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暗闇ヲ駆ケル花嫁 第弐部~再覚醒  作者: 喜多見一哉
話之参 <復帰戦(フッキセン)>
20/26

陸  宴会(エンカイ)

 あたしの歓迎会と称された宴会は、最初から最後までクライマックスで混沌(カオス)と化した。

 二柱(フタバシラ)の社から戻ると、既にその場にいたみんなはほぼ出来上がっていて、特に大庭さんの絡み酒がヒドかった。相方の蜂須賀さんにいきなり説教をし始めるわ、明さんに人生を語り出すわ、挙げ句の果てにはおやっさんの最後を思い出して号泣し、唐突にソファに倒れ込んでいびきをかき出す始末。

 ハタチ以上の年齢の人たちは、大庭さんを除いて適度にお酒を楽しんでいたようだ。普段はいつ招集がかかるか解らないため、お酒を余り飲めないらしい。八雲も然り、あの明さんでさえも缶ビールを数本開けていた。今日は既に二回もの神憑(カミツキ)の襲来があったので、警戒をワンランク緩めているそうだ。あの八岐大蛇事件以来、一日に二回以上の襲撃があったのは、今日を除いてこの一ヶ月なかったらしい。だけど、現在でも神滅課職員(くろふく)さん達はその人数こそ減らしているものの新塔京中に散っていて、有事にはすぐ連絡が入るようになっていると明さんは語った。

「うん、そう言うときは僕が出るよ。だからお酒呑む量をセーブしているのさ」

と、サラリと言うが…。明さんの目の前には、空き缶が既に五本。大丈夫なのかと八雲に問うたら、

「ああ…、明のヤツ、かなりの蟒蛇(うわばみ)だからなぁ。これくらい、呑んだ内に入らないんだろうよ」

と、これもまたサラリと答えられてしまった。

 ってか、現場に行くには例の緊急自動車扱いのサイドカーで走るはず。それって、飲酒運転にならないの…?

「何を言ってるんですか課長、その時はわたしたちが出ますよ。この神滅課から不祥事を出したくないですから!飲酒運転って、罰金一〇〇万円ですよ!?それに今は懲役もつくんですからね!」

そう横槍を入れたのは陽子ちゃんだった。そっか、未成年グループもいた。未成年は未成年で、夜一〇時までしか活動出来ないという(しがらみ)があるんだけれど、飲酒して捕まるよりはマシなのか…?そもそも、ここは国家機関であり、緊急時にそういう法律が適用されるのかすらも疑問。

 しかし、弱ったなぁ。どんどん帰りづらくなってきちゃった。一応とはいえあたしは主賓扱いだし、流石にそろそろ、家に連絡入れないとマズいだろうなぁ。

 そんなふうにあたしが頭を悩ませていると、それを悟ったのか八雲がウイスキーの入ったグラスを片手にささやく。

「どうかしたのか?」

明さんを蟒蛇だと言った八雲も、ウイスキーを開けている割には顔色一つ変えていない。相当お酒には強そうだ。

「実は、文房具を買うってウソついて家を出てきちゃったのよね。かなり時間経ってるし、連絡の一つでも入れておかないといけないなぁって」

「ああ、なるほど…」

「まさか、こんな展開になるとは思ってなかったし。最悪、アンタに会ったことにして八雲んチに泊めて貰おうかなって思ってたんだけど…。その様子だと、サイドカー運転できないでしょ?」

あたしは、彼の持っているウイスキーのグラスをつつく。

「まあ、言い訳はオレに会ったことで十分通じると思うけどな。親公認な訳だし。なんだったら、ここの仮眠室に泊まってけよ。そんで、明日の朝イチで家まで送ってやるから。陽子も泊まっていくだろうから、たまには女同士で親睦深めたらどうだ?オレもある程度呑んだら、そこでバタンキューだ」

 そういえば、仮眠室なるものもあったっけ。八岐大蛇事件の最中に、一回使ったことがあるけど。こんな事なら、お泊まりセット持っているべきだったよ…。下着とかの着替えどうしよう。朝に着替えるなら、まあいっか…。

