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暗闇ヲ駆ケル花嫁 第弐部~再覚醒  作者: 喜多見一哉
話之弐 <再覚醒(サイカクセイ)>
10/26

参  報告(ホウコク)

 四限目の終了を告げる鐘が鳴った。さて、これからが本番だ。

 あたしは津島さんの席まで移動し、彼女に声を掛ける。津島さんは自分のバッグからお財布を取り出す。

「じゃあ、さっきの打ち合わせ通りにね」

そう津島さんの耳元でささやいた。彼女は頷くものの、少し表情を曇らせて、

「でも、なんだか(たばか)ってるみたいで、ちょっと気が引けるよね…」

とささやき返してくる。

 確かに、その通りではあるのだけれど、この際は仕方がないと割り切るしかないと思う。どっちにせよ、相田さんの出方次第。彼女が少しでもあたしたちの言う事を信じてくれれば全てを打ち明けるし、もし信じて貰えないのなら、これ以上相田さんを巻き込む事は出来ないと判断するしかない。

 津島さんの言葉に、あたしも苦い顔をするが、ここまできたら、開き直るしかない。もう、被弾して大破して、更に轟沈する覚悟を決めないと。轟沈、すなわち相田さんと友達の縁を切られるって事だけど。果たして、彼女はそこまでするだろうか…。

 あたしたちは揃って相田さんの席まで歩き、鞄の中からお弁当箱を取り出そうとしていたその女の子に、なるべく明るく声を掛ける。

「お待たせ、相田さん!」

相田さんは顔を上げ、「うい~っす」と返事を返してくる。そしてお弁当箱を抱えると、席を立った。

「あたし購買行ってくるから、二人で先にいつものトコ行ってて」

「え、私も今日は購買なんだけど…」

と、津島さんの台詞。ってことは、今日はお弁当持ちは相田さんだけなのか。

「だったら、わたしも行くよ。プリン欲しい~」

「えっと…太るよ?」

津島さんが、相田さんに突っ込みを入れた。それに相田さんは笑って、

「大丈夫、甘い物は別腹だから。それに、プリンのない人生なんて考えられない」

あたしは「別腹でもカロリー摂っちゃうでしょ!」と、言いたいところをぐっと堪えた。なぜなら、今日は自分もプリンを買おうと思っていたからだ。ここで突っ込みを入れて、購買であたし自身がプリンを買ってしまったら、相田さんから更に強烈な突っ込みが入る事だろう。

「じゃ、三人で行きますか」

言って、あたしは二人の真ん中に入って腕を取った。

 あたしたちの通う成城高校の購買は、本館一階と別館一階を繋ぐ渡り廊下の途中にある。ちょっとしたコンビニエンスストア並みの品揃えを誇るので、昼休み、下校時などは、生徒たちでごった返す人気の場所だ。入り口はガラス張りの自動ドアだし、店内はお弁当コーナー、おにぎりコーナーやお総菜コーナー、パンコーナー、飲み物やお菓子、更にはアイスクリームまで、幅広い品物を取り扱っている。取り仕切っているのは"購買部"という部活動に所属する生徒だ。生徒会直属の部活で、ここだけは絶対に廃部になることはない。

 あたしたちは購買に入ると、バラけて好きな物のコーナーに走る。今日のお昼は、おかかのおにぎりとツナマヨのおにぎり。トマトジュースにプリン。たくさんいる生徒の間を縫って走り、それだけの品物をひょいひょいとピックアップして、レジに並ぶ。既にあたしの前には、男子女子、含めて四人の生徒が列を作っていて、自分の番に回るまで五分くらいはかかるだろうと予想する。出来れば、昼休み時間をたっぷり使って話し合いたかったのだけれど、この様子では相田さんと津島さんが買い終わるまで、もっと時間がかかるかも知れない。

 そして、やっぱり五分ほどかかってあたしの番になり、会計を済ませる。お昼ご飯、締めて三六〇円。さすがに、街中のコンビニよりも安い。あたしはレジ袋を抱えて購買を出ると、不思議と目の前には、レジ袋を手に提げた相田さんと津島さんがいた。

「あれ、なんで?」

言うと二人はにやりと笑い、

「時間のかかる列にわざわざ並んでるんだもん、コッチの方が早いよ。知らなかった?名椎さんの並んでた列の部員さん、今年の新入生だよ」

「なん…だと…?」

あたしはあんぐりと口を開けた。よーするに、あたしは新入生のレジ打ちの練習台になったってことか。

「まあ、これで新入生のスキルアップに繋がったって思えばいいじゃない」

津島さんがまるで同情するように、あたしの肩にぽんと手を置く。なんともやるせない気持ちになり、あたしは数回地団駄を踏んだ。


 屋上に移動したあたしたちは、とりあえず昼食を摂る事にした。レジャーシートを敷き、その上に三人が円になって昼食を広げる。ほとんど無言で、あたしたちは買ってきたご飯と、お弁当を平らげ、ドリンクを飲んで三人ほぼ同時に、大きく息を吐いた。

