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暗闇ヲ駆ケル花嫁 第弐部~再覚醒  作者: 喜多見一哉
話之参 <復帰戦(フッキセン)>
21/26

漆  暴露(バクロ)

 あたしと陽子ちゃんは、事務所の上にあるであろう、仮眠室にやってきた。"あろう"と言うのは、あたし自身がまだこの地下の全容を理解していないから。エレベータ移動時の身体にかかるGから考えて、事務所より上の階層にこの仮眠室があることは間違いなさそうだ。先ほど明さんが訓練とかいう言葉を使っていたところを考えるに、この地下には射撃練習場とか、格闘技訓練場、関西支部にあったようなジムがあるのではないかと思う。

 あたしはあのタブレットを貰えたら、この施設を一通り巡ってみる気でいる。もしくは、八雲に案内して貰うのも手かも。

 仮眠室には談話室と寝室、キッチンとお風呂、至れり尽くせりの設備が整っている。勿論、男女別だ。陽子ちゃんは談話室に置いてある卓袱台に、いつのまにガメてきたのか、二つのグラスと一.五リットル入りコーラのボトルをドンと置いた。

「さて、何からお話しましょうか」

陽子ちゃんは卓袱台の前に座り、ニヤけながら呟いた。あたしは彼女の対面に座り、グラスにコーラを注ぐ。

「そこは、おまかせで…っと、いや、順を追ってお願いします」

頭をぺこりと下げ、陽子ちゃんに両手でコーラの入ったグラスを勧める。

「比女先輩が記憶を封印され…気を失った後のことなんですけどね」

 封印されっていう表現は合っているのかいないのか。封印を望んだのはあたし自身であり、あの封印蓋である偽物の湯津爪櫛(ユツツマグシ)を髪に挿したのもあたしの手でだ。まあ、あの時は色々と考えてぐるぐるしてたから、あんまり思い出せないんだけど。あたしが目覚めたのは、普通に自分の部屋のベッドだったし。

「八雲さん、すぐ気が付いたのかな。神滅(カメツ)メンバー全員で、二柱(フタバシラ)の社に降りてきたんです。そしたら、伊邪那岐(イザナギ)様と伊邪那美(イザナミ)様の目の前に、比女先輩が倒れてるじゃないですか。八雲さん、御二方の話を聞く前に逆上しちゃって…」

 逆上?八雲が…?

 あたしは、グラスのコーラを一口啜って、じっと次の台詞を待った。

「"比女に何をしやがったー!"って怒鳴って…」

 陽子ちゃんが一息置いた。ああもう、焦らさないで!

 そして、口に手を当てて、くすっと笑った。

「…殴っちゃったんですよ。伊邪那岐様を。手加減無く全力で」

……マジ?

 あたしは、目を丸くした。曲がりなりにも、神滅課のシンボルであり崇拝するべき父を、殴った…?

 あたしの表情を見て、陽子ちゃんが声を上げて笑った。 

「ウソじゃないですよ、ホントです。まるで神憑(カミツキ)に襲いかかる勢いでした。だって、伊邪那岐様は数メートル吹っ飛びましたからね」

「あ…んの、バカ……」

 わなわなと拳を握りしめて言ってみるものの、八雲の反応は至極当然だと思う。なぜなら、その前日にあたしは「八雲と一緒に神滅として生きる」って約束してるのだから。

 だから、あたしの意見を無視して、凪くんが強制的にあたしの記憶を封じたと勘違いしたのだろう。

 あたしは何ともやるせない気分になり、グラスのコーラを一気に呷って新たに注ぎ直した。凪くんが八雲に殴られたのは、あたしが八雲との約束を破ったからなのだ。う~ん、後で凪くんに謝っておこう…。でも、"きっと八雲はゴネる"とは思っていたけど、まさか一足飛びで殴ってしまうとは。それも小学生に。

「でも、あれはあたし自身が望んだことなんだよね…。なんだか、凪くんに申し訳ないわ…」

「ええ、それも伊邪那岐様から聞きましたよ。かなり後…八岐大蛇(ヤマタノオロチ)事件の事後処理が落ち着いた頃でした」

 陽子ちゃんもグラスを空にした。すかさずあたしがコーラを注ぐと、彼女は小さく頭を下げた。

「でも、その時の伊邪那岐様は、"自分が強制的に記憶を封印した"の一点張りでした。そして、何度も八雲さんに頭を下げていましたね。余りにも真剣に頭を下げるものだから、八雲さんも毒気を抜かれちゃって…。そのまま、バツが悪そうに帰っちゃったんです」

「子供かぁ!」

 思わず突っ込んでしまった。せめて事情の説明を求めるとか、凪くんに謝るとか、すべき事はあったでしょうに!