 ふっと事務所内を見渡すと、凪くんと那美ちゃんの姿がいつの間にか消えていた。時計を見ると、既に二一時を過ぎている。流石に小学生にこの時間はきついか。しかし、神力を使っての瞬間移動(テレポート)。便利なんだろうなぁ。

 結局、この宴会の中で一番盛り上がったのは、やはり八岐大蛇事件の話題が上った時だった。この事件はあたしが当事者であり、被害者であるから話題について行ける。そもそも、この事件に巻き込まれたからこそ、今の人生があると言っても過言ではない。

 もしもあの時、親友の祥子と一緒に放課後に買い物に出かけなかったら…。

 色々と、人生変わっていたんだろうなぁ。祥子は死ななくて済んだかも知れないし、あたしがこうして神滅(カメツ)課と関わることもなかっただろう。あたしが稲田姫(イナダヒメ)の生まれ変わりだってのも明らかにならなかったに違いない。でも、八雲とは出会えて無かったことになるのはちょっとだけキツいかな。

 何杯目かのオレンジジュースをグラスに注いで、ちびちびと啜る。八雲と明さんはなにやら戦いのことで話に花を咲かせているし、蜂須賀さんと直樹くんは、どうやらコンピューター関係の話題を喧々囂々と討議していた。ソファでは大庭さんが大いびきをかき、陽子ちゃんはみんなに食事を配ったりして、世話を焼いている。

 あたしは大庭さんが占拠している反対側のソファに腰を下ろすと、その光景をぼーっと眺めた。あたしには、まだみんなとそこまで砕けて化かし合えるだけのキャリアがない。こう考えると、少し寂しかった。

 そんなあたしに気が付いたのか、陽子ちゃんがサイダーが入ったグラスを片手に寄ってきて、あたしの隣にぽすんと腰を下ろした。

「比女先輩、疲れましたか?」

慣れない呼ばれ方に、あたしの方がきょとんとしてしまう。

「…先輩?陽子ちゃんのほうが先輩でしょ」

神滅課(ここ)ではそうですけど…。でも、今はもう同じ高校に通う者同士ですから」

「ああ、そっか…。そうだったね。入学おめでとう」

「ありがとうございます!入試が難しくて、ホント大変でしたよ~。でも、あこがれの成城(せいじょう)高校ですから、頑張りました!」

そう言って、ガッツポーズをする。

「…あれ?今回の事件を調べるために入ったわけじゃないんだ。校門のところで、八雲とコンタクト取ってたでしょ?」

「あ、やっぱり、見られてました?」

陽子ちゃんが可愛く舌を出す。

「この事件と、比女先輩の事が無くても、わたしは元々成城一本でしたよ。それに、今回の事件は、どの高校に行っても同じ状態です。直樹んとこもそうらしいですから。だから偶然…って言ったらおかしいですけど、目の前にある問題だけでもかたづけていこうと思って。八雲さんと話していたのは、この事件の進捗(しんちょく)状況ですよ」

「なるほど~。あたしはてっきり、八雲が浮気に目覚めたのかと…」

その台詞に、陽子ちゃんが声を上げて笑った。

「あはは、それは絶対、一〇〇(パー)ないですよ~。だって八雲さん、比女先輩にベタ惚れですもん。やっぱり、時代が変わっても素戔嗚尊(スサノオノミコト)と稲田姫ですよね。比女先輩が記憶を封印したときなんて…」

と言いかけて、はっと口を手でふさぐ。そして、八雲の方をちらりと一瞥した。

「…ん、なになに?」

「う~ん、言っていいのかなぁ」

「いやいやいや、そこまで言ったら言おうよ!気になるじゃん!」

陽子ちゃんはちょっとだけ視線を泳がせ、そしてう~っと唸った。

「……うん、言っちゃおう。でも、八雲さんには絶対ナイショにしておいてくださいよ。比女先輩、泊まっていきますよね。だったら仮眠室行っちゃいましょ。どうせこの宴会、まだまだ続くでしょうから。そこでお話しますよ。きっとビックリするぞ~」

 くくくっと、陽子ちゃんが不敵に笑う。

 …陽子ちゃんの笑みも気になるけど、一体どんな話なんだろう。もしかしたら、八雲の弱みを握るチャンス!?

 あたしは力一杯に頷くと、陽子ちゃんを伴ってこっそりと事務所を出た。


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