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暗闇ヲ駆ケル花嫁 第弐部~再覚醒  作者: 喜多見一哉
話之肆 <包囲網(ホウイモウ)>
26/26

伍  勧誘(カンユウ) 壱

長く間隔を開けてしまいました、申し訳ありません。

無事再開することが出来ました。

今後ともよろしくお願い致します。

 一仕事を終え、あたしと蜂須賀さんは井家袋駅の敷地を出て、彼のサイドカーが駐めてある大通りまでやってきた。

 未だに人払いの結界が効果を発揮しているらしく、普段は雑踏を通り越して完全な「人ゴミ」状態の大通りには人っ子一人見あたらない。あるのは道路に駐車してあるクルマや自転車、バイクだけだ。

 本来、ここを行き交っていた人々は、結界のせいでどこへいってしまったのだろう。

 そもそもあたしは、この結界がどの程度の範囲で有効で、詳細にはどのような効力があるのかを知らない。正式に神滅メンバーになったからには、こういった術式のレクチャーも受けなければならないんだろう。

 勉強は苦手だけど、こればっかりはどうしようもないかなぁ。

 「ほらよ、ヘルメット」

 そんなことを考えつつ、周囲をキョロキョロと見回していると、蜂須賀さんがサイドカーからヘルメットを取り出して、あたしに投げて寄越した。

 あたしは右手一本で器用にキャッチすると、被ろうとしてそのヘルメットから匂う「(かぐわ)しい」香りに思わず顔をしかめた。

 その顔を見て、蜂須賀さんが声を上げて笑い出す。

「オトコ臭くてゴメンなぁ。大庭のヘルメットしかにゃあから、ちょっとばかし我慢しやぁ」

「大庭さん、きちんと髪の毛洗ってるのかな…」

 あたしはぼやきつつ、ヘルメットを渋々と被って真っ赤なサイドカーに乗り込み、草那芸之大刀顕現の疲れを負った自分の身体を、シートに深く沈めた。


 頬を撫でる夜風が冷たい。

 ふと目を覚ますと、あたしの目の前には真っ暗なシルエットの新塔京スカイツリーがそびえ立っていた。接触防止灯が、スモッグで見えなくなってしまった星々の代わりにきらめいている。

 後五分ほどで到着だろうか、どうやら、不覚にもウトウトしてしまったらしい。

 あたしはおもいっきり両腕を上げて伸びをすると、口に手を当てて大きくあくびをする。

 「お、起きたきゃ?」

 隣でサイドカーを運転している蜂須賀さんが、進行方向から目線を外さずに言った。

「うん、ごめん。ちょっと気が抜けたみたい」

「仕方ないわ、まだ神憑との戦いにも慣れとらんのだし。疲れるのも当然だわな。まあ、それだけの理由でもないんだろうけどさ」

 あたしは苦笑し、つい先ほどまで草那芸之大刀を握っていた右掌を見つめた。

「草那芸之大刀…、あれがあるからこそ、あたしはみんなと戦えるんだろうけど…。でも、なんか反則してるみたいで気が引けるよ」

「反則…か」

 呟きながら蜂須賀さんがウィンカーを出し、ハンドルを切ってゆっくりとスカイツリーの駐車場へと入っていく。もうまもなく、スカイツリーからお客さんが捌ける時間だ。駐車場には、数台のクルマが駐まっているのみだった。

 裏口に最も近い駐車枠にサイドカーを入れ込むと、エンジンを切ってバイクから降りる。あたしはヘルメットを脱ぐと、その芳しい香りから逃れるかのようにサイドカーの中に放り込んだ。

 脇を見ると、蜂須賀さんのサイドカーの隣に、もう一台の見慣れたサイドカーが駐まっている。それは言わずもがな、八雲のサイドカーだ。彼のサイドカーはすでにあたし専用のようになっていて、色々とマスコットがぶら下がっているのですぐに分かる。八雲もどうやら、神滅課事務所に来ているらしい。

 蜂須賀さんとあたしは、並んで裏口へと向かう。

 警備員さんの立哨するゲートを潜った後、あたしの隣に立つ名古屋弁の男性がスカイツリーを見上げながら言った。

「反則とは、ちょぉ違う気がするがね…」

 あまりにもその声が小さかったので、あたしは聞き逃しそうになって彼の顔を見上げた。

「え?」

「草那芸之大刀は、比女ちゃん自身の力だと思っとるよ。確かに大元は八岐大蛇の中に在った物で、突き詰めるなら八岐大蛇の神力を継ぐ天神課長の物だ…とも言えるかもしれん。どの文献を見ても、稲田姫が草那芸之大刀を所持していたという記述もないしなぁ。だけど、事実今は八雲、素戔嗚から稲田姫が託されとる。だもんで、それは稲田姫の化身…比女ちゃんの力だと思うがね。全然反則じゃにゃぁ。力を持つ者が、その力を使うのはおかしな事じゃにゃぁと思う」