「さて…報告会といきましょか~」

あたしが、デザートのプリンのフタを開けながら言うと、まず相田さんが「はい!」と手を挙げた。

「報告会よりもまず聞くんだけどさ。津島さんが言ってた、わたしに何かが取り憑いてるっての、あれって結局なんなの?」

 あたしは、その言葉に驚く。きっと、相田さん自身はその話を回避してくると思ったからだ。その一言には、津島さんも驚いたようだ。さすがに慌て、どもりながらも手を振りながら言う。

「だ、だから、あれは私の勘違いだって…」

「ウソ」

津島さんの言葉を遮る。

「なんかね、引っかかってたのよ。これ、朝に名椎さんにも言ったんだけど、名椎さん、その時にちょっと反応おかしかったでしょ。霊感とかどうとか、まるで誤魔化すみたいな返答だったし」

 よく見てるなぁ…って、感心してもいられない。一番言いにくい事を、一番先に持ってくるとは、つくづく食わせ者だわ。あたしと津島さんは顔を見合わせ、どう言ったものかと思案する。相田さんは更に続けた。

「一限目の放課、わざわざここまで来て話し合ったのはなぜ?昼休み誘う話だけなら、教室でもできたじゃん?」

その追い打ちに、あたしと津島さんは小さくなる。

「え…えっと…」

津島さんが口を開き掛けた。

「別に、怒ってる訳じゃないよ。ただ、三人でこの噂話をどうにかしようって言ったんだもの。わたしだけ仲間はずれはイヤだなって思っただけ。だから、話して。そのあたしに取り憑いてるってやつが何か。津島さんと、名椎さんがどんな秘密を抱えてるのか」

相田さんが、一口ペットボトルの紅茶を飲む。津島さんが恐る恐るさっき言いかけたであろう言葉を口にした。

「言ったら、信じて貰える?どんな話でも?」

相田さんは頷き、

「極力、理解する努力をするよ」

と言った。あたしは溜め息をつくと、ゆっくりと相田さんの左肩を指さす。

「相田さん、左肩、重くない?」

今もあたしと津島さんには、相田さんの左肩に宿る赤いオーラが見えているのだ。少なくともあたしと津島さんは、そのオーラが宿っているとき、左肩がずいぶんと重く感じた。

「ちょっとだけね。なんか、筋肉痛みたいな重さがあるけど…」

「だったら、これでどう?」

あたしは、髪に挿してある湯津爪櫛を引き抜くと、それで相田さんの左肩に触る。ぱぁん!と音がして、その赤いオーラははじけ飛んだ。その現象を確認し、あたしは再び湯津爪櫛を髪に挿し直す。

「…あれ?急に軽くなった…」

相田さんが自分の左肩を触って、左腕をぐるぐると回す。

「だろうね。それは、あたしが今、その"取り憑いたモノ"を浄化したからだよ。あたしは、その取り憑いたモノを消せる力を持ってるみたい。津島さんは、それを視ることができる。相田さんはたった今、体験したんだから解るでしょ」

「…マジで、霊感とか、そういうやつ…?」

「霊感なのかどうかは解らないよ」

説明役が、あたしから津島さんに変わった。

「私は、小さい頃から変なモノが見えた。それが幽霊なのか、他の何かなのか、今でも良く分からないけど、今回のこの噂話騒動で特に実感したの」

「津島さんもあたしも、噂話を実際に試した人の左肩に、赤色のオーラのようなものが取り憑いているのを確認したんだ。朝、あたしは相田さんが噂話を実行したの、当てて見せたでしょ。左肩にみえてたからだよ、ソレが。あの時は、さすがに言葉を濁したけどね」

 あたしたちが余りにも真剣に話すものだから、相田さんも茶化したりはしなかった。この話を、きちんと聞いてくれている。

「いきなり信じろとかは、流石に言わない。でも、ウソだとかは思わないで欲しいし、避けたりもしないでほしい…かな」

あたしは、ちょっとだけ苦い顔をしながら、頭を掻く。

「別に、そんなことするつもりはないよ。ただわたしは、隠し事がイヤだっただけ。二人がそういう不思議な力持ってるなら、それはそれでいいと思うし」

「そっか…」

「そうよ」

ちょっとだけ、沈黙の間があった。そして、話題を切り出してきたのは、相田さんだ。

「さて、話もわかった事だし、ここからが報告会だね。その話を聞く限り、二人もきちんと試したようだし。教えて貰いましょ~」

 一変して、相田さんの顔に笑みが戻った。あたしと津島さんは、頷くと、自分にあった出来事を話し始めた。


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