目の放課がやってきた。

 先生への挨拶を生徒全員で済ませ、本来ならばそのまま着席して古事記の続きでも読むところだけど、そうはいかない。

 一限目と二限目の間の放課は僅か一〇分。この間に、津島さんと話し合わなければならない。話し合う内容は、勿論"オーラが見える"事について。

 あたしはその足で津島さんの座っている席に向かい、後ろから彼女の肩を軽く叩く。すると津島さんは、びくっと身体を震わせた後、後ろを振り返った。あたしは満面の笑顔を作り、挨拶する。

「おはよう、津島さん!」

「びっくりしたぁ…。おはよう名椎さん」

 あたしは、後ろの方の席の相田さんをちらりと見る。丁度目が合い、相田さんはあたしに対して両手をあわせ、お願いポーズをとっている。

「あのさ津島さん、ちょっと話、いい?」

「うん、どうしたの?」

ちょっとだけ目を泳がせながら言う。

「あ~…ここじゃなんだから、屋上へ行こう」

「う…うん」

 津島さんが頷くのを確認し、「行こう」と彼女の手を取る。津島さんは半ばあたしに引きずられるようにして教室を出た。

 あたしたち三年生の教室は、校舎の三階にあり最上階だ。すぐ横の階段を昇れば、屋上はすぐ。あたしと津島さんは階段を駆け上り、屋上のドアをばーんと開けた。そして、普段昼食を摂る辺りまで歩いてゆき、津島さんの手を放す。

「ど、どうしたの名椎さん…なんか、怖いよ?」

 し、しまった。怖がらせてしまった。ゆっくりと津島さんに振り返り、にこりと笑ってみせる。…きっと、フォローになってないと思うけど。

 さて、単刀直入に聞くか、それとも遠回しに聞くか。もう、怖がらせちゃった事だし、単刀直入でいっか…。

「あのさ、朝に相田さんから聞いたんだけど、彼女が何かに取り憑かれてるのが見えるってホント?」

 その台詞に、津島さんはちょっとだけビクリと身体を揺らせた。そして、苦笑いをしながら小さな声で呟く。

「な、なんだ、その話か…。きっと、私の見間違いだよ…そんなのは全然…」

「左肩、真っ赤な色のオーラ」

あたしがすっぱりと断言すると、津島さんは目を見開いた。

「…え?」

「違う?」

問い返すと、彼女は深妙な顔をして小さく首を縦に振った。

「やっぱり!」

 心の中でガッツポーズをする。見つけた、同じ力を持つ人!

「名椎さんも…見えるの?」

「うん。相田さんの左肩にも、そして津島さんの左肩にもキッチリと。よかったぁ…仲間がいたよ~。あたし一人だけだったらどうしようかと思った…」

あたしは、態とらしく大げさに身体を脱力してみる。

「そっか…見えるんだ…」

 そして、あたしは自分の髪に挿してある湯津爪櫛を指さした。赤色のオーラが見えるのならば、この竹櫛の緑色のオーラも見えるはず。

「じゃあ、ここにも何か見えるよね」

問うと、津島さんは遠慮がちにその竹櫛に手を伸ばし、答えた。

「緑色の…すごく大きいオーラ…だよね。でも、その竹櫛だけじゃないよ。名椎さんの身体全部から、小さな緑色のオーラが立ち上ってる」

 そ、それはあたし知らないぞ?あたしの目には、竹櫛からのオーラが見えるだけで。あたしは自分の腕やら足を眺めてみる。でも、そんなものは…。

「マジ?」

津島さんの顔を覗いて聞く。

「うん、マジ…。すっごく小さいけど、確かに全身に見えるよ。一昨日は無かったのに…」

「え、ちょっと待って…」

 一昨日はなかった?ってことは、一昨日既に、竹櫛のオーラが津島さんには見えていたって事なの?

 あたしはその疑問を津島さんにぶつける。

「そう言うってことは、一昨日の段階で竹櫛のオーラって見えてたの?」

「う、うん…その時は、こんなに大きなオーラじゃなかったんだけど…。私、小さい頃から幽霊みたいなのが良く見えたんだ。人に話しても信じて貰えないから、ずっと黙ってたんだけどね。でも、相田さんに憑いたオーラ見たら、我慢出来なくなっちゃった。あれ、きっと噂話を試したからだよね。私もそうだったから」

 驚いた…。と言う事はこの件に関しては、津島さんの方が、あたしよりずっと先輩って事なのか。八雲も霊感があるとか言ってたけど、実際にいるんだね。でも、この赤いオーラを祓う事が出来るのはあたしだけなんだろうか。