 あたしは蜂須賀さんの顔から視線を外し、同じようにスカイツリーを見上げた。

「そっかな…?」

 その問いに答えは返ってこなかったが、そそくさと歩き出す蜂須賀さんの態度を見て悟る。

「そっか…、ありがと」

 彼に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でお礼を呟くと、あたしは蜂須賀さんの後に続いて裏口を潜った。

 スカイツリーの中はまだ照明が煌々と灯っていたが、昼間のような喧噪はすでにない。そもそも、ここは関係者のみが入れる通路であって、一般のお客さんが入れるスペースとは隔離されている。だから、この場所で来客の喧噪を聞くことが出来るかと言われると疑問だ。

 しかし、やはり昼間とは違う雰囲気を感じる。何というか、空気が冷たいというか、張りつめているというか…。何となく心細い。

 八雲と来ているとき、こんな気分にはならなかった。今日は八雲が蜂須賀さんに変わっているだけなんだけど、こんなにも違うものなんだろうか。

 あたしは先行する蜂須賀さんに足早に追いつき、彼のコートの裾を気付かれないようにつまんだ。

 蜂須賀さんが従業員用エレベータの呼び出しスイッチをタップする。すると間もなく、入り口のドアが左右に開いた。中から清掃作業員らしいおばさんが出てきたが、あたしと蜂須賀さんは小さく頭を下げて、入れ替わりでエレベータに乗り込む。

 蜂須賀さんがリュックからタブレットを取り出し、コンソールに有線接続をした。

 今日は自分のタブレット初デビューかと思っていたんだけど、どうやらまた次の機会になりそうだ。まあ、神滅課に所属してメンバーでいる限り、その機会はすぐにやってくると思う。

 エレベータが動き出した。

 しかし、津島さんは大丈夫だろうか。

 あたしの到着を待たずに記憶操作をするような明さんと那美ちゃん兄妹ではないと思うけど、井家袋での件から、既に一時間が経過しようとしている。一体どんな状況で、津島さんはあたしを待っていてくれてるのだろう。人当たりの良い明さん辺りが相手をしてくれているといいんだけれど、これで相手をしているのが神滅課職員(くろふく)さん達ならば、きっと萎縮してしまっているに違いない。 

 その状況を思い浮かべ、事務所のソファで職員さん達に囲まれて小さくなっている津島さんを想像したら、不意に笑みがこぼれた。

 それは、しっかりと蜂須賀さんに目撃されていたらしい。

「急に笑って、どうしたん?」

 あたしは笑みを浮かべたまま頭を左右に振り、

「ん~ん、なんでもな~い」

と返事をする。

 蜂須賀さんは怪訝そうな顔をしたものの、それ以上つっこんではこなかった。

 やがてエレベータが止まり、再びドアがゆっくりと開いた。

 目の前にあるのは、もう見慣れてしまった神滅課事務所へ繋がる長い廊下だ。

 よくよく考えてみたら、ここは既にスカイツリーの真下ではないのかもしれない。エレベータに乗っている最中に身体に掛かるGを感じるに、真っ直ぐ下に降りているようには考えられないし、この長い廊下だけでも、スカイツリーの端から端くらいの長さがある。すると、駐車場の下辺りになるのか。それとも、別施設の地下…?

 まあ、普通に神滅課の業務をこなすだけならどうでもいい事なんだろうけど、ちょっとだけ気になってきた。津島さんの一件が片づいたら、八雲か明さんに聞いてみよう。そんなことを思いつつ、エレベータを出て長い廊下を歩き出す。

 廊下の先に見える神滅課事務所の扉は開け放たれていて、ちょこまかと動く職員さん達がそこから見え隠れしている。恐らく、井家袋の事件の後始末の手配だろう。

 あたしが記憶を取り戻した時は被害散々だったらしいけど、今回はそこまで建造物の破壊も行われていないし、事件の目撃者も、一人を除いていないはず。ただ井家袋駅が一時的に封鎖されただけ。金額的な損害はでているものの、そこまでの手間はかからない…と、信じたい。

 半ばあたしが勝手に動いたから、やっぱり始末書とかあるのかな。でも、そうでもしないと多分、津島さんを助けることは出来なかった。祥子の二の舞を友人に踏ませるのはもう勘弁してほしいし、もしも今回と同様の事案が発生したら、きっとあたしはまた突っ込んでいくんだろう。