「で、その後…八雲さんが帰った後ですね。あたしたちは伊邪那美様から説明を受けました。比女先輩は事件に巻き込まれただけの一般人だから、元の生活に戻らなければならないって。恐らく、あの方達の本心だったんでしょうね」

そう言って、彼女は更に一口コーラを喉に流し込み、卓袱台に突っ伏した。

「…でも、ちょっと寂しくもありました。比女先輩、叔父さんが亡くなったとき、私を一生懸命慰めてくれましたし。あれは嬉しかったですよ~」

突っ伏したままあたしを見て、陽子ちゃんがえへへと照れ笑いをする。

「それで、そのあと伊邪那美様が私たちに言いました。"でもきっと、ヒメお姉ちゃんはここに帰ってくるよ"って。その通りになりましたね」

「…そうだね。だけど、この一件に関わっていなかったら、まだ記憶は戻ってなかったと思う。そう考えると、友人達にも感謝なのかなぁ。あ、稲田姫(イナダヒメ)素戔嗚(スサノオ)様にもか。夢ん中で激励してくれたし…」

そう言うと、陽子ちゃんがぴくりと反応した。

「そういえば、新課長(あきらさん)に変なこと聞いてましたよね。自分くらい神力が見える人がいたらとかどうとか…。もしかして、その友人さんの話なのですか?」

 う、鋭い。ダテに最年少で神滅やってないか…。あたしは誤魔化そうか悩んだ。ここで話してしまって、陽子ちゃんから明さんや那美ちゃん、凪くんに話が伝わったら十中八九、スカウトに乗り出すだろう。只でさえ人員不足なのだから。

 しかし、陽子ちゃんなら口止めすれば大丈夫…かな。あたしは、こくんと頷いた。

「同じクラスにいるんだよ。偽物湯津爪櫛の神力や、封印状態のあたしの小さな神力をバッチリ視る人が…。本人はその力を嫌っているみたいだから、出来ればこっち側に引き込みたくはない…かな。でも明日登校したら、あたしの神力視てビックリするんだろうなぁ、彼女」

「へぇ~、女の子なんですね。名前は…」

津島(つしま)絵美(えみ)ちゃん。この子とも、例の噂話の一件で仲良くなったんだ。もう一人いるけど、彼女は完全な一般人で…三人で、この噂話の謎を解くんだ~って息巻いてた。もう、手を引くように言ったんだけどね」

陽子ちゃんが頷いた。

「ですね。もう、一般の人が関わっていい事件ではありません。ですけど、凄いですね。伊邪那岐様が封じた比女先輩の神力を見抜く…ですか。よっぽどの神力を持っていないと、そんな芸当できませんよ!かなり強力な神様の眷属なのか、それとも比女先輩のように神様の転生なのか…どっちかは解りませんけど。今度、紹介してくださいね」

「うん。でも、スカウトしちゃだめだよ。上の人にチクってもだめだからね?」

あたしが半眼で陽子ちゃんを睨むと、彼女は慌ててぶんぶんと両手を振った。

「しませんよ!だけど、興味あるじゃないですか。私たちと同じ力の持ち主なんて…」

陽子ちゃんが振った手を止め、じっと見て拳を握る。

「そうだね。しかし、八雲の弱みを握れるかと思ったら…弱みを握るどころか、あたしが自ら墓穴を掘った話だった…。う~、凪くんにも八雲にも、謝った方がいいなぁ」

今度はあたしが卓袱台に突っ伏す。すると陽子ちゃんは笑って、

「そうですね。一度は謝った方がいいかも。よっぽど大切にされてるんですね、比女先輩。羨ましいです」

「大切に…ねぇ。過保護の間違いじゃない?」

「かもです」

あたしと陽子ちゃんはお互いに吹き出し、声を上げて大笑いした。

「よし!」

あたしは卓袱台に手を付き、立ち上がる。

「寝ようか。明日も学校だし、休む訳にはいかないっしょ?」

「はい!私、ベッドにお布団用意しますね。比女先輩はお先にお風呂どうぞ。タオルとかは脱衣所にありますから!」

「うん、ありがたく使わせて貰うわね」

言って、あたしはバスルームと書かれたドアを開けた。


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