「確かに、そんな事言いふらしたら、不思議ちゃん確定だよね。よっし、これで不思議ちゃん同盟が作れる!」

あたしは拳を握りしめて言うと、津島さんはクスリと笑った。

「なにそれ~」

「あたしも不思議ちゃん、津島さんも不思議ちゃんで不思議ちゃん同盟。さて、ここからが本題なんだけどさ」

 話題を変えると、津島さんの顔がきりりと引き締まる。

「恐らく、津島さんの予想は当たりだと思う。あたしも噂話試したんだよ。勿論、相田さんもね。その人には、必ず赤いオーラがまとわりついてる」

「でも、名椎さんには憑いてないよ?」

津島さんはあたしの左肩に、またも手をかざした。もしかしたら、そうする事によってより鮮明に見る事が出来るのだろうか。

「うん、憑いてないよ。理由は、コレ」

 あたしは髪から湯津爪櫛を外すと、それを右手に持って津島さんの左肩のオーラに触れる。パァン!という音と共にそのオーラは霧散し、左肩は正常に戻った。

「わかった?」

「うん…わかった。左肩にもう何もいないし、軽い…。でも、すっごい音だね」

 湯津爪櫛を髪に挿し直し、あたしは誇らしげに胸を張って見せた。

「他人にコレをやったのは津島さんで二人目。一人目は通学途中の電車の中で居合わせた女子高生。やっぱり、あたしには祓う力があるんだ…」

「凄い、凄いじゃん名椎さん!」

あたしは、更に胸を張る。そして、張りすぎて後ろに倒れそうになり、あわてて足を踏ん張り、照れ笑いした。

「ま、それはどうでもいいのよ。問題は、噂話の方。あれって、どう思う?」

「胡散臭い…よね。私の考えではね、名椎さん。あの噂話を続けるたびに、あの赤いオーラが強くなる。そして、体調を蝕んでゆく」

津島さんもあたしと同じ考えか。でも、それを言うからには、何か証拠があるはず。

「どうして、そんな事が言えるの?」

「えっとね…」

 津島さんが説明を始めた。どうやら、あたしと相田さんが最初に噂話の件で例に出した隣のクラスの子は、ついに体調を崩して学校を休んでしまったらしい。そしてその過程を、津島さんはずっと見続けたそうだ。毎日のように大きくなっていく真っ赤なオーラと、まるで死人のようになっていく顔色。彼女は噂話の結果だと確信し、警告をあたえたかったのだけれど、結局それを出来ずに終わった。

「さすがに信じてもらえないと思って…でも、何とかしたかったなぁ」

「なるほどね~」

あたしは腕を組む。

「その考え…結果論は、あたしも同じ事考えてた。今日その電車に乗り合わせた子もね、まるで死人みたいな顔色してたの。でも、周りの人は気が付いていなかった。きっと、力ある人しか解らない現象なんだと思う。とりあえず、この噂話が危険だってことはよ~っく解ったのよ。だから、相田さんにはこの件から手を引いて貰いたい。でも、どうすれば信じて貰えるかが解らない。それを、津島さんに一緒に考えて貰いたかったの」

「そうだね…。私と名椎さんがペアで言っても、信じて貰えるかどうか。私が言っただけで、結構ドン引きだったもんね。幽霊話とかから遠回しに引っ張ろっか…?隣のクラスの子を例に出してもいいし」

 あたしは頷くけど、正直言って成功するかが不安だ。朝の様子を見る限り、こういったオカルトネタを相田さんも苦手としているみたいだったし。まるで、ちょっと前までのあたしみたいだ。だからこそ気が合ったのかもしれないけれど。

 津島さんが話を続けた。

「だけど、相田さんだけをターゲットにしてちゃダメだと思うんだ。この学校にも、おそらく新塔京中にこの噂話の被害者はいる。兎に角も噂話の根源を絶たないと」

「そっか…。あたしは、片っ端から何か理由つけて、被害者の赤いオーラを散らせていこうと思ってたんだけど、その人がまた噂話を夜に試したら、同じ事だもんね。いたちごっこだわ」

「そうなんだよ。私はそのオーラを散らせないから、どうしようもないんだけど、散らし続けるってのは一つの手かもしれない。でも、名椎さんには超負担だよね」

 あたしはちらりと腕時計を見る。放課は後二分くらいしかない。

「とりあえず、相田さんにはあたしも、津島さんも何も見えないって事で話進めよう。あたしは隙を見て彼女のオーラ散らすから、それで、この先はどんな事があっても噂話を実行しないって方向に話を持って行くように努めよう」

「うん。でも、できるかな。あの夢、相当誘惑性高いよ~?」

「え、どういう事?」

 あたしは校舎への入り口に歩きながら津島さんに聞いた。すると津島さんは、顔を赤くしながらにやりと不敵に笑う。

「だから、マジでえっちする夢なんだって。自分の好きな人と。相田さんにも、彼氏はいなくても好きな人くらいはいるでしょ?その人と…もにゃもにゃ」

 あれ?やっぱり、ソッチ方面の夢をみんな見るの?あたしはまるっきり方向性が違ったんだけれど。

 でも、あの夢は自分の記憶を元にした夢ってのが本当のはず…。あ、そっか。願望も含まれるんだったけ。ってことは、あたしは八雲とのソッチ系の夢を見るより、過去の記憶を取り戻す方が優先だと考えているのか…。

 なんか寂しいな、それ。

「まあ、そのことも含めて昼休みに話そう。目の前にあることだけでも片づけないとね」

「そうだね。がんばろう、不思議ちゃん同盟で!」

 あたしと津島さんは、ドアをくぐりながら大きな声で笑った。本鈴が鳴り響き、あたしたちはぴたっと笑うのを止める。

「うわ、ヤバイ!急がないと!」

あたしと津島さんは、慌てて階段を駆け下りた。


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