 ってことは、まずは明さんに謝罪かなぁ。那美ちゃんと凪くんにもか。お小言くらいは覚悟しておこう。

 先に事務所に入った蜂須賀さんに続いて、あたしはそろりと、忍び足で事務所の中に入った。そしてまず、事務所奥にある課長席に視線を配る。

 しかし、そこにあると思っていた明さんの姿はなかった。もちろん、津島さんもだ。ということは、二柱の社だろうか。だとすると、既に津島さんは、伊邪那岐様と伊邪那美様、すなわち凪くんと那美ちゃんと会っているということになる。もしかしたら、この時間の間に説明を受けているのか。きっと、神様が小学生であることに一番驚いているのではないだろうか。

 あたしが入り口で周囲を見回していると、職員さんの一人が声を掛けてきた。

「お疲れ様です、名椎さん。課長とご友人は、すでに社でお待ちですよ」

 ほら、ビンゴ。

 あたしは「ありがとう」とその職員さんに返すと、事務所最奥にある赤鳥居に向かって歩き始め、ふっと思い出して先に事務所に入ったはずの蜂須賀さんの姿を探した。

 その蜂須賀さんはというと、自分の事務机に座って、引き出しからなにやら書類の束を取り出していた。蜂須賀さんはあたしの視線に気が付くと、

「ああ、報告書は僕が作っとくから、社に降りやぁ」

と、右手をひらひらさせて微笑んだ。

「でも、なんか悪いよ。それ、あたしも作らなきゃいけないんでしょ」

立ち止まってそう言うと、更に蜂須賀さんが返してくる。

「友達を待たせる方がいかんと思うがね。気にせず行きゃぁ。書類作る機会は、きっとすぐに来ると思うでよ」

 それもそうか。一事件に一書類、やっぱり、公務員のお役所仕事もあるんだなぁ。この先何件も事件を担当することになれば、否が応でも作らなきゃならないんだろう。今回は、お言葉に甘えよう。

 あたしはぺこりと頭を下げると、小走りに赤鳥居を潜った。 


 壁に掛けられた、いくつもの小さな蝋燭が淡く照らす階段を駆け下りる。

 その蝋燭で照らされる範囲は非常に狭く、足下なんかはほぼ暗闇で見えないと言ってもいい。でも、八岐大蛇事件で何度も往復した道だ。階段の高さや幅などは、既に身体がが覚えているんだろう。

 この階段を下り終えれば、そこは日本という国を作った二柱の神、伊邪那岐様と伊邪那美様が降臨する社がある空間に出る。

 しかし、なんか静かだ。

 明さんもいる、津島さんもいる。多分八雲もいるんだろう。そして、凪くんと那美ちゃんも。

 それだけの面子が揃っているのに、声一つ聞こえないってのは何故なんだろう。もしかして、あたしの時みたいに既に記憶を封印してしまった後とか。

 どっちかというと、あたしは当事者だし、あたし抜きで勝手に話を進められるのは困る!

 暗がりの中、ちょっと危険だけど階段を一段飛ばしで降りる。こういうときは、自分の運動神経の良さに感謝したい。

 まるで転がるかのように二柱の社に飛び込むと、あたしは大声で友人の名を叫んだ。

「津島さんっ!」

 大きな篝火で照らされたその赤絨毯の上には、まるで円陣を組むかのように座った五つの影があった。

 想像通りの人員構成。明さんに八雲、津島さん、そして、神祇服の凪くんに、巫女服の那美ちゃんだ。

 しかし…。

 しかし、なんで津島さん以外の全員が全員俯いて、沈黙してるんだろう…?

 マンガで例えるなら、全員の頭の上に縦線の効果が描けるような…。

 あたしが二柱の社の入り口で状況を理解しようとして固まっていると、まるで錆び付いた玩具のロボットが擦り音を立てて動くかのように、明さんが首だけをこちらに向かせて呟いた。

「はは…、ヒメちゃん、いまの女子高生って、元気がいいんだねぇ。ははは…」

 そして、その声を遮るかのように津島さんの怒号が社に響く。

「名椎さんっ!説明してっ!!」

「はっ、はいぃ!」

 その勢いに圧され、直立になって返事をするあたし。

 そしてハッと気が付き、その状況を理解する。

 きっと、あたしが来るまで明さん達は、津島さんから容赦のない質問攻めに遭っていたんだ。彼女も神力を持つ者故に、誤魔化すことも出来ず、だけど当事者のあたしがいないから説明するにも説明できず、それを何とか凌いでいる内にこうなった…と。

 これはもうちょっと、急いで来るべきだったかなぁ。

「あ、あははは~…」

 あたしは少し冷や汗を垂らしながら笑みを浮かべて、頭を掻きつつその円陣に加わり、八雲の隣に腰を下ろした。

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